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ゼロエミッション輸送の実現へ EVトレーラーによる輸送をスタート

コンテナや大型建機などの積載・輸送が可能な電気駆動(EV)のトレーラーを使い、二酸化炭素の排出量削減に取り組む日系のロジスティクス企業がある。横浜市に本社を置く大手物流会社「日新」のタイ法人Siam Nistransだ。1回の充電で数百キロの走行が可能。燃費も大幅に改善できるという。EVトレーラーによる大型建機の輸送はタイでは初めての試みで、この業界の脱炭素化を牽引していく可能性がある。

EVトレーラーによる輸送をスタート

LFPタイプのバッテリー採用

ゼロエミッション輸送
運転席裏側、及び車体両側面に合計424kWのバッテリーを搭載。市場に流通するEVトレーラーには三元系(NMC)及びリン酸鉄系(LFP)の2種のバッテリータイプが存在するが、より安全性が高く、耐用年数も長いとされるLFPタイプを採用した。

ゼロエミッション輸送

EVトレーラー vs ディーゼルトレーラー
タイ発電公社(EGAT)が発行し、国際的に認定されている”I-REC”(再生可能エネルギー証明書)を購入予定で、EVトレーラーに充電する電気は、発電の際にCO2を排出しない太陽光や風力などに由来することを公的に証明することが可能。これによりゼロエミッション輸送の提供が出来る見込みだ。

EVトレーラー vs ディーゼルトレーラー


ディーゼル車との対比時にEV車は車体価格や走行持続距離などで劣るものの、EV車のメリットとして、環境に優しいだけでなく、燃費が約半減、部品点数が少ないことによるメンテナンス費低減などランニングコストが低い、また、ギアチェンジ不要のオートマ式の為、運転手への負荷も低減できることが挙げられる。

入札の条件になるほど

Siam Nistransの元には、このところ自動車メーカーなどの取引先から脱炭素に関する問い合わせが相次いでいる。例えば、タイ国内の生産工場からタイ最大の貿易港レムチャバン港までの輸送をめぐって、カーボンニュートラル(炭素中立)に向けた取り組みができないかなどというのがその主な内容だ。

脱炭素の動きはもはや工場内の生産工程だけにとどまらない。原料・部品の調達から輸送・保守・メンテナンスに至るまで、およそ生産の前後に関わる全ての工程で対策が求められているという。入札の条件にさえも挙がるほどといい、同社でも大型車両の運搬ができるトレーラーのEV化は、急を要する課題として浮上していた。

社内検討の結果、EVトレーラーの導入により、ディーゼル車使用時との比較で4割程の脱炭素効果を見込む。また、太陽光などの再生可能エネルギーにより発電された電気の使用を証書化した「I-REC」(グリーン電力証書)の取得を申請中で、EVトレーラー+「I-REC」の組み合わせによりゼロエミッション輸送(二酸化炭素排出ゼロ)の実現を目指している。この環境に優しい物流を一つの選択肢として提供していくことで、今後更に強くなるであろう環境配慮に対する顧客のニーズを捉えると同時に、地球環境の保護に大きく貢献ができると考えている。

入札の条件になるほど

効率的な運用でコスト問題を克服

だが反面で、大きな問題も浮上した。車両価格だった。同社が導入を決めたトレーラーは424キロワットの大容量バッテリーを搭載し、1回の充電で走行可能な距離は600キロ。建機など大型車両を積載した状態でも300キロの走行ができる。しかし、車両価格が高い。一般的なディーゼル製トレーラーの2倍以上にもなるといい、採算性の問題が浮上したのだった。

これを克服するために見直しが行われたのが、効率的な運用だ。現在は片道60kmのルートを1日2往復、週6日間定常的に運行することで、稼働効率を上げ、輸送費用への転嫁を最大限抑制している。同時に、高速充電が可能な大容量充電設備を自社用地に導入しており、輸送作業途中に高速充電を実施することで、1日2往復から更に稼働率を上げられる見込みだ。
同社は他にも環境に配慮した物流メソッドを提供している。顧客の製品形状に適合させた繰り返し使用の出来る輸送用容器の提案や同容器の管理システムを提供しており、梱包資材削減による費用削減及び環境負荷低減に繋げることが出来る。

2023年4月に着任したばかりの現地法人社長の八束孝俊氏は、「脱炭素化の意識が予想以上に高いことに驚いた。しっかりとニーズを汲み取って、確かなサービスを提供したい」と話す。タイ国内におけるEVトレーラーの流通はまだ始まったばかりだが、公的機関や大手企業を中心にトライアルを含め、徐々に導入数が増加している。特に定型輸送ルートがある場合は導入しやすい傾向にある。サステナビリティへの取り組みとしてEVトレーラーの導入にご興味のある企業様は下記担当まで。


Siam Nistrans Co., Ltd.

Siam Nistrans Co., Ltd.

担当:姫野

Mobile:06-3205-8757

E-Mail:himeno@th.nissin-asia.com

WEB
https://www.th.nissin-asia.com/jp/

15th Fl., 191/66, 68-69 CTI TOWER, Ratchadapisek Rd., Kwang Klongtoey,
Khet Klongtoey, Bangkok 10110 THAILAND

【ベトナム編】Vingroup – VinFast(ビンファスト)②

前項(10月号)では、VinFastの米国での上場の状況についてまとめた。本稿執筆の11月末時点で株価はその後、6USD台と伸び悩んでいるが、一方でアジア発のEVメーカーとして同社の中長期的な有望性については依然として注目が集まっており、同社のポテンシャルや課題についての評価を整理したい。

VinFast(ビンファスト)企業概要

正式名称 VinFast Auto Ltd.
業種 電動自動車及び電動バイクの開発、製造及び販売
設立 2017年
上場 ナスダック(2023年8月)
主要株主 Vingroup (51.03%)
Vietnam Investment Group JSC(33.16%)
Asian Star(15.00%)
※上記3社の実質的支配権はVingoup会長であるブオン氏が保有
販売展開国 ベトナム、米国(2023年開始)、カナダ(2023年開始)、欧州(2023年予定)
  • 従業員数
14,505名(2023年3月31日時点)
連結総収益 525百万USD(2022年12月31日時点)
時価総額 398億USD(2023年9月12日時点)

EVメーカーの競争力の見極め方

「内燃系の自動車開発は垂直型の産業ピラミッドであるのに対して、EVの場合は水平型の産業構造となる」という言い方がされることがある。たしかにEVは部品点数が内燃系の1/3程度になることもあり、製品開発においてすり合わせの要素が低い。そのため商品自体は外部調達品をパッケージ化すれば成り立つものの、基幹部品については内製化しない限り採算は悪いままとなる。内燃系車両についてもエンジンなど基幹部品は車両コストに占める割合が高く自前で生産しないとコスト構造的にペイしないが、EVに関しては特に電池が車両コストの30〜40%を占めることもあり、例としてはVinFast社のEVモデルであるVFe34の車体価格3.1万USDに対して、バッテリーコストはおよそ1万USDと見込まれている。

これらのコストの低減はメーカーにとり死活問題となってくるが、このような状況下で拡販を推めてもスケールメリットが出にくく、数多くの新興系EVメーカーが苦戦しているのはそのためである。一方、これらの課題を克服し、黒字化に成功しているのは米Teslaと中国BYDの2社である。テスラの現状のビジネスモデルを俯瞰すると、特に電池については年々内製度合いをあげており、鉱物資源などの自前調達など川上にさかのぼってコストダウンを追求している。また、元々はパナソニックとの提携による電池の外部調達が主だった点についても一部を内製にシフトしている。足元の同社の台当たり収益は95,000USD(22年4Q実績)であり、BMW、トヨタを凌駕している。これは同社の価格ポジショニングがプレミアムゾーンであることも見逃せないものの、上記の取り組みの結果でもある点は見逃せない。

同社の課題

上記の観点でVinFastの競争力を整理してみるとどうなるか。図表1は他社と比較した同社の競争力を整理したものであるが、テスラやBYDが基幹部品や技術の内製の度合いが高いのに対して、同社はバッテリーや半導体などの根幹分野では外部調達や他社との提携による獲得がまだ多いのが実態である。更に大きな投資を立て続けに行っており、一台当たり利益率は依然として-8%から-20%強の赤字を見込んでいるが、今後の量産効果などにより、収益は改善される見込みである。同社の強みは創業から驚異のスピードである7年で自動車製造を立ち上げた経営のスピード感である。一方で立ち上げ優先のため、実態としては主な部品はほぼ外部調達と時間を買う戦略をとっているのは否めない。これについては従来手掛けていた内燃系車両を想定して設計されたハイフォン工場設備をEV生産においても転用している点も寄与している可能性が高い。

これに対し、同社も着々と対策を打っている。本年10月11日、同社会長であるブオン氏が保有していた電池生産会社であるVinESの株をVinFastに移すことを公表。結果としてグループとしてのシナジーを追求し、▲5-7%のコストダウンが可能との見通しである。同工場はもともと VinFastの北部ハイフォン工場内にあり試験生産段階だったが、グループ再編とあわせ、本格生産開始し量産メリットを追求すると思われる。また組み立てにとどまらずセルの内製にまで着手していると一部報道ではされている。

また、同社は国軒高科股份有限公司(Gotion High-tech Co.,Ltd. 以下Gotion)と22年から電池生産工場を建設・生産体制を整えてきた。これにより、VinFastはEVのみに縛られない電池生産体制を有することで、量販効果を狙いバッテリーコストを下げようと試みている。更に同社との関係は強化されており、23年11月にはVinFastに1.5億USDの出資を行っており、提携強化による更なる製造コストの削減を図っており今後の採算改善については注視すべきイシューとなろう。

同社のポテンシャル

一方、同社のポジティブな面として挙げられるのは、①カリスマ経営者による迅速な意思決定、②商品・価格面の優位性(デザイン性の高い商品・サブスクリプション方式での販売)、③不動産事業と一体となった販促、④海外展開などが挙げられる。

①の迅速な意思決定については、VinFastを形作る大きな要素の一つとなっており、変化の激しいEV市場における迅速な判断とそれに追従する企業体制は今後の安定的な収益形成に向けて一定の効果を示せると評価する声も大きい。しかしながら、過去に複数の事業を鶴の一声で事業停止を判断した経験もあるため、どういった判断でVinFastを動かしていくのかを注視する必要がある。

②の商品・価格面の優位性については評価が高く、特に主力車種であるVF8, VF9において落ち着いたテイストの内装と外装によるデザインで評価されている。価格に関しても、バッテリーを切り離した「サブスクリプションモデル」による販売で、エントリーコストを一回り小さく見せる販売方法により、同セグメントのガソリンエンジン車などよりも一回り安価な価格ポジショニングを実現できている。

③はVingroupとしての総力を挙げたエコシステムの構築である。特にベトナム国内でVin系列の住宅にはVinFastの充電器がついてくる上に、自動車割引クーポンが付随するなどのプロモーションも行われている。

最後に④の海外展開への意欲はVinFastを語る上で欠かせない。会長のブオン氏はEVが未成熟な東南アジアなどでEVを展開することより、環境意識の高い北米や欧州市場に照準を合わせることで、大きなEV市場の一部シェアを維持することが重要としており、それに備えた工場建設や米NASDAQ上場、対米輸出などで見て取れるのは、23年は正にVinFastにとっての海外市場攻略の準備の年であったと言える。

これらの強みに関する認知が投資家へ浸透し、足元遅れが目立つ海外事業で進展が見られれば同社はアジア発のEVメーカーとして認知が進むであろう。

寄稿者プロフィール
  • 池上 一希 プロフィール写真
  • MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
    池上 一希 Managing Director

    日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に当社入社。大企業向けの欧米、中国、アセアン市場での事業戦略構築案件を中心に活動。18年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等のテーマに取り組む。


  • 池内 勇人 プロフィール写真
  • MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
    池内 勇人 Associate

    製造業全般の現場管理サポート、業務効率化サポートや新工場立ち上げなどを経験。21年にMURCタイに入社、タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。

三菱UFJリサート&コンサルティング

MU Research and Consulting(Thailand)Co., Ltd.

