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SDGs債、世界で急増 環境債一辺倒から多様化

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投資家に発信チャンス
国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する事業に資金使途を絞った債券「SDGs債」の発行額が世界で急増している。国内では菅義偉首相による2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)宣言などを機に起債が加速。世界全体の発行額に占める日本の割合は数%にすぎないが、関連債券まで含め種類は多様化。企業は資金調達における脱炭素化への対応を積極化できる環境ができつつあり、投資家に発信するチャンスでもある。(高島里沙)
 20年の世界全体での発行額は約5,189億ドル(約57兆円)に上る。21年は1~7月ですでに20年の発行額を上回っており、通年では前年比倍増で着地しそうな勢いだ。
一方国内では、20年度(20年4月~21年3月)の発行額は約2兆3,000億円だったが、21年度は8月1日時点までで約6,800億円と鈍化気味。20年度は新型コロナウイルス感染症の影響で起債ニーズが多かった反動減がある。ただ、SDGsに関する債券が多様化していることが追い風になるとの見方がある。
従来はグリーンボンド(環境債)の発行が大半を占めたが、20年度からは新型コロナの影響を受け、ソーシャルボンド(社会貢献債)やサステナビリティボンド(環境債と社会貢献債)の割合が増えている。みずほ証券サステナビリティ戦略開発室の伊井幸恵室長は、21年度の国内発行額について「起債環境によっては3兆円に達する可能性もある」とみる。
さらに国際協力機構(JICA)は21年9月、ジェンダー平等や女性支援のためのジェンダーボンドを起債する。みずほ証券の香月康伸SDGsプライマリーアナリストは「ジェンダー平等は古くて新しい議論だが、女性が弱い立場に置かれやすいコロナ禍だからこそ注目されている」と指摘する。
資金使途が特定されるSDGs債以外にも、制約のないサステナビリティ・リンク・ボンドや脱炭素社会への移行(トランジション)を目指すトランジションボンドも市場に出てきた。
7月には日本郵船が国内で初めてトランジションボンドを発行した。相当量の二酸化炭素(CO2)を排出せざるをえない企業であっても、技術開発でCO2を削減する移行戦略が評価される資金調達手段として、経済産業省が旗振り役となって推進している。
気候変動リスクや人権問題など企業を取り巻く環境は大きく変化している。グリーンボンドやソーシャルボンドの発行を、単なる企業イメージ向上のための手段として活用する時代は終わりつつある。
「発行体も産業構造の変化に対応できることをファイナンスを通じて投資家へ発信する段階に変わってきた」(伊井氏)と指摘する。
※記事提供:日刊工業新聞(2021年9月9日)

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