【タイ】「タイランド4・0」から「BCG経済」へ= 日本のベンチャー企業進出で注目度高まる(バンコク支局 増田 篤)

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昨年後半ぐらいからタイ政府のイベントや記者会見などで頻繁に出てくるようなったのが「バイオ・循環型・グリーン(BCG)」経済モデルという言葉だ。コンセプトは国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」という世界トレンドのキーワードと近いが、BCGというネーミングはタイ独自か。
スパイバーのインパクト
「スパイバー社がタイを選んだのは先端技術のバイオ産業に対応できるからだ。今後タイのBCG経済モデルを促進することになるだろう」
3月29日、タイ投資委員会(BOI)のドゥアンジャイ長官は、山形県鶴岡市のバイオベンチャー企業「Spiber(スパイバー)」が東部経済回廊(EEC)の工業団地内に建設していた同社初の商業生産工場の開所式に来賓として登壇、同社のタイ進出を歓迎した。
バイオマスを原料に独自の構造タンパク質の新素材を開発し注目を集めているものの、まだベンチャーにすぎない企業のイベントに、日本側からは駐タイ日本大使、日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所長、タイ側からはBOI長官のほか、工業省副次官、タイ工業団地公社(IEAT)総裁、EEC副事務局長ら経済界の要人が顔を揃えた。同社への期待の高さが伺える。
BCGは高等教育・科学・研究・技術革新省が名付けたとされ、2019年末頃からニュースに登場。プラユット首相を含め政府高官が頻繁に言及し、BOIが投資恩典を拡充したり、工業省がBCG担当委員会を設置したりするなど、国を挙げて推進する方針を表明している。
ちなみにBOIは20年12月、BCGを代表する企業として、クリーンエネルギーの旗振り役として注目を集めるエナジー・アブソルートとともに、スパイバーを紹介している。
「タイランド4・0」とタイの強み
タイの現在の経済戦略は「タイランド4・0」と呼ばれ「次世代自動車」「自動化・ロボット」「航空・ロジスティクス」など10~12のターゲット産業を育成・発展させるというもの。20年7月に辞任するまでプラユット政権の経済政策を担っていたソムキット副首相が旗振り役だった。ただ、先端産業のほぼすべてを列挙した総花的印象が強い。
ソムキット前副首相の経済チームの一員だったコープサック元首相府相は3月末に開催された時事トップセミナーで、タイランド4・0のターゲット産業は「多すぎるし、難しすぎる」とし、ロボット産業や航空産業は当面は対象とならず、有望なのは農業・食品などのBCG経済、観光・健康、電気自動車(EV)、ロジスティクス、デジタル化などだとの見方を示した。
BOIによると、20年のBCG産業の投資奨励申請額は前年比17%増の1148億7600万バーツ(約4053億円)だった。同年の投資申請の総額が前年比30%減だったことと比較すると健闘している。タイが経済戦略の重点をBCGに絞ったのは新型コロナウイルス流行に直面、自らの真の強みを農業・食品、医療に見い出したためだろう。
スパイバーが商業生産工場の立地場所としてタイを選んだ理由は原料となるキャッサバが豊富で相対的に安価だったから。タイの主要商業作物はコメの他は工業用途にも使われるサトウキビ、天然ゴム、パーム油、キャッサバなどだ。世界が地球温暖化対策に急激にシフトする中で、植物由来の再生可能エネルギーの原料資源を豊かに持っているタイは自らの強みをBCGというネーミングに託したようだ。
※この記事は時事通信社の提供によるものです(2021年4月30日)
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