Tel:+66(0)92-247-2436
E-mail:kazuki.ikegami@murc.jp(池上)

【事業概要】 タイおよび周辺諸国におけるコンサルティング、リサーチ事業等

【ベトナム編】Vingroup – VinFast(ビンファスト)

本誌2023年6月号でグループの概要を紹介したベトナム最大のビングループだが、本稿ではEV製造で注目を集めるVinFastの米Nasdaq上場に至った経緯、株価のトレンド、今後の方向性について近況をまとめる。

VinFast(ビンファスト)企業概要

正式名称 VinFast Auto Ltd.
業種 電動自動車及び電動バイクの開発、製造及び販売
設立 2017年
上場 ナスダック(2023年8月)
主要株主 Vingroup (51.03%)
Vietnam Investment Group JSC(33.16%)
Asian Star(15.00%)
※上記3社の実質的支配権はVingoup会長であるブオン氏が保有
販売展開国 ベトナム、米国(2023年開始)、カナダ(2023年開始)、欧州(2023年予定)
  • 従業員数
14,505名(2023年3月31日時点)
連結総収益 525百万USD(2022年12月31日時点)
時価総額 398億USD(2023年9月12日時点)

1. 足元の株価の動向

2023年8月15日に米Nasdaqに上場したVinFastの株価は2週間ほどかけて上昇(図表1)。初日終値は37.06USDであったが、同28日には82.35ドルに高騰し取引を終了。同社の時価総額は約1,900億USDとなり、Tesla、トヨタ自動車に次ぐ世界3位のレベルとなり注目を集めた。

ただし、これにはからくりがある。まず、今回上場で市場に放出された株が1%程度と極端に少ない点である。一般的に上場企業は上場において新株を発行するがそれを見送り、残り99%は創業者兼会長であるブオン会長が依然として保有している。市場への浮動株が少ないため株価が極めて変動しやすくなっているのが現状である。次に、先の事項と関連していることだが、このような状況下で同社の株を購入するのは、株価変動で利益を狙う投機筋の個人投資家のウエイトが高い点である。

後述する通り、まだ操業して5年目の同社は赤字が続いており、資金調達、研究開発・技術面での蓄積が必要など課題が山積している。また、同社を支えるはずの機関投資家がまだ見つかっていない点も同社にとっての大きな経営課題となっている。このような状況の中、今回の上場により株価の不振が起きることは同社としては避けたい事態であり、まずは市場放出の株数を極端に絞り様子を見ているというのが妥当な見方といえよう。

2. VinFastにとっての米上場の位置付けと上場に至るまでの経緯

ではそもそも同社にとっての上場とはどのような意味合いがあるのか。それについては2点理由があげられる。1点目として、EV事業には車体工場の立ち上げのみならず、研究開発、基幹部品である電池分野など幅広い分野での巨額の投資が必要である。この分野で米最大手であるTesla社の創業年は2008年。その後幾多の試練を乗り越え、12年目となる2020年にようやく黒字化を達成した。ここに至るまでの同社の設備投資は147億USDにも上っており、株式市場や銀行借り入れなどでそのコストを賄っている。

2点目は同社の海外展開の積極方針である。すでに欧州3ヵ国、カナダなどにEVの輸出を進めているが、最重点市場として米国を位置付けている。とくに2024年(のちに25年に延期)に15万台規模の生産工場に20億USDの投資を公表しており、さらなる資金を必要としている状況である。

また、これ以外の背景としては足元の赤字が挙げられる。本誌6月号でも触れている通り、同社は巨額の先行投資に販売が追い付いておらず赤字を抱えている。また、一方でビングループの中核事業である不動産分野の黒字も足元の景気減速により縮小傾向となっており、これを補うための資金源は喉から手が出るほど欲しい状況といえる。

3. 今後の見通し

8月23日付のCNNインタビューで同社CEOであるMs. Thuy Leは「上場では、市場に歓迎されていると嬉しく感じた。市場は当社の強みを認識している」と上々の滑り出しを強調。一方で、株価はその後急落し、足元(9月14日時点)では16USD程度に急落している。

では今後投資メリットは大きいのか。答えはややコンサバに見ざるを得ない。理由としてTesla社と同社の比較が挙げられる。まず第1に投資コストの差がある。Teslaは2010年にトヨタ自動車とゼネラル・モーターズの旧合弁工場であるNUMMIの土地、建物を4,200万USDという破格の価格で購入し、量産体制の構築に成功した。一方、VinFastは、2017年にベトナムのハイフォン工場に15億USDを投じ、更には23年7月にノースカロライナ州に建設予定地にて起工式を行い、投資額20億USDと公表しており初期投資の負担が赤字の要因ともなっている。また、23年9月にはインドネシアへのEV組立及びバッテリー製造工場建設を発表し、投資額12億USDと発表した。足元販売状況の見通しが不透明な状態から急速に設備投資を進めており、売上と比較した設備投資の過大感は否めない。

第2にビジネスモデルの差である。Teslaの場合、EV製造事業以外の収益源としてクレジット(温暖化ガス排出枠)取引を拡大させ、総売上を下支えしている。一方、ベトナムでは制度が未整備の段階でありVinFastが同様のことを手掛けることは難しいのが実態である。

一方で、同社のポジティブな面として挙げられるのは、カリスマ経営者のもとでの迅速な意思決定、デザイン性の高い商品、サブスクリプション方式での販売など革新的なマーケティング手法などが挙げられる。これらの強みの投資家への浸透が進み、足元遅れが目立つ海外事業で進展が見られれば同社はアジア発のEVメーカーとして認知が進むであろう。

寄稿者プロフィール
  • 池上 一希 プロフィール写真
  • MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
    池上 一希 Managing Director

    日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に当社入社。大企業向けの欧米、中国、アセアン市場での事業戦略構築案件を中心に活動。18年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等のテーマに取り組む。


MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
榎本 里実 Consultant

2022年タイSasin経営大学院(EMBA)修了、23年当社入社。主に大企業向けのASEAN戦略策定に関するコンサルティング・マーケティング支援に従事。

三菱UFJリサート&コンサルティング

MU Research and Consulting(Thailand)Co., Ltd.

Tel:+66(0)92-247-2436
E-mail:kazuki.ikegami@murc.jp(池上)

【事業概要】 タイおよび周辺諸国におけるコンサルティング、リサーチ事業等

タイにおけるカーボンニュートラル実現に向けて

タイにおける脱炭素化の第一歩 電力使用量とエア漏れの可視化

ASEANでも脱炭素化が求められる日系企業 アジア・ゼロエミッション共同体構想(AZEC)などに基づく支援の実現を

 世界的な潮流である脱炭素化に向けた動きは、各国政府だけでなく、企業行動にも大きな影響を与えている。多くの日本企業がグローバルの製造拠点を置くタイ、東南アジアにおいても、競争力を維持・強化するために脱炭素化の一層の推進が必要不可欠だ。こうした中で、日本政府も日ASEAN友好50周年の今年、企業の脱炭素化に向けた支援を強化しようとしている。日ASEAN経済協力深化のために設置された、ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)の事務局に、日本の経済産業省から出向する藤岡亮介氏に話を聞いた。

企業への脱炭素圧力と脱炭素化に向けた基本方針

取引先や金融機関、顧客などからの強い要請もあり、今後多くの企業が生き残り戦略として脱炭素化を推し進める必要がある。これは東南アジアにおいても例外ではなく、例えば、ASEANに一部サプライチェーンを移しつつあるアップル社は、取引先に対し、2030年までに同社に納める製品については、全世界的に全て再エネ電力で製造するように要請をし、日系企業を含む各社が対応に追われている。

こうした脱炭素圧力は年々増大することが予想されるものの、東南アジアは先進国ほど脱炭素化に向けた政府支援が手厚くないため、より費用対効果の高い取り組みである、①CO2の可視化、②省エネの推進によるエネルギー使用量の削減、③再エネ電力等の調達による電力部門の脱炭素化に注力することが重要である。特にCO2可視化は、自社事業を俯瞰し、日本が得意とする、生産プロセスやエネルギー供給に潜む無駄を無くすカイゼン活動など、効率的なCO2削減に向けて着手すべきことを明確にする上で非常に重要なステップである。

企業単位でのカーボンニュートラル(CN)に向けた基本方針(イメージ)

脱炭素化に向けた日本政府の支援

東南アジアにおける脱炭素への対応は、危機でもありチャンスでもある。日本は長年に渡る投資の結果、タイなどに製造業などで分厚い産業集積を形成してきた。この産業アセットの脱炭素化を進めることは、日系サプライチェーンの競争力の維持・強化に繋がるだけでなく、立地国での脱炭素化への貢献にも繋がる。例えば、タイに立地する約2,500の日系工場が屋根置き太陽光を設置した場合、その容量は約5GWになると推計され、タイの再エネ導入に向けて少なくないインパクトがあるが、こうした日系企業等のグリーン投資は、まさに日本政府が掲げる、東南アジアの脱炭素化を支援するプラットフォーム、アジア・ゼロエミッション共同体構想(AZEC)を具体化するものである。

今年、日本とASEANは友好50周年を迎えたが、8月22日にインドネシアのスマランで実施された日ASEAN経済大臣会合において合意された、日ASEAN未来デザイン・行動計画の中でも、今後、立地企業等の脱炭素化支援を強化していくことが謳われた。既に多くの取り組みが動いている中ではあるが、日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)も、CO2可視化や省エネ、再エネといった分野における投資を促進するための、人材及びファイナンスの提供、再エネ電力調達円滑化等に向けた制度整備などに関する取り組みを、日本の経済産業省及びASEAN各国の政府機関等と連携しながら、今後強化し、一体的に推進していく予定だ。


お問い合わせ
日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)
Web:https://ameicc.org/

 

ASEANでも脱炭素化が求められる日系企業 アジア・ゼロエミッション共同体構想(AZEC)などに基づく支援の実現を

タイにおける脱炭素化の第一歩 電力使用量とエア漏れの可視化

 タイ市場における脱炭素化に向けた取り組みは、より費用対効果の高いCO2の可視化やエネルギー使用量の削減などに注力することが重要であるとAMEICCの藤岡事務局長は述べる。それに応えるのが通信大手KDDIのタイ法人が提供する、工場などで使用される電力の可視化とコンプレッサーのエア漏れ対策だ。

まずは電力使用量の把握から

タイでカーボンニュートラルを実現するにあたって、第一歩となるのが電力使用量の削減。それを動機付ける電力使用量の適切な把握。どこで、どのように、どの程度使われたかが明らかになって、初めてその対応も進むという考え方からだ。

同社では、工場や現場、各種施設にくまなくセンサーを設置。通信会社ならではの高品質通信網で情報を一元管理する。得られたデータは、インターネット回線を経由してクラウド上のサーバーに。エネルギー消費量可視化プラットフォームに乗せられ、工事設備棟や管理部門へフィードバックされる。結果、工場が稼働していない深夜時間帯に膨大な待機電力のロスが生じているなどの実態が判明する。無駄な経費も一目瞭然となる。

電力使用量の可視化

見過ごされる空気の漏出

こうした中で見過ごされがちなのが、生産ラインや物流施設など様々な場所から漏れ出る空気(エア)だと大森氏は指摘する。工作機械の動力源として、工具の脱着に切り屑のエアブロー、さらには機械類の清掃やネジ締め・梱包などに欠かせないコンプレッサー。ここから多大な電力が浪費されていることは意外と知られていない。例えば、送管の結合部や老朽化したホースのわずかな裂け目などからエア漏れは発生する。しかもその量は微量で、音は人の耳には聞こえない。臭いもなく色もなく、人間が気づくことは通常ではありえない。

エア漏れの可視化

工場設備の最適化と効率化

同社によれば、工場全体のコンプレッサーが消費する電力量は一般的に18~25%で、最大時には全消費量の4分の1にも上る。このコンプレッサー自体の稼働の最適化・効率化を図る上で、実際のエア流量の可視化・定期モニタリングを行う必要があり、想定以上のエア流量が見られた場合、先述の通り配管からのエア漏れなどの可能性が考えられるという訳だ。

工場全体の電力利用量最適化と効率化が進むことで、トータルコストの削減にもつながっていく。2022年後半からの本格営業にも関わらず、タイでの引き合いはすでに10数社に上っているのも、本取り組みが企業におけるカーボンニュートラルの実現に直接的に繋がっているものだからとしている。


お問い合わせ
KDDI (THAILAND) LTD.
TEL:+66-2-075-8888
Email:bd@kddi.co.th

エコパートナー

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TEL: 098-250-8790
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カーボンニュートラルに挑み続ける石油エネルギー企業 「やりとげなければならない」

製造現場の脱炭素化に貢献
CO2排出量が実質ゼロな切削油

近年、脱炭素化に向けた具体的なアクションが求められ、どのように取り組んだら良いのか悩む日系製造業も多いのではないだろうか。  製造現場における金属加工油の使用にはCO2の排出が常に伴う。そんな中、大手石油メジャーの一角、BP傘下のBP-Castrol社が提供する水溶性切削油剤「XBBシリーズ」は、欧州の第三者機関である英国規格協会から金属加工油としては初めてCO2排出量実質ゼロの認定を受けた。

同じくCN製品である水溶性部品洗浄クリーナー「XBCシリーズ」の洗浄後のクリーナー廃液をXBBを薄める際の希釈水として再利用することでコスト削減にも繋がり、CNに取り組む多くの工場から引き合いが相次いでいる。

「大手石油エネルギー企業としてカーボンニュートラルはやり遂げなければならないことだ。『そうであればいい』ではなく、『そうでなければならない』時代がタイにも必ずやってくる」。シニア事業開発マネージャーの西氏は改めて自社に課せられた役割を強調した。

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カーボンニュートラルに挑み続ける石油エネルギー企業 「やりとげなければならない」

