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知らなきゃ損する!タイビジネス法務

タイの特許制度(4)

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      当職担当の回ではタイの知的財産権法それぞれについて詳細に説明している。

      今回は、特許権侵害を理由に民事訴訟を提起しようとし、逆に提訴されてしまった場合を前提に関連事項について説明する。

      裁判管轄

      知的財産権訴訟はまず、どの裁判所に訴訟を提起すべきかが問題となる。

      知的財産に関する紛争解決には特殊かつ専門的な知識を必要とするため、日本においては特許に関する紛争処理を、東京地方裁判所や大阪地方裁判所の知的財産専門部及びその控訴審を取り扱う知的財産高等裁判所に集約し、効果的に紛争解決を図っている。

      タイも同様に特許をはじめとする知的財産について紛争が生じた場合はまず、専門的な知識を有する「知的財産・国際取引裁判所(IP&IT Court)」に対して訴訟を提起することになる。

      次いで、知的財産・国際取引裁判所の判断に不服がある場合は上訴を行うことになる。従来は最高裁判所に対する上訴のみを可能とする二審制が採用されていたが、近年の法改正により、最高裁判所への上訴の前段階として「特別高等裁判所」への控訴が可能となった。そのため、現在では三審制が採用されている。

      紛争解決の所要期間・費用

      知的財産に関する紛争は複雑化することが多く、解決までに長期間を要することが多い。特にタイではそれが顕著で、知的財産・国際取引裁判所の判決までに24~36ヵ月、上訴した場合はさらに同程度の期間を要する場合もある。

      特に民事訴訟の場合は弁護士費用も高額となる場合が多い。複雑かつ長期化した場合、日本と同様、1000万円以上の費用が掛かる場合もあり得る。

      これは、タイでは代理人弁護士の費用の算定にタイムチャージ制を取っており、長期化すると弁護士費用が高額となるためである。日本では、タイムチャージ制で訴訟対応を行うことは少なく、一定額の着手金と成功報酬制による場合が多い。

      これらの通り、タイで特許訴訟を行う場合、長期の訴訟期間と高額の費用が生じることを想定しておくべきである。

      特許取消・公知技術の抗弁

      抗弁とは、被告側が立証責任を負う反論のことである。特許取消手続きや、公知技術の抗弁は、特許権に基づく訴訟を受けた場合の対抗策である。

      他者から特許権に基づく権利行使を受けた場合、最も簡明かつ強力な対抗手段は、相手方の特許に無効理由が存することを主張して、相手方の特許権そのものを取り消す手続きを行うことである。これは日本でも取り得る手段であるが、タイにおいても同様に認められている。

      取消手続きまで行わなくても、実施に係る技術が出願前に公知技術となっていることを立証すれば、これを侵害訴訟の裁判中において抗弁として主張し、相手方の請求を棄却させることもできる。

      先使用権

      特許権者の出願前に、他人の特許発明を知らないで自ら特許製品の製造等をしていた場合、先使用権を主張することで侵害の事実を免れることができる。

      この場合、他人の特許出願前に先使用していた事実をいかに立証するかが問題となる。他者の特許出願に先駆けて自らが出願しておけば確実に日付を立証可能だが、出願すると発明の内容が公開されるため、自らは技術を秘匿化しておきたい場合等はそうはいかない。

      この問題に関して、日本には公証制度やタイムスタンプサービスが存在するため、「事実実験公正証書」等を利用して、ある一定の年月日にその技術を使用していた事実を公的に証明可能である。

      ただ、タイにはこのような制度が存在しないため、どのようにして対策すべきか頭を悩ませることになる。

      考えられる手段として、一つは特許製品を製造した日時等を示す記録等、日付の立証を容易にする書類を普段から整理しておくことである(これは日本において先使用権を主張する場合も同様であり、基本的な対策方法である)。

      もう一点、弁護士による公証サービス(NSA)を利用することも考えられる。これは、日本における事実実験公正証書とは異なり、署名の真正性と文書の存在を証明するためだけに利用されるもの(日本の私署証書認証のようなもの)であるが、先使用の立証の一助となる可能性もある。もっとも、タイでは未だ先使用権についての証明力が争われた最高裁判例がないため、実際どれほど効果的かは不透明と言わざるを得ない。

      なお、日本の先使用権は実施の事業の準備をしていたことを立証すれば認められるが、タイは実際に特許製品を製造し、特許方法を利用し、または製造機器を取得しておかなければ認められない。

      すなわち、準備をしていた点のみを立証しても先使用権が認められないため注意が必要である。

      寄稿者プロフィール
      • 永田 貴久 プロフィール写真
      • TNY国際法律事務所
        日本国弁護士・弁理士
        永田 貴久

        京都工芸繊維大学物質工学科卒業、2006年より弁理士として永田国際特許事務所を共同経営。その後、大阪、東京にて弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所を設立し代表社員に就任。16年にタイにてTNY Legal Co., Ltd.を共同代表として設立。TNYグループのマレーシア、イスラエル、メキシコ、エストニアの各オフィスの共同代表も務める。

      \こちらも合わせて読みたい/

      タイの特許制度(3)

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