【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

第44回 2021年のタイの自動車販売、生産の見通し

直近の自動車販売状況

2021年5月のタイの自動車販売は前年比38.4%増の5万5,948台となり、1~5月の累計は前年比13.9%増の30万8,217台となった。しかし、コロナ前の19年と比べると、累計では3割減と回復にはまだほど遠い。19年~21年5月までの平均販売台数は約7万3,000台だが、21年で同水準を超えたのは3月のみである(図表1)。

タイの自動車販売台数の推移(2019年1月~21年5月)

セグメント別では100万~120万バーツの価格レンジのピックアップベースのSUV(PPV)の累計販売台数が前年比7割増と好調である一方で、50万~60万バーツのエコカーを含むBセグ(1,500cc以下)では前年比2%減と、低価格乗用車セグメントの回復の遅れが目立つ。ピックアップは前年比14%増と安定推移しているが、ピックアップの中でもダブルキャブの成長率が高く、全体的により高級なタイプにシフトしていることが窺われる。

背景としてはコロナ禍は低所得層により影響が大きく、所得格差が一層広がったことが挙げられる。特にコロナ禍の長期化で家計所得に占める負債比率は、21年の第一四半期に90.5%に達し、18年ぶりの高い水準に達した。また、消費者信頼指数も6月には43.1と、通貨危機後の1998年11月以来の最も低い水準に落ち込んだ。

家計負債比率が上がるとローン会社は審査条件を厳しくする傾向にあるが、今のところ金融当局から厳格化の方針は出ていない。負債比率の上昇と消費マインドの低下で、ローン審査以前にそもそも購入を諦めるか、延期する顧客が増えていると推測される。

メーカー別でも主要車種によって明暗が分かれた。特にPPVを中心とするSUVやピックアップの販売が好調なトヨタ、いすゞは1~5月の累計販売ベースでそれぞれ前年比26%、33%伸ばしたが、供給問題もありホンダの乗用車は伸び悩んだ。日産と三菱は、ピックアップなどでの落ち込みが特に影響し、それぞれ2割、1割落ち込んでいる。中国系のMGはSUV中心に販売が好調であり、38%増と健闘している。

21年後半も7月以降のロックダウンの強化でV字型回復は期待できないことから、タイ工業連盟(FTI)は販売見通しを75万台に据え置いた。

他方で、生産は輸出の好調で1~5月の累計ベースで前年比32.9%増で推移しており、19年からの平均生産台数は、21年1月から4月を除くと上回っている(図表2)。

タイの自動車生産台数の推移(2019年1月~2021年5月)

地域別では豪州、アジア、中近東向けへの輸出の回復が目立つ。

しかし、世界的な半導体不足とアセアン地域でのコロナ禍の再拡大で部品供給が滞り、輸出を中心とした生産のV字型回復にも暗雲が立ち込めてきた。FTIは生産見通しを150万台から155~160万台に上方修正したが、状況次第では下振れリスクもある。

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