 世界各地で進む温室効果ガス削減への取り組み。その中でも業種の特殊性から、ハンディを負っているとされるのがエネルギー業界だ。石油に石炭、天然ガスなど、これら化石燃料はそもそもが炭化水素化合物であるため、地球温暖化の直接的な要因と槍玉に挙げられることが少なくない。ところが、こうした中でも環境負荷が少ない独自製品の開発や植林、風力や太陽光の自然エネルギーへの投資を通じて果敢にカーボンニュートラル(CO2排出ネットゼロ、CN)に挑み続ける企業がある。大手石油メジャーの一角BP傘下のBP-Castrol社だ。その取り組みを紹介する。

製造現場の脱炭素化に貢献CO2排出量が実質ゼロな切削油

2020年からカーボンニュートラルへの取り組みを開始した同社。石油エネルギー企業として、2050年もしくはそれ以前にCN達成を目指している。その中核に位置付けているのが、欧州の第三者機関「英国規格協会(British Standards Institution)」から「PAS2060」のCN認定を受けたCO2排出量実質ゼロの水溶性切削油剤「XBBシリーズ」と水溶性部品洗浄クリーナー「XBCシリーズ」の二つの新製品だ。製造現場における金属加工油の使用には、CO2の排出が常に伴う。一方、両製品は、金属加工油としては初めてCO2排出量実質ゼロに認定された。工場のカーボンニュートラル実現に欠かすことの出来ないアイテムとなりそうだ。

XBBの「X」は除外するの意味excludeから、2番目の「B」はホウ素のboronから、最後の「B」は殺菌剤を表すbiocideをそれぞれ示す。類似する多くの水溶性切削油剤は、品質の状態維持や腐敗防止のため人体や環境に影響のあるホウ素や殺菌剤を混入させるのが一般的。ところが同社では、独自技術を基にこれら成分を含まず、長寿命の水溶性切削油XBBを開発。CN認定を受けたことから、このところカーボンニュートラルに取り組む多くの工場から引き合いが相次いでいる。

一方、部品洗浄クリーナーXBCもCN製品だ。特徴的なのは洗浄後のクリーナー廃液を、水溶性切削油XBBを薄める際の希釈水として再利用できるという点だ。これにより必要となる水や排出される廃液コストが削減できるのはもちろんのこと、廃棄処理の過程で使われる電力やCO2も大きく減らすことができるようになった。二つの製品を使用することで、工場のカーボンニュートラル実現を加速するだけでなく、コスト削減にも繋がる。

カーボンニュートラル実現と高いコスト削減効果

日系エンジン部品製造Tier1メーカーのケースでは、両製品の使用で削減されたCO2は約3.9トン。これは杉の木278本分の年間吸収量に相当する。コスト削減効果も高く、5ラインの稼働で年間6,000リットルの廃液が不要に。年間100万円が削減できたという。

BP-Castrolのような生産工程の上流に位置する石油エネルギー企業が積極的にCN実現に取り組むことで、中流や下流にある様々な企業、ひいては社会全体のCO2排出ゼロも進むとの認識も強い。タイ法人で日系企業などを担当するシニア事業開発マネージャーの西健児氏もそうした一人だ。

「エネルギー業界の中で、カーボンニュートラル認定品の取得を単独で実現できる体力のある会社はそうはいない。だが、大手石油エネルギー企業として、CNはやりとげなければならないことだ。『そうあればいい』ではなく、『そうでなければならない』時代がタイにも必ずやって来る」と自社に課せられた役割を強調している。

環境にはやさしく、油剤本来の品質はそのままに。まさに理想の切削油剤! カーボンニュートラルを実現した

XBBはCO2排出量が実質ゼロ!

XBBシリーズは、製品ライフサイクル(原材料調達から廃棄まで)の全てを網羅したCO₂排出量を算出してオフセットしているため、お客様は製品を通じて脱炭素化に貢献できる上、生産現場での排出量算定に関わる負荷を軽減することが可能です。

XBBはCO2排出量が実質ゼロ!

XBBシリーズ製品特徴

特長1 殺菌剤未使用なのに腐敗を防止
独自のpHコントロール技術により、殺菌剤を使わずに酸化の抑制に成功。長時間安定した生産性を維持するとともに油剤管理業務を大幅に削減し、コスト抑制にも貢献します。

特長1 殺菌剤未使用なのに腐敗を防止

特長2 ホウ素フリー
ホウ素に起因する廃棄物処理が不要。低泡性だから品質が安定し、肌にもやさしいというまさに理想の品質です。

特長3 本来の用途も高機能
潤滑性が高く多種金属の多様な加工用途に対応できるため油剤統一が可能。工具寿命を延ばし、表面仕上げ改善による加工不良の削減にも貢献します。

クリーナー XBCシリーズと使えば、さらにサステナブル!


水溶性切削油XBBテスト加工製造メーカー絶賛募集中!

【お問い合わせ】 BP-Castrol (Thailand) Limited

担当:西

TEL: 098-250-8790

E-MAIL: kenji.nishi@se1.bp.com

3 Rajanakarn Building, 23rd floor, South Sathon Road, Yannawa, Sathon, Bangkok 10120

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人材市場で優秀なタイ人を惹きつける企業ブランディング戦略

タイ日プラットフォームTJRI(運営会社メディエーター)は12月15日、チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター及びアジア市場経済学会と共催で「タイの人材市場で優秀な若手人材を惹きつけるには」と題したセミナーをサシン経営大学院で開催した。

基調講演では、サシン経営大学院日本センター所長(明治大学専門職大学院教授)の藤岡資正教授が、日本企業のグローバル経営における人的資本の課題として「海外の人材市場で日本企業は、働きたい企業としては上位には上がってこない」と指摘した上で、「優秀な人材を獲得するためには、彼らに選んでもらえるようまずは自社の魅力を高め、セルフブランディングを戦略的にする必要がある」と強調した。

続いて、名だたる企業をクライアントに持ち、タイにおけるエンプロイヤーブランディングを牽引するワークベンチャー社のイェンス・ポルドCEOが登壇し、「かつては優秀な人材を獲得するには、給与や福利厚生など報酬が重視されていたが、多様化が進む今、優秀な若手人材を確保するには、彼らの働き方に対する価値観を理解し、自社に必要なターゲット人材に合わせたエンプロイヤーブランディングがますます求められる」と訴えた。同社のエンプロイヤーブランディングの第一人者ジラワット・タンバウォーンピチェット氏は、「エンプロイヤーブランディングを成功させるフレームワークとして、2つの『Good』がキーワードとなる。Good Vibes(良い雰囲気)をつくり出すことで、Good Voices(良い評判)が自然に広がる。これは短期的に結果を出せるものではなく、継続していくことが最も重要」とその基本概念を解説した。

 

パネルディスカッションでは、ワークベンチャー社が調査した「最も働きたい企業トップ50(2023年)」にランクインしているタイ小売大手セントラル・グループのピープル・ブランディング&コミュニケーション責任者ルディ・ウアジョンパシット氏とタイ最大の財閥CPグループのタレントアンドピープルエクスペリエンス担当副社長のプーリプラット・ブンナーク氏が加わり、「優秀な若手を惹きつけ、引き留める人材戦略」について各社の取り組みを聞いた。

ルディ氏は、「セントラル・グループは本格的に国際的な企業を目指すために、過去10年で企業文化を変革した。具体的には、当社の従業員の主要層である25〜35歳に調査を行い、従業員を惹きつける3つの重要な要素を特定し、社内制度を見直した。リテンションのためにも従業員への調査は定期的に行なっている」とし、新しい人材採用においては「自社の存在意義を定義づけ、マーケティング部門と連携して、社員に対して提供できる価値提案を発信していくことで企業のブランディングを高めている」と述べた。

一方、プーリプラット氏は新世代の採用について「CPグループは、イノベーションを起こすための起業家マインドの必要性を考え、若手人材の採用の一環として26歳未満の有望な候補者に自ら考えて実行するプロジェクトベースの仕事を与え、評価している。目覚ましい成果を出しているチームは、タニン上級会長に直接プレゼンし、フィードバックをもらう機会を得られる。こうした経験を提供することで彼らの大学の同級生に自然に口コミが広がり、結果的に企業ブランディングにつながっている」と明かした。

最後にジラワット氏は、「自社の魅力(この会社で働きたい理由トップ3とこの会社で従業員が光り輝ける理由トップ3)を見つけ出し、それをひたすら繰り返すことで必ずエンプロイヤーブランディングは確立できる」と締め括った。


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CP ALL運営「即戦力の人材を育てる」 PIM式教育法を学ぶ

タイ日プラットフォームTJRI(運営会社メディエーター)は12月7日、タイと日本の協業・新規事業の創出の機会を目指す「TJRIビジネスミッション」で、パンヤピワット経営大学(PIM)を訪問した。PIMは、タイ最大の財閥CPグループ傘下でセブンイレブンを運営するCP ALLが経営する企業大学で、卒業後に即戦力として働くための教育を徹底している。本ミッションでは、同大学の即戦力人材を育てる教育法や民間企業との連携についての説明会の後、校内の教育現場を見学した。

PIMでは、Work Based Education(仕事をベースにした教育、以下WBE)を実践し、卒業後すぐに働けるready to work(即戦力)の人材を育てることに注力している。世界の大学ランキングを公表しているU-MULTIRANKの2021年度の「教育と学習」分野において、PIMはアジアで5位、タイでは1位を獲得。

全ての学部で1年生から企業でのインターンシップがカリキュラムに組み込まれており、学部により異なるが、4年間のうち合計1〜2年の実務経験が積めるのが特徴(タイでは日本のように大学生がアルバイトをすることは一般的ではなく、在学中に就業体験を持つ学生が少ない)で、卒業生の就職率は99%にのぼる。

例えば、今回説明会に登壇した教養学部ビジネス日本語学科では、1年次にはTrue(CPグループの通信事業者)のコールセンター、2年次にセブンイレブン、3年・4年次には日系企業でそれぞれインターンシップを経験する。また、日本の企業とのネットワークもあり、タイ国内のみならず日本企業(主にホテルや観光施設など)でのインターン経験を積むことができる。若いタイ人学生にとって日本での就業経験は、新しい文化に触れるだけでなく、規律や仕事に対する姿勢を学べるため、日本から帰ってきた学生は著しい成長が見られ、最も魅力的なインターンシップ先の一つになっているそうだ。

PIMは、もともとCP ALLがセブンイレブンの店舗拡大の際に、人材を確保するために設立したのがきっかけだ。WBEが徹底されているため、今ではタイの大手企業のみならず外資系企業もスポンサーとなり、卒業後に一定期間働いてもらう条件で、生徒に奨学金を提供している。生徒は在学中にインターンシップを通じて仕事を覚えるため、企業側は入社後に一から教育する必要はなく、入学時点で人材を確保できるメリットがある。

中には、ひとクラス丸ごと買い取る企業もあるという。また、生徒側もその会社の雰囲気や仕事のやり方などを実際に経験できるため、入社後のミスマッチが少ない。まさにお互いにWin-Winとなるスーパー青田買いシステムだ。

説明会後は、校内の教育設備を見学した。最初に訪れたのがPIMエアー(航空ビジネストレーニングセンター)だ。空港(チェックインカウンター、搭乗ゲート)や航空機内(客室、ギャレー等)を模した設備があり、航空会社勤務経験のある講師からグランドスタッフや客室乗務員の業務の訓練を受けることができる。

続いて訪れたのは、さまざまな産業ロボットが設置されたイノベーションセンター。ここでは、産業ロボットの操作やプログラミングを通してロボティクスやオートメーションを学べる。このほか、ホスピタリティー業界を目指す学生のためのホテルのレセプションや客室、レストラン、バーなどの設備があるホスピタリティーラボ、PIMの付属高校の教室を見学した。

人材不足が叫ばれる今、 PIMのような大学と連携して未来を担う若手人材に先行投資する。これも人材戦略の選択肢の一つと言えるだろう。なお、PIMではインターン受け入れ先企業やスポンサー企業を募集している。


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日タイ企業交流会開催〜日系企業及び地場企業など合計93人が参加〜

知り・学び・協創するタイ日プラットフォームTJRI(運営会社メディエーター)は10月25日、タイ自動車部品製造業協会(TAPMA)と共催で日タイ企業交流会をバンコクで開催した。昨今のEVシフトのトレンドで変革期を迎えているタイの自動車産業においての課題と将来に向けたアクションプランを探索するために日タイの自動車業界のネットワークを強化することが狙いだ。日系企業及び地場企業などから合計93人が参加し、情報共有や意見交換が行われた。

TAPMAのシラパン副会長は、イベント冒頭で「次世代自動車産業への適応は、日本とタイの双方にとって喫緊の課題であり、協力して取り組んでいくべきである。本日の交流会では情報や知識の交換はもちろん、タイでのビジネスで不可欠なコネクションも築いてほしい」と述べた。

