著作物に生じた権利は、日タイ両国において相互に保護を受けることができるが、保護の内容、侵害時の対処法等について、両国には若干の相違が存在する。
今回は、日タイの著作権法において、特に異なる規律が適用されている点について解説する。
職務著作の帰属先の違い
会社の業務上、従業員に何らかの著作物の作成を命じる場合があり、このような過程を経て完成した著作物を「職務著作」と呼ぶ。この「職務著作」の権利が誰に帰属するのかについて、日本とタイとで著作権法上の規定が異なっているため注意が必要である。
具体的には、原則として日本では会社に帰属するのに対して(日本著作権法15条)、タイでは従業者に帰属すると定められている(タイ著作権法9条)。
そのため、何の対策も行わなかった場合、「業務の過程で作成した著作物を使用しようとしたら、従業者から著作物使用の停止を求められた」という事態も生じかねない。
このような事態を避けるため、契約・規則等で権利の帰属を明確にしておくことが望まれる。
なお、業務等の委託により創作された著作物の著作権の帰属も、日本とタイで規定が異なっている。
タイでは、別段の合意がなければ委託者に帰属し(タイ著作権法10条)、日本ではタイ著作権法10条のような規定がないため、原則通り創作者が著作者となり著作権を保有することになる。
この点も大きな違いであり、業務委託の場合、契約書に著作権の帰属について明記しておくことに留意が必要となる。
模倣品への対応
タイ国内において、自ら(自社)の著作物が模倣されているのを発見する場合があるかもしれない。
このような場合、民事訴訟等により差し止めを求めることも可能だが、タイではタイ警察の経済犯罪取締部(ECD)やテクノロジー犯罪取締部(TCSD)に告訴を行い、刑事手続に乗せることが、証拠隠滅防止等の観点から有効とされている。
ただし、著作権侵害であるとの告訴が受理されるためには、タイ特許庁(DIP)にその著作物の真正な権利者として「登録」されているかどうかが重視される。
著作権自体は登録なく自然発生する権利であるが(無方式主義)、実効的な保護を図るためには、DⅠPへの「登録」が重要な意味を有するということである。一方、日本の著作権登録制度はあまり活用されておらず、対照的といえる。
なおタイには、刑事手続において侵害者に科される罰金の2分の1を、著作権者が裁判所に請求できるという、日本にはないユニークな規定が存在している。
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TNY国際法律事務所
日本国弁護士・弁理士
永田 貴久京都工芸繊維大学物質工学科卒業、2006年より弁理士として永田国際特許事務所を共同経営。その後、大阪、東京にて弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所を設立し代表社員に就任。16年にタイにてTNY Legal Co., Ltd.を共同代表として設立。TNYグループのマレーシア、イスラエル、メキシコ、エストニアの各オフィスの共同代表も務める。
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