【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

第46回 カンボジア自動車市場の最新動向

タイなどのASEAN主要国は厳しい中古車輸入規制により国内自動車業界を保護している。一方、カンボジアでは規制がほとんどなく、老朽車や事故車なども含む中古車が大量に流入して「中古車天国」と呼ばれている。しかし近年、政府も登録・車検制度などを強化、新車市場も伸びて変化の兆しが出ている。

輸入台数と登録台数のギャップ

現地誌カンボジア・タイムズによると2020年1月現在、この1年間で新規登録された自動車は99,000台、うち乗用車は93,000台、商用車は6,000台となっている。そのうち、新車登録台数は1~2万台程度と推測される。一方、19年の輸入台数は46,000台と、数万台のギャップが生じている。

この謎を解くのが、統計に表れない中古車の輸入である。現地情報によると多くはアメリカの保険会社から流れてくる事故車で、コンテナにタイヤを外して積まれ税関に車として申告されていない可能性もあるという。すると関税が安く、転売すれば大きな利益となり、有力者の利権の温床にもなっていると指摘されている。

カンボジアの輸入台数

図表1の輸入台数の推移を見ると、17年に関税引き上げで大幅に減少したが、19年以降増大に転じている。ただ、現地ではより廉価な新車モデルの発売により、新車市場も活況を呈しているようである。現地誌によれば、新車ディーラーでは毎年15~20%販売が伸びているという。

2020年以降の政府の取り締まり強化

今後中古車中心から新車市場への移行を後押しすると期待されるのが、政府の車両取り締まりの強化である。これまで、カンボジアではナンバープレートのない車も街を走っていたが、20年5月に道路交通法を改正。名義変更がきちんとされていなければ罰金が科せられるようになった。また、同年3月から車検を強化し、車検を期限内に受けていない車に対する罰則が強化された。

さらに22年1月から、輸入車に対して排ガステストが義務化され、中古車にも適用されるようになると、老朽車の輸入規制に繋がる。

もちろん、楽観は禁物である。例えば、日本からの技術支援もあり車検場は20ヵ所近くに増えたが、JICAの調査書によれば検査項目や検査員のスキルが不十分で、整備工場の制度も整っていない。さらに先述の中古車の輸入に対しても、まだメスが入れられていない。また、国連関連機関UNDPの調査によると、19年に交通事故による死亡者は2,000人に達し増加傾向にある。

タイにとっても有望な市場

カンボジアでは日本車のニーズが高く、輸入乗用車に占める割合は約5割に達する。特に新車では日本から輸入されるトヨタ・ランドクルーザー・プラドや、アメリカから中古車輸入されるレクサスRSなどの高級SUVが人気だ。

しかし、最近ではタイからピックアップの輸入が増えており、19年にはピックアップを含むタイからの輸入商用車は1,300台に達している。新車市場の拡大を見込んで、21年9月にフォードの販売代理店RMAが組立工場の投資計画を政府に申請した。フォードのピックアップやSUVを約4,500台生産する計画である。

カンボジア市場への注目は今後一層高まると筆者は見る。その理由として、近年の高い経済成長率の伸びやその背景となる中国を中心とした活発な直接投資に加えて、ニューフロンティア市場として人気の高かったミャンマーの政変である。

ミャンマーでの事業拡大が困難になる中で、その埋め合わせとしてカンボジアの重要度が上がるからだ。特にタイから見れば、カンボジアの市場は魅力的である。今後中古車輸入規制が強まれば、タイからの輸出拡大にもつながることから、日系メーカーにとっても現地の事業機会が拡がることが期待される。

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