続いて、TAPMAのスポット副事務局長は、EV浸透によるタイの自動車産業について、「2030年までに電気自動車(EV)の生産台数を全体の30%にまで引き上げる国家目標(30@30)があり、タイの自動車産業が変革期を迎えているのは事実。現状タイの部品メーカーは電子・電気関連の技術が不足しており、参入障壁が高い。残り70%『未来の内燃機関(Feature ICE)』でどう戦っていくかが焦点となる。現政権が表明しているICE車への支援策の継続も不可欠だが、部品メーカーは同時にリスク分散のために鉄道や航空部品、医療機器部品など新たな供給先を模索する必要がある」と訴えた。

自動車部品大手アーピコ・ハイテックのイェープ最高財務責任者は、「タイの自動車生産シェアはグローバル市場のわずか2%である」と指摘し、「タイの自動車部品メーカーは、国際市場で競争力のある品質と技術力を持っている。しかし今後30〜50年先を見越して生き残るためには、国内市場だけでなく、グローバル展開が必要。そのためには正しいパートナーと組むことが不可欠だ」と訴えた。さらに日本企業とベトナム企業の経営スタイルの違いを例に挙げ、同社のこれまでの多国籍企業とのビジネス経験から「スピードとリスクのバランスをどう取るかがグローバル市場で戦う上での鍵となる」と強調した。

講演の最後は、タイの自動車業界に精通したキアットナーキン・パットラ証券のラタギット氏が登壇。タイのEV市場について「充電設備が充実しているバンコク周辺では今後もEVシェアは伸びることが予測されるが、最大で30〜40%、タイ全土では20%程度にとどまる」との予測を明らかにした。また、「今後タイがEVの生産拠点になった場合も部品メーカーの恩典は限定的で、ICE車生産に比べ、付加価値は低下する」と指摘した上で、「海外からの投資だけでなく、政府も民間もタイ国内でいかに産業として付加価値を生み出せるか模索する必要がある」と警鐘を鳴らした。

パネルディスカッションでは、自動車業界で15年以上にわたり経営コンサルティングを手掛けてきたアビームコンサルティングの鵜塚氏も交え、「昨今のタイの自動車業界の課題やお互いの期待値について」の意見交換が行われた。

タイの部品メーカー側は、「EV生産において電子・電気関連の技術が不足している」ことに触れ、「日本企業と共に研究開発をしていきたい」との意向を表明した。一方で、鵜塚氏は、「在タイの現地法人は、アジャイル思考で新しいビジネスを進めるマインドセットが不足している」と指摘した上で、「技術や生産体制はすでにあるので、今後の成功には、リスクをとって、スピードのある意思決定が必要」と強調し、「今までの『良い関係を続ける』ことから一歩進んで、今後はタイ企業がイニシアチブを取って、日本企業に働きかける関係性に進化していくことも必要」と訴えた。


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中国メーカー、タイ国内EV生産の課題を指摘~TJRI、日タイ企業交流会を開催~

TJRI(タイ日投資リサーチ)は7月18日、タイ電気自動車協会(EVAT)と共催で「EV業界の日タイ企業交流会」をバンコクで初めて開催した。日系企業とタイ国内企業の合計65社、90人以上が参加。東南アジアの電気自動車(EV)の生産ハブになることを目指すタイで、EV関連企業間のネットワーク拡大を図るのが狙いだ。イベントでは、中国・上海汽車グループで「MG」ブランドの自動車を生産するSAICモーターCPや長城汽車(GWM)タイランドなどタイのEV産業を牽引する中国系の大手自動車メーカーなどが講演した後、ネットワーキングが行われた。

Electric Vehicle Association of Thailand (EVAT)

BEV登録台数は今年末までに4~5万台に

交流会開催の挨拶に立ったEVATのクリサダ会長は、2022年にバッテリー電気自動車(BEV)の登録台数が急増したことについて「22年の登録台数は前年比400%増加した。これはタイ政府のEV補助金政策が後押しした。今やバンコク都内を走行する青い電動バスが急増しており、今年の電動バスの台数は前年比700%も増加している。また、昨年の乗用車BEVの登録は9,678台だったが、今年は7月1日時点で約3万1,000台を超えており、年末までに約4~5万台になると予測している。ブランド別ではトップから8位までは中国メーカーで、輸入関税免除でタイに完成車を輸入している」などと報告。

一方、「タイのEV充電ステーションは、全国1,400ヵ所以上があり、充電器の総数は4,600以上で、18台の自動車あたり1台の充電器が設置されている。しかし、この比率では、現在のEV走行台数に十分ではなく、充電ステーションの整備には政府の支援策が不可欠だ」と強調した。


SAIC Motor – CP Co., Ltd.

国内にEVサプライチェーン構築を

SAICモーター・CPのスロート・サーンサニット副社長は、「タイ国内のサプライチェーン構築に向け、現在は輸入に頼っているEVの主要部品のタイ国内生産を目指している。一方、バッテリー生産ではモジュールやバッテリーを製造する前の段階であるセルの輸入は自動車サプライチェーン全体のバリューの15%以下であれば、セルだけを輸入してもよいという規定がある。しかし、これは25年までと限られており、26年以降はタイ国内で生産しなければならない。あと2年間ではセルの国内生産は間に合わないという懸念が浮上している。このため、タイ国内での部品や素材の調達率を40%まで高めるため、政府はより実現可能な政策を導入する必要がある」と訴えた。

また、「タイ政府のEV生産・普及の支援策では、財務省物品税局と覚書を締結した会社は自動車が9社、バイクが3社の合計12社だった。しかし、自動車の9社のうちタイ国内でEVを組み立てると明言した会社は上海汽車グループのMG、長城汽車(GWM)、NETAブランドを展開する合衆新能源汽車、比亜迪(BYD)、独メルセデス・ベンツの5社だけだった。それでも今後、タイが東南アジアのEV製造拠点になるための重要なスタートだ」とアピールした。さらに、EV充電ステーションについては、「タイの充電ステーション数とEV走行数の伸び率は明確な差がある。全国でEVが走るためにはDC(直流)充電器を圧倒的に増やさなければならない。世界では各国政府が充電ステーション整備に投資しているが、タイでは政府の支援策はない。タイがEV生産ハブ化になるためには、充電ステーションを拡充する必要がある」と強調した。


Move Forward Party

EVシフトでもバランス取れた政策必要

前進党の交通担当スラチェート・プラヴィンヴォンウット氏は「EV市場は急速に成長しており、今後も継続的な成長が見込まれるため、EV支援策は今後も必要だ。しかしEV施策は、渋滞や排気問題、事故、干ばつなどさまざまな問題とともに考慮すべきだ。限られた予算の中では、他の政策とのバランスを取りながら国家の利益を最優先にして進める。

さらに、内燃機関(ICE)車は国の主要産業であり、EVシフトを急速に進めた場合、国に大きな影響を与える可能性がある。また、ガソリンへの税金も政府の非常に重要な収入源となっている。前進党が政権を取った場合、民間企業や市民の意見も聞くが、国家の利益を最優先で、誰かを優遇することはできない」との見解を明らかにした。



ARUN PLUS Co., Ltd.

充電施設の拡充には課題山積

国営タイ石油会社(PTT)傘下でEV関連事業を手掛けるアルンプラスのEV充電器事業担当マネジャーのトーン・ホンラダロム氏はまず、「アルンプラスは2年前にPTTの中でEVを統括するために設立され、タイでEVエコシステムを発展するための会社だ」と紹介。そして、タイのEV充電ステーション問題について「政府は30年に1万2,000台の充電器設置を目指しているが、非常にチャレンジングな目標だ。民間企業として、充電ステーションに投資しても資金回収ができない。また、タイの電力供給網では場所によっては電力が不足している地域もある。

設置場所も地主との交渉が難しく、また、自宅で充電する人が多いため、実際の充電ステーションの利用比率が低い。さらに、部品や設備の発注から引き渡しまで4~6ヵ月間が必要で、免許取得にも時間かかる。このため、この事業は費用対効果がまだ魅力的ではないので、充電ステーションの拡充は難しい」と述べ、課題が山積しているとの認識を示した。


Great Wall Motor Sales (Thailand) Co., Ltd.

ICEサプライチェーンの崩壊を懸念

長城汽車(GWM)セールス・タイランドのカンチット・チャイスポー副社長(渉外・政府担当)は「輸入関税免除の恩典により、現在は完成車をタイに輸出する中国メーカーが有利だ。タイ国内で組み立てて、輸入車と価格競争に負けないようにすることは非常に難しい。また、現在の自動車部品サプライチェーンの「Tier1」は525社、「Tier2」は1,687社だ。これらの会社は自動車メーカーへの依存度が高い。完成車の輸入、特に輸入EVと競争が激しくなる中では、自動車メーカーがリーダーシップを発揮しなければ、サプライチェーンが崩壊していくだろう」と警告。

そして、タイのEV生産ハブ化については「中国や欧州、日本の自動車メーカーらが、いつタイ国内でEV生産を開始するかがカギを握る。現在のICE製造のように、50%を国内販売し、残り50%が輸出という比率を維持するためには、政府の政策が非常に重要だ」と指摘した。さらに、「過去に日本の自動車メーカーが部品調達の輸入関税で、高額追徴課税を課せられた事例もあり、関税免除で海外から部品を調達するメーカーは高いリスクを伴う」と述べ、タイ国内生産の重要性を訴えた。


EVME PLUS Co., Ltd.

EVサブスクリプションなどの新サービス登場へ

PTT傘下でEVレンタカーサービス事業などを手掛ける「EVME PLUS」のスヴィチャー・スドジャイ最高経営責任者(CEO)兼社長は「EVMEはEVのオンラインプラットフォームで、レンタカーサービスを展開している。われわれはさまざまなパートナーと協力し、事業を展開していく。現在、1,000台のEVを持っており。年内には保有台数を2,000台まで増やす計画だ。その大半は現在、中国製EVで、日本のEVは20台だけだ。日本のEVメーカーによる供給を歓迎し、もっと日本のEVを増やしていきたい。今後は新車・中古車販売も展開し、EVサブスクリプションサービスの展開を検討している」との方針を明らかにした。

同氏はまた、来年のEV市場の動向について、①自家用・公共用EV充電器の数と利用率が増加する②EVの新型モデルが増え、タイ全国のディーラー数も増加する③EVのシェアリングやEVサブスクリプションなど、EV の新サービスが登場する④充電器やバッテリー保険などのバッテリー関連事業が拡大する-などの見通しを示した。


Mediator Co., Ltd.
CEO 司会進行:ガンタトーン MEMO

今回は日本企業が接点を持つ機会の少ない中国系メーカーと交流が生まれ、タイ企業である当社の強みを活かせた会になりました。EVが席巻していますが、タイの製造現場では様々な課題があり、これらを解決できる日本企業にとっては参入の余地があると感じました。現場の話を聞くと現実が見えてきますね!


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Tokyo SMEビジネスウィーク in Thailand 2023 開催

東京都中小企業振興公社(Tokyo SME)は7月24〜27日の4日間に亘り、「Tokyo SME ビジネスウィーク in Thailand 2023」と題し、新規駐在員やタイ進出を検討する経営者を対象に、企業経営における留意点や業界最新動向について現場目線で解説するセミナーを開催した。4日間を通し、約300名が参加した。

24〜26日の3日間はTokyo SMEの相談員として所属する専門家など10名の登壇者がオンラインで解説、参加者からの質問に答えた。右記の質問をはじめとする、タイの法務・労務・税務、FDAの具体的な事案、脱炭素に向けた動きなど80を超える質問が集まった。

4日目はHotel Nikko Bangkokにて、タイ最大級の日系大手百貨店であるSIAM TAKASHIMAYAの奥森Managing Directorを招き、タイにおけるリテールマーケットの最新動向について紹介した。

Tokyo SMEではセミナーを通してだけでなく、公的機関のセカンドオピニオンとして平日午後に無料で専門家への相談が可能。また、専任のマッチングアドバイザーが販路拡大のサポートを行うなど、タイ進出のサポートや在タイ日系企業、現地企業とのマッチング支援を行なっている。

Q1.新たにFDA申請に取り組む予定だが、日系企業が躓きやすいポイントについて知りたい

A:対象製品に関する資料の収集が可能かどうかが重要です。 輸入許認可申請時は製品情報(仕様・成分表等)の開示が必須であり、自社製品でない場合は、製造業者から書類の収集が必要となるため、製造業者との関係性・事前のコンセンサスをとることが大事です。また、タイ国官公庁への申請書類は原則タイ語、一部は英語にて提出となるため、言語への対応力も重要となります。何より、折れない心と立ち向かう勇気が必要です。

Q2.工場で発生する使用済原料の処分・再利用について、マニフェストを出さないと再利用・廃棄対応ができない可能性を供給会社から示唆されている。
産業廃棄物管理法令に基づき、産業廃棄物としての処理が必要かどうか教えてほしい

A:工場法に基づき認可が付与されるタイミングで業種番号が指定され、リサイクル業ライセンスの種類、廃棄物業者の扱いが決まります。廃棄物コードにより「有害・非有害・分析による判定」の3つに区分され、最終的に有害判定となった場合は供給側に許認可が必要となります。受け入れ側の審査・契約書の締結も必要となるため、原則として許可がないと供給ができません。製造工程から発生する不要品・使用しないものはすべて廃棄物処理の判定となるため、対応が必要です。

Q3.タイの健康食品市場のトレンド、競合、価格帯について知りたい。
日本生産で勝負ができるのか?日本製として付加価値の付け方なども知りたい

A:タイでも健康意識が高まっているため、自然な原料やオーガニック製品への需要が増えています。植物性食品やヴィーガン食品への関心が高まり、豆やナッツ、シード、野菜、果物を活用したプラントベースド・ダイエットの普及が見られます。ファンクショナルフードへの需要が増えており、免疫力向上や腸内健康の促進を謳った製品が人気です。COVID-19の影響によりオンラインでの健康食品の販売も拡大しており、魅力的なパッケージング・ブランディングの強化、インスタ映えするデザインやラベルが重視されています。

Tokyo SME Support Center

タイ現地経営における様々な課題について、 公的機関のセカンドオピニオンとして“無料”で相談が可能です。


Tel: +66(0)2-611-2641

E-mail: thai-branch@tokyo-kosha.or.jp

Web: https://www.tho.tokyo-trade-center.or.jp/

20 Floor Interchange21 Bldg, 399 SUKHUMVIT ROAD, KLONGTOEY NUA, WATTANA, BANGKOK 10110 THAILAND

2030年 タイの消費財・ 小売りビジネスの未来ー分断・三極化する世界で日系企業に求められる戦略

 新型コロナウイルスは世界中の消費者の価値観・行動様式に大きな影響を及ぼした。その影響は東南アジアのタイにおいても同様である。ロックダウンに伴う外出規制はEC利用を促し、社会全体としてデジタル化が加速し、不可逆なものとして定着した(図表1)。
また、タイの消費市場においても、Z世代という異質な価値観を持つ新たな世代の割合は年々増加しており、その影響は無視できなくなってきている。こうした世代構成の移り変わりも不可逆なものとして、大きな変化をもたらすのは間違いない。
こうした消費市場や業界構造の変化をどう先読みするか、これはどこの企業においても共通の経営課題だろう。本稿では、ASEAN諸国の中でも独特の変化が起きると見ているタイを対象として、2030年に向けて起こり得る変化を予測し、考察を進める。詳細は後述するが、「分断」と「三極化」という大きな構造変化が起きるタイにおいては、日系企業であっても、これまでの延長線上でのビジネス展開では生き残りが困難になる可能性が高い。本稿が、この「変化」を「機会」と捉え、さらなる飛躍を目指す日系企業の一助となれば本望である。

 

タイの小売りチャネル別の構成割合 [金額ベース、2016-2019-2022]

1 世代間の価値観の「分断」

1.2030年に4分の1を占めるZ世代

まずは、2030年の消費社会がどのようになっているのか、「世代」の観点から論じていきたい。本稿では、特に影響が大きいZ世代に焦点を当てて考察していく。

Z世代のタイ消費市場における影響力を量的観点から見てみる。一定の購買力を持つ18歳以上に占めるZ世代割合は2022年時点で14%、800万人程度(Z世代は18~26歳)。それが2030年時点では25%に拡大し、Z世代は約2倍の1,500万人規模となる。この時のZ世代の年齢は18~34歳であり、一人一人の購買力もさらに高まっており、無視できないセグメントとなってくる(図表2)。

タイにおける18歳以上の人口に占めるZ世代割合

2.「これまでのタイ市場」と真逆の価値観

では、Z世代とはどのようなセグメントなのか、消費者の価値観を世代間で比較することで、質的観点からZ世代の特徴を明らかにしていきたい。我々、ローランド・ベルガーは東南アジア各国を対象に定期的に消費者調査を行い、消費者の実態・トレンドを継続的に分析している。RBプロファイラーという独自ツールを活用し、抽象的な概念で取り扱いが難しい「価値観」を定量的データに基づき可視化することで、ブランドマネジメントに関するアドバイスもこれまで数多く実施してきている。

今回はこのツールを用いてタイにおける消費者の世代ごとの価値観の違いを可視化した。もちろん、各世代の中にも価値観が異なる多様な消費者セグメントが存在するが、本稿においては概観として世代ごとの違いを捉えてみたい。消費者が持つ普遍的な19の価値観に基づき、消費性向の高/低、情緒的/合理的の度合、をスコアリングし、2軸でプロットした結果が次の図表3である。

タイにおける消費者の世代ごとの価値観の違い

「Z世代」は、消費性向がやや高く、情緒的な価値観を特に重視する点が特徴である。友人・仲間を大事にし、SNSを通じて常に流行りのモノ・コトを追いかけ、自ら好んで発信・表現もする、いわゆるソーシャルアクティブと言われる層が中心だ。流行っているから、周りが使っているから、といった理由でつい購入してしまうことも多い。
また、「本物かどうか(Authenticity/真正性)」も重視する傾向があるため、フェイク品もまだ一定量存在するタイにおいては、信頼できるインフルエンサーや友人の評価・コメントを通じて、真贋を見極めている。

加えて、地球環境や倫理観への問題意識が強い層が多く存在する点も特徴的だ。彼・彼女らは、サステナビリティや多様性に配慮したブランドを選び、オーガニック製品を好む。社会的なあるべき基準を押し付けられることを嫌い、等身大の自分で生きることについての意識が高い。このように、多様かつ情緒的な価値観を持っている点がZ世代の特徴である。

一方で、「ミレニアル世代」は対称的に非常に合理的な価値観を持っている。モノ・サービスの品質は良いか、コスパは良いか、というわかりやすい価値観である。タイの消費者はコスパを重視し、良品廉価を求める、と従前言われており、まさにタイの消費者像を代表する世代と言える。

消費性向は「ミレニアル世代」から「X世代」や「シニア世代」と年齢を重ねるにあたり、徐々に低くなっていくが、品質や価格という合理的な価値観を重視する点が共通しているのが「これまでのタイ消費市場」であった。合理性と対極に位置する情緒性を重視するZ世代をいかに理解し、価値観に合わせていけるかが「今後のタイ消費市場」で非常に重要になってくる。

例えば、タイの国民的コスメブランドのMISTINEは、高品質な製品を手頃な価格で提供することで、タイの幅広い世代から人気を博していたが、Z世代からの支持は低かった。MISTINEは、Z世代の価値観に合わせ、これまでの「Beauty standards」を崩し、「Natural(ありのままの美)」や「Real」といった価値訴求にシフトさせた。実際に広告には、一般の女性、さまざまなな体形・容姿の人を起用し、商品ではユニセックスなデザインを拡充させ、Z世代からも支持を獲得することに成功している。

3.自ら発信し、ブランド・企業とインタラクティブにコミュニケーション

続いて、これまでのタイ消費者とは異質な価値観を持つZ世代、その行動様式が他の世代とどのように異なるのか、ソーシャルメディアの利用実態の観点から見ていく(図表4)。
Facebook、YouTube、LINEの利用率はどの世代でも90%以上と共通して高い一方で、InstagramとTikTokについてはZ世代の利用率はそれぞれ87%・76%を誇り、他の世代と比べても突出して高い。参考までに総務省のレポートによると、日本の10代・20代のInstagram利用率はそれぞれ72%・79%、TikTok利用率は62%・47%であることからも、タイZ世代の利用率の高さがうかがえる。

アプリの利用率だけでなく、利用時間も長い。Instagramを1日に2時間以上利用するユーザーの割合は、ミレニアル世代の25%に対し、Z世代は38%。同TikTokにおいては、ミレニアル世代の41%に対し、Z世代は53%。Z世代はヘビーユーザーの割合も高く、可処分時間のうち多くをInstagramやTikTokに費やしていることになる。

タイZ世代のInstagram利用目的の1位は、「写真・動画の投稿(58%)」であり、過半数のユーザーが自分自身に関する情報(体験・意見)を能動的に発信している。

タイ大手通信キャリアのAISでは、こうしたZ世代の行動特性を踏まえた動きを見せている。マス広告に不向きなZ世代を取り込むべく、同世代のInstagramインフルエンサーを組織化しブランドアンバサダーに任命することで、Z世代とつながるための顧客接点として活用している。さらに、タイで初めてメタバース・ヒューマン(バーチャルインフルエンサー)をブランドアンバサダーに任命し、彼女のInstagramアカウントを通じてブランドの先進性を訴求しながら、顧客との新たなつながりも構築している。

こうしたインタラクティブな顧客接点は、「ブランドへのエンゲージメント向上」だけでなく、「Z世代の趣味嗜好・ライフスタイルの深い理解」にも活用可能だ。吸い上げた顧客の課題・ニーズを踏まえ、2022年にはZ世代向けにテーラーメイドした通信プランを新たに提供開始している。

通信キャリア業界において、価格・つながりやすさといった基本的な提供価値での差別化が難しくなってきている中、Z世代の価値観・行動様式を理解した上で、「ブランドの先進性」や「ライフスタイルに合ったテーラーメイド」といった価値訴求で、Z世代のさらなる獲得に取り組んでいる。

タイ消費者の世代別 アプリ利用率

2 「三極化」する小売りチャネル

続いて、タイにおける小売りチャネルの競争環境が2030年にかけてどのような変化をしていくのか、
冒頭でご覧頂いた伝統的小売/近代的小売/ECの3つの形態のチャネルの観点から、それぞれ考えていきたい。

1. 東南アジアの中でもタイ独特の業界構造の変化

まずは伝統的小売/近代的小売/ECの3つの形態のチャネル、それが2022年から30年にかけてどのように変わっていくのか、その構成比(予測)をASEAN主要6ヵ国の中で比較してみる(図表5)。

ASEAN主要6ヵ国の小売りチャネル別の構成割合 [金額ベース、2022-2030]

ASEANは6億人を超える人口を抱える魅力的な消費市場として注目を集めている一方で、単一市場として捉えることができない難しさを持っていることは衆目の一致するところだろう。このチャネル構成比を例にとってみても、一様ではないことは明らかだ。

EC割合と伝統的小売割合の推移という観点で比較すると、各国で伝統的小売割合が減り、EC割合が拡大する方向にシフトする様が見て取れる(図表6)。伝統的小売が徐々に淘汰され、ECを中心に置き換わっていく流れ、これは想像に難くないだろう。

ただ、その中で、タイにおいては固有の将来変化を示している。伝統的小売の割合はそのままで、ECが伸び、結果として近代的小売の割合が減るという他の国とは異なる進化をしていく可能性が高いと見ている。その背景をそれぞれ紹介していく。

ASEAN主要6ヵ国の小売チャネル別の構成割合の推移 [金額ベース、2022-2030]

2. 独自の価値提供とデジタル化によってサバイブする伝統的小売

まずは伝統的小売だ。日本をはじめ多くの先進国では、伝統的小売であるパパママショップ・個人零細商店をチェーン店・大型店が駆逐していった歴史があるが、タイでは引き続き残ると見立てている。その背景を3つの観点から説明する。

まず、1点目は政府による伝統的小売の保護である。コロナ禍でのロックダウンは全ての小売店舗に経済的なダメージをもたらした。その後、消費刺激策として、小売の中でも伝統的小売で使える50%オフクーポンを発行した。これは政府が半額負担することで成り立っているクーポンであり、伝統的小売に従事する人への優先救済措置である。伝統的小売への従事者が多い中、淘汰されることにより発生する連鎖的な悪影響を国として防ぎたいという思惑である。政府としてこれからも伝統的小売を保護して存続させようとする意向は続くと考えられている。

2点目は、伝統的小売に特有の「融通」という提供価値が近代的小売やECの間隙を埋めており、消費者からの支持を集め続けている点である。例えば、タイの伝統的小売ではトイレットペーパーやタバコを1個・1本単位で販売する「バラ売り」であったり、アルコール飲料を時間に関係なく販売する※1「時間外売り」などのように、小売チェーンでは対応できない領域を手掛けている。

また、よく来る顔馴染みの顧客には「ツケ払い」を認めるといったように、一定の層が持つニーズに「融通」を効かせて応えられるのが伝統的小売の価値であり、支持されている理由の1つである。この大手小売・チェーン店がアドレスしづらい消費者ニーズを埋める役割として、引き続き存在意義が残るだろう。

3点目としてDXを通じた進化を挙げる。フロントエンドで顧客に対して提供するハイタッチな価値は今後も残しつつ、裏側のDXによる生産性改善が伝統的小売の生き残りを支援すると考えている。これまでは小規模かつ多数のディストリビューターが流通の大部分を占め、課題も大きかった流通構造だが、メーカーと小売店を直接つなぐディスラプター(破壊的イノベーター)が登場し、その状況が一変しようとしている。タイにおいてはタイトレードがその代表格であろう(図表7)。DXを通じた生産性・収益性の改善が進み、引き続きECや近代的小売に対しても伍していける存在になっていくと考えられる。

タイトレードによる流通構造の革新

実際、先行する中国市場ではアリババが子会社のAli LSTを通じて、中国全土の伝統的小売のDXを進めて大きな成果を生み出している。これまでブラックボックスだった、メーカー>>流通>>伝統的小売>>消費者の一連の流通フローをデータで見える化し、デジタル技術でサプライチェーンやマーケティングの最適化を実現したのである。結果、アナログで非効率だったオペレーションをデジタル化することで、伝統的小売における各店舗の生産性は飛躍的に向上した。

同時に、消費財メーカー側も伝統的小売の各店舗のカバー率の向上、有望な店舗へのリソース傾斜配分によるROI改善、購買データに基づく新商品開発による売上増加、といった目覚ましい成果をあげている。例えば、中国のスナックメーカーBaicaoweiは店舗の購買データから顧客の嗜好を分析し、テイスト・パッケージに反映させた新商品を次々と展開し続けることで、競合よりも45%高い店舗あたりSKU※2を実現させている。

各消費財メーカーにとっては、巧く伝統的小売を活用できるか否か、が勝ち残りの条件となるのではないだろうか。

※1 タイではアルコール飲料の販売時間が規定されており、通常0〜11時、14〜17時の間は購入できない
※2 Stock Keeping Unit(ストック・キーピング・ユニット)の略で、受発注・在庫管理を行うときの、最小の管理単位

タイのライブコマース市場規模(2022年)約3,000億円(EC売上全体の10%)

3. 消費者ニーズに応えながら、進化・拡大し続けるEC市場

タイはASEAN諸国の中でも高い成長率でECが拡大している。ASEAN主要6ヵ国の2019-22の年平均成長率は39%だったが、タイは47%と域内でも高い水準である。
新型コロナウイルスによる外出規制がEC利用を後押しした側面もあるが、UOB Asean Consumer調査によると、タイ消費者の95%が今後もオンラインでの食品購入を継続する意向を示しており、消費者の需要は底堅い。

Thai e-Commerce Associationの発表によると、22年時点で約220億ドル(約3兆円)規模の市場は、25年には約430億ドル(約4.4兆円)へと引き続き拡大傾向が続く見込みである。

ECの各チャネルに目を向けてみると、黎明期はSNSでの取引が中心だったが、ShopeeやLAZADAのような大手オンラインマーケットプレイスの登場により市場として確立。その後も、小売店舗のEC展開といったように、ECの中でも新たなチャネルが登場しながらタイのEC市場は拡大の一途を辿っている。各チャネルは特性が異なっており、タイムパフォーマンスや新たな体験価値などの消費者ニーズに次々と応えていきながら、常にECは進化し続けている(図表8)。

ECチャネル別の特性

また、昨今最もホットなトピックの1つは「ライブコマース」ではないだろうか。デジタルプラットフォーム上で、ライブ配信をしながら配信者が商品を紹介し、視聴者とコミュニケーションを取りながら販売する新たな売り方である。Facebook LiveやShopee Liveといったように、それぞれのアプリ上で提供されるライブコマースという新たな売り方がタイのEC拡大をさらに牽引している。

タイのライブコマース市場は22年に約22億ドル(約3,000億円)規模であり、既にEC売上全体の10%を占めている。日本ではライブコマース市場規模が約500億円で、EC全体に占める割合が約0.3%ということを考えると大きなギャップがある。日本にいると、この大きな変化に気付きづらいかもしれない。

特にタイは他の国と比較してもライブコマースの利用率が高い(図表9)。ソーシャルメディア利用率や利用時間といった観点よりも、人とコミュニケーションしながら買い物することを好むタイ人の「文化的側面」にフィットしていることが利用率の高さにつながっていると考えられる。

ASEAN主要6ヵ国におけるライブコマース・ソーシャルメディア利用状況

このライブコマース、有望な販売チャネルの1つであると同時に、リアルタイムで顧客のフィードバックが得られる点も特徴の1つだ。ライブコマースで得られた顧客の声をデータとして収集して、商品・サービスの改善に役立てているブランドも多い。

さらなる成長が期待できるEC、その原動力の1つであるライブコマースへの対応は喫緊の課題とも言える。

4. 財閥による寡占化・PB化が進み、激しい競争に晒される近代的小売

サバイブする伝統的小売、拡大するECの動きに伴い、タイにおいて相対的にチャネル全体として劣勢になるのが近代的小売である。さらに、近代的小売の中での競争自体もより厳しいものとなり、業態の中での優勝劣敗も鮮明になっていくだろう。品揃え、価格、体験、立地、などで特徴的な価値がないと、中庸・中途半端では選ばれにくくなっていくことは間違いない。

タイの近代的小売は財閥の影響力が大きいことで有名である。事実、財閥の1つであるCPグループは近代的小売市場のうち約30%のシェアを占めている。CPグループが手掛ける7-ELEVENはタイのコンビニエンス市場の約85%を占め、MakroとLotus(2020年買収)はハイパーマーケット市場で約60%のシェアを占める。

このCPグループは小売業界において、川上の食品から川下の小売りまでVCを拡張させ、出口となる小売りも幅広い業態に展開し、コングロマリットとしてのグループシナジーを最大限発揮させている。M&Aをはじめ、強者が採るべき戦略を着実に実行することで、財閥による寡占化のトレンドは今後も続くと考えられる。

さらに、リアルの店舗だけでなく、True moneyという決済アプリを手掛けるAscend Moneyにも出資しており、グループ傘下の7-ELEVEN全店の決済手段として普及させているだけでなく、グループ外店舗の決済手段としても展開を図っている。その狙いは、一人一人の顧客の購買データを拡充させ、販促・品揃え・出店の高度化、PB(プライベートブランド)商品の開発強化につなげていくことだろう。

結果として、中小の近代的小売プレーヤーにとって競争環境はさらに厳しくなり、消費財メーカーとしては、棚の確保がますます困難になっていく状況になることは想像に難くない。

3 2030年の未来像を踏まえ、日系企業はどうすべきか?

これまで説明してきたように2030年に向けてタイの消費財・小売りビジネスは、消費市場と業界構造の両面で大きな環境変化が起きうることが予見される。最終章では、このような状況の中で変化を好機として捉え、さらなる飛躍を実現するためにはどうしていくべきかについて論じてみたい。

1.自社の提供価値の磨きこみ

まず、大前提として「消費者に対して提供する価値」がこれまで以上に重要となる。消費財メーカー・小売事業者のどちらであっても、あらためて自社の価値を見つめ直し、磨きこみを行わなければ生き残りは難しくなるだろう。その理由は大きく3つある(図表10)。

3つのトレンド

まず1つ目は、消費者の価値観が「画一的かつ合理的」から「多様かつ情緒的」に変化していく点だ。これまでのタイ市場においては、極言すると「より良いものを、より安く」といったシンプルかつ合理的な価値観を持つ層がマスマーケットを構成していた。

一方で、2030年にかけてはZ世代の割合の増加に伴い、価値観は多様化する。Z世代が重視する情緒性、これを一口に語るのは非常に困難である。流行りに敏感で自分自身を表現・発信する「ソーシャルアクティブ層」、地球環境や倫理観への問題意識が高い「自分らしさ追求層」、斬新さやスリルを好む「好奇心旺盛層」など、多様な価値観を持つ消費者の集合体である。

このように価値観が多様化された消費市場においては、どのセグメントに対してどのような価値を提供していくかが重要である。提供価値があいまいなプレーヤーは、消費者から選ばれなくなっていく。昨今、ジャパンクオリティだけでは通用しなくなりつつある中、これまでの戦い方・勝ち方の延長線上では厳しくなっていくだろう。

2つ目に、消費者の認知プロセスが「マスマーケティングによる価値の伝達」から「消費者起点の価値の拡散」にシフトする点だ。これまではTVCMを中心に企業側からの一方的な発信を通じて、多くの消費者の認知を形成してこれた。

しかし、これからのデジタルネイティブ中心の世の中においては、TVCMはもはや大きな影響力を持たなくなる。価値を実感・共感した消費者やインフルエンサーが、自ら発信することで価値が拡散することが主流になっていくのである。中庸な提供価値では、消費者に認知してもらうことすら難しくなる。

3つ目は、業界構造の変化に伴い、競争環境は「市場拡大下での共生」から「優勝劣敗による淘汰」の傾向がより強まっていく点だ。これは第2章で説明したとおり、特徴的な価値がない中途半端な店舗は、さらに存在感を高める財閥系の店舗や、利便性価値が高いECに伍していくことができず、淘汰されていく。また、消費財メーカーも特徴が薄い商品であれば、大手小売によるPB化の煽りを受け、激化する棚割り獲得競争を勝ち残ることは難しい。

2. 変化の兆しを捉え、いち早く適応するための顧客接点活動

このように、今後淘汰されることなく勝ち残っていけるかどうかは、ターゲットとする消費者を定めた上で、勝負できる価値軸を持つことができるかどうかにかかっている。では、どのように自社の価値を磨きこんでいけばよいか。ここでは、2つの方向性を提示したい。

1つ目は、「顧客理解に基づく、商品・サービスの再設計」だ。対象のセグメントや一人一人に合わせて、自社の提供価値を合わせていく方向性だ。これまでに説明した、AISのZ世代向けパッケージプラン、MISTINEの「Natural / Real」の価値訴求、Baicaoweiの伝統的小売の商圏顧客の嗜好に合わせたスナックがその例である。

他にも、タイでRed Bull販売を手掛けるTCPグループは、22年にZ世代をターゲットとした新しいエナジードリンク「Red Bull Halls XS」を開発し販売。健康志向なZ世代に合わせて、糖分は使用せず、大きさ・価格もZ世代の特性に合わせた設計で、人気を博している。狙うべきターゲットを見極め、その価値観やライフスタイルへの理解を深めた上で、自社が持つ強みを生かした商品・サービスの差別化が求められる。

2つ目は、「顧客接点の再定義による、新たな価値提供」である。30年に向けて業界構造が変化していくとともに、デジタルとリアルは融合が進み、シームレスに行き来する消費行動が当たり前になるだろう。そのような社会において、顧客接点としての販売チャネルの在り方は、重要な論点となる。売り上げ拡大はもちろんのこと、エンゲージメント強化やデータ取得を目的に、戦略的に活用していくべきである。

タイ発のデジタル・ファストファッションである「Pomelo」は、当初ECだけでサービス展開していたが、実店舗も展開するように戦略をシフトさせた。顧客は、オンラインで商品を予約し、実店舗で試着や受け取り、またコーディネートのアドバイスも受けることができる。ECだけ/実店舗だけでは提供できない新たな体験価値を生むべく、顧客接点の在り方を再定義した例である。

また、消費財メーカーにとってみれば、伝統的小売の巧い活用も検討すべきではないだろうか。流通カバレッジの観点で、22年時点で80万店舗も存在し、30年も引き続き存在感を発揮する店舗網を使わない手はない。マネジメントの非効率さ・代金回収リスクなど、特有の課題はあるが、デジタル化によって解消されていくだろう。また、伝統的小売のデジタル化により、各店舗でのPOSデータが取得可能になれば、さまざまな価値の創出につながる。データを基にした顧客理解において、財閥系の近代的小売を上回ることができれば、差別化された人気商品を武器に、近代的小売との棚割交渉も優位に進められるだろう。

こうした「価値の磨きこみ」を実践していくためには、前段として顧客接点を構築し、そこから取得したデータを基に顧客の理解を深めていく、といった活動が必要となる(図表11)。一連の活動を通じて、独自性ある価値によりターゲットのロイヤルティを高めていければ、リピート購入やアンバサダー化が期待できる。これは、ビジネスへのインパクトだけでなく、顧客との密なつながりから、よりリッチな顧客データを獲得できるというメリットも大きい。このサイクルを回し続けていくことで、変化の兆しを捉え、変化にいち早く適応していくことができる。

変化の兆しを捉え、変化に適応するための顧客接点活動

今まさに、不確実性が増し競争が激化していくタイ市場において、日本企業が引き続き存在感を発揮できるか、という大きな岐路に来ているのではないだろうか。これまでの延長線上で考えるのではなく、不確実性をマネージしながら日本企業として勝ち残っていくための事業マネジメントを、真剣に再検討すべき時期にきていると我々は考えている。

寄稿者プロフィール

  • 下村 健一 プロフィール写真
  • Roland Berger下村 健一

    一橋大学社会学部卒業後、米国系コンサルティングファームなどを経てローランド・ベルガーに参画。アパレル、外食、食品、ホスピタリティサービスなどの消費財やサービス、ならびに自動車を中心に幅広いクライアントにおいて、海外事業戦略、M&A 戦略、長期ビジョンなどの立案・実行を数多く支援。また、上記業界において、PEファンドに対するデューデリジェンスや投資後バリューアップの支援経験も豊富。

    TEL:+66 95 787 5835(下村)
    Mail:kenichi.shimomura@rolandberger.com

  • 橋本 修平 プロフィール写真
  • Roland Berger橋本 修平

    京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て、復職。消費財・小売、自動車を中心に幅広いクライアントにおいて、成長戦略、海外事業戦略、新規事業戦略、長期ビジョンなどの立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。

    Mail:shuhei.hashimoto@rolandbeger.com

  • Roland Berger ロゴマーク
  • Roland Berger Co., Ltd.(Thailand)

    URL:www.rolandberger.com

    17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom, Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand

INTERVIEW 幸せを待つ必要がないZ世代

INTERVIEW
幸せを待つ必要がないZ世代

  タイの大手ビールメーカーである「シンハービール」は、ブンロード・ブルワリーグループに属して事業を展開している。ブンロード・ブルワリーの子会社である「ブンロード・トレーディング」と「シンハー・ワールドワイド・インターナショナル」の最高財務責任者(CFO)と最高戦略責任者(CSO)であるヴォラパット・チャワナニクン(Vorapat Chavananikul)氏にタイ消費者の価値観や購買行動の変化などについて聞いた。

Q. 会社の歴史と現在の事業について教えてください。

ブンロード・ブルワリーは90年前に設立され、アルコールや飲料水、ソーダといった飲料事業からスタートしました。これらが私たちの主力事業です。最近では新製品「シンハーレモンソーダ」をリリースし、炭酸飲料市場に進出しています。そして、アサヒビールをタイで生産・販売するライセンスを持っています。また、亀田製菓との合弁会社である「シンハー・カメダ・タイランド」を設立し、米菓事業にも拡大しました。それに加えて、日本のパートナーである「ファームデザインズ」と「個室会席北大路」といったレストラン事業も展開しています。他にも「シンハエステート」といった不動産事業や「バンコク・グラス」といった容器包装事業も手がけています。私たちは自社の強みである消費者向けビジネスの経験や強い営業とマーケティング、多様な流通チャネルを活用し、飲料事業を維持しつつ、さまざまな分野で事業を拡大しています。

Q. 飲料のトレンドが変化した際に、どのように対応していますか?
また、各世代に対するマーケティング戦略はどうなっていますか?

世代によって利用する流通ルートは異なります。以前は伝統的小売と近代的小売りの両方で、小売店への営業とマーケティングに力を注いでいましたが、現在はオンラインチャネルにも注力しています。オンラインショッピングの成長が予想されるため、私たちは「シンハー・オンライン」というオンラインストアにも取り組んでいます。

さらに新しい世代は、手軽で便利なサービスを求める傾向があります。飲料水は重たいものなので、店頭での購入が嫌われることもあります。そのため、私たちは飲料水を毎月定期的に配達するサービスを提供しています。

Q. Z世代は買い物を楽しむライフスタイルを持っているとされていますが、それに対してどのように考えていますか?

「Z世代」の考え方は、「幸せをつ必要がない」という考え方が根底にあります。彼らは買い物を楽しむことが好きです。したがって、私たちは顧客がお金の使い道を考えている時期を重視したマーケティング戦略を立てる必要があります。

例えば、オンラインストアが割引を提供する4月4日、5月5日、6月6日などの特定の日付には、特にマーケティングに力を入れます。また、商品のプロモーションには人気の若手俳優を起用することも重要です。私たちはトレンドや顧客の年齢に合わせて戦略を展開し、若い世代にアピールしています。

プロジェクト管理アプリ導入で業務効率化 受注が増えても対応可能に

SK KAKEN (THAILAND) CO., LTD.
Country Manager 國枝 正章 氏(右)
Wanchalerm Peirapattanapoom(マグ) 氏(左)

戸建て住宅の需要増加が業務見直しのきっかけに

國枝様 当社は住宅からオフィスビル、工場等で幅広く使用される建築仕上塗材及び機能性塗料、シート建材などを生産販売する総合メーカーです。2024年に日本本社創業70周年、タイ法人設立20周年の節目を迎えました。日本国内シェアは52%。海外では、シンガポール、マレーシアを皮切りに、香港、中国、タイ、インド、インドネシアなどに進出しています。

タイにおいては、タイ最大の都市プロジェクト「One Bangkok」にも携わっています。コロナ禍でビルやコンドミニアムなど大型物件の建設がストップするなど打撃を受けましたが、有難いことに戸建て住宅の需要が拡大し、当社のデザイン性・機能性に優れた仕上材の施工が増加。バンコク中心のコンドミニアムから郊外の一軒家などの施工管理が増えたことでマンパワーが必要になり、体制の見直しを余儀なくされました。

無料チャットツールでの
写真・情報共有に限界を感じ、KANNAを導入

國枝様 当時無料チャットツールを使って物件ごとにグループを作成し、アルバムに写真を投稿して管理していました。ところが、保存容量や期限に制限があったほか、画質の劣化や写真の検索にも不便を感じており、もっと使い勝手が良いアプリはないものかと探していたところ、KANNAに出会いました。

他社のアプリに比べKANNAはプロ向けにあり過ぎず、操作性に優れており、そして費用も抑えめ。図面や写真、物件名、使用スペックなどからすぐに検索ができ、タイ語を含め多言語対応している点も大きな決め手となりました。現場で業務を行う社員からも見やすいと好評で、導入から3日で全社に浸透しました。

瞬時に情報共有できることで効率化し、
対応可能案件数も増加

マグ様 戸建て住宅の施工案件は全国から受注が舞い込み、スタッフは現地に泊まり込むなど情報の共有化がより求められるようになりました。KANNAは写真をアップロードした際の日時が残ることから事後報告にならず、リアルタイムで進捗が共有・確認できます。  また、一人一人が抱える物件数および施工面積のデータを活用することで、個々人のパフォーマンスを可視化し、人事考課にもスムーズに活かせています。

國枝様 当社は、現在売り上げも好調でパタヤにも支店を出すことになったのですが、その分対応する案件数も増えています。そんな状況でもKANNAを活用することで、一人あたりの対応可能な管理物件数を大幅に増やすことができ、業務も効率的にこなせるようになっています。こうした点でも、現場も経営側も、お互いにプラスの効果を感じています。

証拠として工事写真が活用でき、
施工のやり直しなどの手間が軽減

國枝様 KANNA導入後のメリットとしてもう一つ「現場の証拠を残せることで、施工のやり直しが減った」という点です。施工不良を疑われた際、KANNAでは撮影日時が記録されているため、トラブル発生時にKANNAで保存した写真が証拠として使えます。これは当初の予想を超えた副次的な効果でしたね。他には、名刺交換先の管理や営業レポート、またスタッフの誕生日リストや社内レクリエーションの記録など、活用分野は施工管理のデータベースにとどまりません。タイ人は写真を撮ることが好きで、ITリテラシーの高い若者も少なくないことから、KANNAはタイと親和性が高いアプリだと感じています。また、昨年アルダグラム社のタイ拠点が開設されたことで日本語・タイ語でのサポートが受けられるため、タイ人主導でより幅広い分野への応用が進んでいます。

当社タイ法人は、次なる10年を新たな展開の10年と位置付けており、メーカーとしての立ち位置を強めていく方針です。そのために重要となる組織力の強化にはKANNAをはじめとするITの力が不可欠です。

 


ALDAGRAMロゴマーク

株式会社アルダグラム(タイ駐在員事務所)

101 True Digital Park, Pegasus Building, 5th Floor, Sukhumvit road,
Bangchak, Prakanong, Bangkok 10260

E-Mail:info_thai@aldagram.com

WEB
https://aldagram.com/ (日本)
https://aldagram.com/th/(タイ)

無料トライアル受付中
https://lp.kanna4u.com/ (日本)
https://lp.kanna4u.com/th/ (タイ)

アルダグラム社 – KANNAがもたらすタイのノンデスクワーク業界の革新

 2019年5月に創業した株式会社アルダグラムは、建設業や製造業など現業社会に存在するさまざまな情報を一元的に管理するアプリ「KANNA(カンナ)」を開発したベンチャー企業。これまでに10ヵ国以上で採用され、23年6月時点で2万社を超える企業・団体が導入を果たしている。現場とバックオフィスなどとの情報伝達や意思共有を間断なく連携させ、ガバナンス強化と業務効率化を同時に実現する。スマートフォン一つで操作できるなど使いやすさも魅力の一つ。立ち仕事に従事する世界中のあらゆる人々とその働く現場に貢献したい。そうした想いが日本発のグローバルプラットフォーム構築に向けて動き出している。

仕事のミスコミュニケーションや手間をカンナのように削る

「Unlock Your Value(あなたの価値を開花させる)」――。アルダグラム社のミッションとして掲げるこんな想いが、創業者の一人で最高経営責任者(CEO)を務める長濱光氏にはある。安価な賃金を背景に人海戦術で業務を遂行していたタイの現業社会。事務作業や移動、情報伝達の手間を工具のカンナのように削り、生産性を最大化する。そんな意図から開発された「KANNA」がリリースされたのは2020年7月。導入を決めた企業・団体は22年11月時点で1万社を突破し、その7ヵ月後の23年6月には早くも2万社を突破した。アプリの広がりとともにサービスを提供する社内スタッフも増員され、現在は国内外を含め80人を超える厚い陣容となっている。

建設業界のDX化は待ったなし

建設コストの高騰と少子高齢化を背景に建設DXの進む日本。同じ状況にあるタイでも「建設業界のDX化は待ったなしの状況だ」と長濱CEOは分析する。
タイの建設業界では社外との連絡に個人のSNS(チャットツール)を使用することも多く、情報共有が点在化しがちとなり、担当マネージャーを介した情報のリレーが常に行われているのが現状。また、セキュリティ環境外のため情報漏洩のリスクも高い。オフィス外や現場からスマートフォンやタブレットで最新情報にアクセスできる「KANNA」は、一元化されたコミュニケーションとプロセス管理を可能にし、顧客の資産を守る。

対象は建設業に限らず、およそ「現場」と名の付く多業種・現業全般への導入も積極的に提唱している。タイで中心を占める自動車産業はもちろん、製造業、不動産業、ホテル業、運輸・倉庫業など、それは多岐にわたる。業種の限界や垣根を感じさせない画面設計にしているのも特徴だ。

業界のエグゼクティブ150人を集めたイベントを開催

タイ駐在員事務所の開設を機に、7月にはバンコクのクイーン・シリキット・ナショナル・コンベンションセンターで、エグゼクティブ150人を招待したイベントも開催。在タイ日本国大使館の公使、現地の日系・タイ系大手ゼネコン、建設コンサル、チュラロンコン大学の教授、長濱CEOらが業務効率改善の必要性とガバナンスの強化を訴えた。進出間もない企業のイベントとしては破格の規模だ。

社名の「ALDAGRAM(アルダグラム)」は、「ALDER(ハンノキ)」と「DIAGRAM(情報図形)」を組み合わせた造語。樹木は人間が生きていく上で欠かせない酸素の供給源であり、建設業界にとっても欠かすことのできない材料。全ての人から必要とされ、幹を中心に力強く枝葉を広げていく「樹木のような存在でありたい」というメッセージを込めた。世界で最も数多く自生するハンノキの英名と自社の強みであるデータサイエンスの象徴(ダイアグラム)から採った社名に、長濱CEOらの決意を読み解くことができる。

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寄稿者プロフィール
  • CEO 長濱 光 氏 プロフィール写真
  • ALDAGRAM
    CEO 長濱 光 氏

    IE Business SchoolにてExecutive MBAを取得。 タイ国大手法律事務所の創業者らとFASを共同創業し、 東南アジアでM&A業務を6年間経験、大学院へ留学。 不動産系の東証一部上場企業に勤務し、リフォーム会社のM&A・PMIをリード。 2019年5月に株式会社アルダグラムを創業。


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株式会社アルダグラム(タイ駐在員事務所)

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TOMAS Engineering – 太陽工業社製テント事業の継承から2年

製造業向けエンジニアリング商社TOMAS Engineering Co., Ltd.は、未曽有の洪水被害からタイ経済が回復向かう最中の2012年2月に創業。当初は機械などの工具商社として、その後は総合エンジニアリング企業として成長を続けた。ちょうど10年目を迎えた21年には、太陽工業株式会社のタイ法人THAI TAIYO TENT Co., Ltd.から事業を継承。タイで数少ない本格的な工業用テントの取り扱いを開始するようになり、一気に事業の幅を広げるまでとなった。コロナ禍からの回復を見せるタイの物流市場は近年大きく変化を見せており、ここで確かな礎を築こうと人員も増強した。ジャパン・クオリティの高品質テントでタイ物流業界の変革に挑む。

物流市場の変革に大胆に挑む筋肉質となった新生TOMAS

太陽工業が日本で製造販売してきた「太陽テント」は、酸性雨や紫外線などといった過酷な屋外環境から顧客の大切な製品等を守る屋外施設。遊休地などを利用してコストと時間をかけずに、一時的な物流拠点として活用するのに優れた構造物だ。一方で、価格ばかりに目を向けた新興国などの安価なテントは耐久性に劣り、風雨によってテント膜が破れ鉄骨が曲がることも。そのような玉石混交の市場であることが、特にタイにおいては認知度を不十分なままとさせていた。

こうした中でタイ事業を継承したTOMAS社は、まずは引き継いだ既存顧客200社に向けたアフターサービスを展開。折からのコロナ蔓延によって市場が足踏み状態にある間は、設計・施工エンジニアリングの増強・育成といった社内改革を優先させ、スタッフの教育・研修など組織づくりに着手。現在は筋肉質となった基盤を元にコロナ後の攻勢に挑んでいる。

アユタヤにあった太陽工業のタイ工場を引き継いだパートナー企業のNeo Max 2021 (Thailand) Co., Ltd.とは緊密な関係を今も続けており、TOMAS社の事実上の生産拠点として同社のシュウ・ヴィッセサン社長とも頻繁に連絡を取り合う仲だ。このほか、タイの鉄骨メーカーが高品質な製品の調達先として協業状態にある。

幅広いアプローチで顧客開拓を

コロナ後のタイにおける工業用テント市場を野崎社長は変革の時と読み解く。かつてのような勢いに依った設備投資は影を潜め、慎重になりながらも必要性・緊急性の増した真剣な需要が目を引くようになったという。背後には、コロナ禍でタイ市場にすっかりと定着した宅配需要や業績の回復を目指す企業各社の真剣な営みがあると見ている。「減る需要もあれば、増える需要もある。その声を聞き分け、求められる最適のものを供給していく」と野崎社長。それが自社に課せられた使命であると心得ている。

ジャパン・クオリティで知られた高品質テントだが、タイにおいては工業用テント市場における全需要の一部しか対応していなかったことも改めて認識した。日本とは異なり紫外線の強い熱帯のタイ。10年間耐え得る品質を求めるニーズばかりではない。ここに幅広くアプローチしていけば、応えられる客層も増え、商機も広がる。そう考えた。

ほぼ特注品だけに限ってきた体制から、スタンダードな汎用品を取り入れた新たな体制も構築した。顧客にしても、「とっつきやすく、導入までもスピーディ」と評判も上々だ。ニーズに合った機動的な生産供給体制が、きめの細かいさまざまなサービスの展開を可能とした。

太陽テントからTOMASテントへ

テントの品質保証も従来の5年間に加え、8年間という選択制も導入して顧客の安心を増した。初期投資に不安を抱くタイローカルの取引先には、毎月の支出費用を均一化できるレンタル契約の仕組みも用意。製品・サービスともども幅広いラインナップで多様化した需要に応える体制を完備した。

「現場を学習して、現場発の改善を提案」とは野崎社長が好み、社訓としても採り入れている言葉だ。学習と改善の積み重ねが実績となり、それが知名度・認知度につながっていくと考える。名実ともに、太陽テントからTOMASテントへ。品質は変わらぬままでも、顧客サービスと注ぐ情熱は確かなものを感じさせたいと意気込む。

TOMASとサプライチェーンと材料提供の関係図

敷地内にサクッと増設 運搬ロスをゼロに。遊休地活用で大幅コスト削減も!

固定式テント倉庫

固定式テント倉庫
常設倉庫のように長期間の使用に耐える倉庫をご計画でしたら、フレックスハウス「固定式」が、過酷な諸条件から大切な荷物を守ります。一般倉庫に比べ短期間で設置を可能にし、大幅なローコストを実現。優れた経済性は新時代のテント倉庫と呼ぶにふさわしいものです。

伸縮式テント倉庫

伸縮式テント倉庫
倉庫本体がジャバラ状に伸縮することで、保管物の入出荷にかかる手間と時間を格段に改善できるのが「伸縮式テント倉庫」です。外壁、屋根を畳んだ状態にすると、倉庫内部がオープンな空間になるため、大型車両の出入りや、長尺物や重量物の出し入れがクレーン作業でスムーズになります。

ハイブリッドテント倉庫

ハイブリッドテント倉庫
外壁に鉄板を採用したタイプです。耐久性、防犯性が格段にアップするうえ、膜屋根の最大特長である明るさはそのままなので、昼間の消費電力(照明)を抑え、省エネや経費削減にも貢献します。

断熱材付きテント倉庫

断熱材付きテント倉庫
内膜に二重膜システムで断熱膜材を採用することで、屋根の表面温度が中に伝わりにくいため、保温・保冷効果が飛躍的にアップします。テント倉庫の弱点であった“庫内の温度管理”という難題を解決した画期的な製品です。

レンタル、リースでの対応も可能

レンタル、リースでの対応も可能
お客さまの使用期間や使用用途に合わせて、レンタル、リースでの対応も可能です。必要な場所で、必要な数だけレンタルできるので非常にリーズナブルで経済的。
企業の過大な設備投資を避ける、新たなテント倉庫利用法のご提案です。


TOMAS Engineering

TOMAS ENGINEERING (THAILAND) Co., Ltd.

E-Mail
hirono@tomaseg.com

TEL
+66(0)81-340-4055 (担当:広野)
02-336-0711(代表)

WEB
www.tomastent.com

99/447 Nouvelle Tower Bldg C, Thana City Golf Club, Bangna-Trad Road KM14., Bang Chalong, Bang Phli District, Samut Prakan 10540

日系企業600社以上が利用!タイ・バンコクの日本人向けクリニック「DYMインターナショナルクリニック」

新型コロナウイルスの感染状況も落ち着きを見せ、タイへの出張者や赴任者も増えています。現地で予期せぬ病気や怪我に見舞われた時、慣れない土地で病院にかかるのは言語や医療費の問題など不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

今回は、タイ・バンコクでも日本語で安心して受診できる「DYMインターナショナルクリニック」の担当者に話を伺いました。

DYMインターナショナルクリニックの特徴

DYMインターナショナルクリニックは日本人が多く集まるバンコクの中心地、スクンビットSoi49とSoi33/1の2ヵ所に診療所を構えています。日本語対応が可能で、現在利用者の約9割が日本人です。

. 予約から支払いまで日本語のみで完結

語学が堪能な方でも外国語で症状を正しく伝えるのはとても難しいと思います。当院では常に目の届くところに日本人スタッフや通訳者を配置しており、日本語のみでスムーズに受診できる体制が整っています。通訳者によってレベルにばらつきが出ないよう、資格の有無だけでなく、日本人担当者が表現方法を細かくチェックする試験にクリアした通訳者のみを採用しています。

. 短い待ち時間で受診可能

当院はご予約なしでも受診いただけますが、LINEもしくはお電話による予約優先制です。LINEは日本語で1時間以内の対応が可能です。ご予約だけでなく、来院すべきか否か、キャッシュレス対応の可否やワクチンの接種時期のご相談なども受け付けています。

また、アンケートで寄せられたお客様からのご意見を日々反映し、待ち時間の短縮には積極的に取り組んでいるため、総合病院に比べ短い時間で受診できます。

. 総合病院と同等レベルの医療サービス

チュラロンコン大学やマヒドン大学出身の医師が常勤医師として在籍しており、当院で7年近く日本人の患者様を診察している医師もいるので安心して受診いただけます。

DYMインターナショナルクリニックのサービス

一般外来として、内科・小児科・皮膚科・婦人科・整形外科・眼科の6科目診療が可能で、企業や個人向けの健康診断サービスも提供しています。

1.一般外来

診療科目ごとに場所(49院または33/1院)や時間帯が異なります。

内科では、発熱、喉の痛み、咳などの症状がある方の他に、予防接種や性病検査、アレルギー検査などの対応をしています。皮膚科では、にきびや湿疹などの相談、整形外科ではゴルフ後の体の痛みについての相談を受けることが多いです。

婦人科では、女性医師・女性通訳・女性看護師の体制で対応しているため、女性が安心して受診できるようになっています。眼科では、専門医による様々な眼科治療にも取り組んでおり、最近ではドライアイに関する相談を受けることが多く、医師の判断により保険適用の治療もあります。

診療科目のさらに詳しい情報についてはHPの診療案内のページ(https://dymclinic.com/guide/)をご覧ください。

33院では平日限定で20時まで夜間診療を行なっていますので、仕事終わりの来院も可能です。

2. 健康診断

・ 個人向け健康診断

健康診断は男性用・女性用・小児科用でいくつかのプランがあります。プランによって検査内容が異なり、オプションで検査内容を選択することもできます。血液検査、身体測定、視力検査や医師による問診など基本的な診断を一通り受けることができるようになっています。

また、当院では、一般的な健康診断の他にワークパーミットや運転免許の取得に必要な健康診断にも対応しています。タイで働く際にはワークパーミットの取得が必須であり、取得に必要な書類の一つとして健康診断証明書があります。ワークパーミット用の健康診断証明書は300THB、運転免許取得用の健康診断証明書は400THBで取得可能です。

法人向け健康診断

現在600社以上の日系企業にご利用いただいています。基本的な健康診断項目をもとに、各企業様向けにカスタマイズしたオリジナルパッケージの提供を行っています。タイで日本語が通じる病院の中で比較的安価な金額で受けられる点も選ばれる理由の一つです。

2023年からは出張型の健康診断サービスを始めました。バンコクから車で4時間程度の場所で50名以上の企業様であれば日本人担当者同行の元、会社で健康診断を受けることができます。また、必要に応じて医療通訳(日本語⇆タイ語)の派遣も可能です。

比較的安価な金額で日本と変わらない環境・クオリティで医療が受けられる「DYMインターナショナルクリニック」。予約やお問い合わせは下記より。

予約・お問い合わせ

TEL:+66(0)2-107-1039(9時〜18時)

LINE:@dymclinic(平日9時~20時、土日祝9時〜18時)

クリニックの基本情報

営業時間:9時~18時(休診時間13時~14時)

夜間診療:18時~20時(平日のみSoi33/1院にて対応)

HP:https://dymclinic.com/

【DYMインターナショナルクリニック Soi49院】

【DYMクリニック プロンポンSoi33/1院】

BCG経済モデルで豊かな社会へ~タイの強みは農業・バイオ~

 「タイ政府は今後5年間で国内総生産(GDP)を1兆バーツ増やすという野心的な目標を達成するためにバイオ・循環型・グリーン(BCG)モデルを採用する」とタイ英字紙バンコク・ポストが伝えたのが2019年11月29日のこと。筆者もこの記事で初めて「BCG」という表現を知った。

同記事によると当時の高等教育・科学・研究・技術革新相だったスウィット氏が「閣議でBCGモデルの実行を最優先することで合意した。これは東部経済回廊(EEC)と『タイランド4.0』の関連政策としても重要だ」と説明。これ以来、現在までプラユット首相を含めタイ政府高官は事あるごとにタイの国家経済戦略としてBCGに言及するようになった。

BCG経済モデルとは何か

日本のグリーン成長戦略と親和性高い

筆者がTJRIニュースレターの創刊号(2022年6月14日付)のコラムのテーマに取り上げたのが、タイ政府が2019年に打ち出したバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルだった。

筆者が前回初めてタイに赴任した18年当時のタイの国家経済戦略は「タイランド4.0」で、当時のプラユット政権の副首相だったソムキット氏をリーダーとする米ノースウェスタン大学同窓のチームが作ったとされる。それはタイが先進国入りを目指すために東部経済回廊(EEC)で展開している、①次世代自動車 ②スマートエレクトロニクス ③先端バイオ・農業テクノロジー ④食品加工 ⑤富裕層向け観光・医療ツーリズム ⑥ロボット産業 ⑦航空産業 ⑧健康・医療産業 ⑨バイオ産業 ⑩デジタル産業-などを重点産業分野にするというものだった。

タイランド4.0は先進国が強みを持つ先端産業を総花的に育成・発展させようというものだ。自動車産業こそ日本と二人三脚で東南アジアのハブになるまで発展させることができたものの、「中所得国の罠」を脱することができないタイで果たしてリアリティーがあるのかという疑問を持たざるを得なかった。

そうしたタイの将来の経済発展モデルに対する不透明感に対応する形で登場したのがBCG経済モデルだった。それは地球温暖化対策と国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」といった世界的課題に対するタイ政府の回答でもあった。

日タイ両国政府は21年8月に開催した日タイ・ハイレベル合同委員会で、タイのBCG経済モデルと日本の「グリーン成長戦略」とは親和性が高いとし、連携していくことで合意した。その後、タイの経済ニュースで頻繁にBCGというワードが出てくるようになり、タイ政府の経済戦略の主役となった。

前国王の「足るを知る経済」がベース

タイの国家経済戦略「バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデル」とは改めて何か。このコンセプトを発案したとされる高等教育・科学・研究・技術革新省(MHESI)は、タイ国立開発行政大学院(NIDA)と共同でBCG経済モデルを詳細に研究・報告した英文リポート「THAILAND’S BCG TRANSFORMATION」(2022年)を公表している。BCGモデルは「タイランド4.0」よりはタイにとって地に足のついた経済戦略だとは感じたが、それでも政治家がパフォーマンスに使うキャッチフレーズの面もあると思っていた。

しかし、このリポートがタイ全土の合計40の現場取り組み事例を詳細に研究・報告していることを知り、認識を新たにした。そこでここではまず同リポートが解説している、BCG経済モデルとそのベースとなった「Sufficient Economy Philosophy(SEP)」を改めて紹介することで、タイ政府が言うBCG経済モデルが今後のタイの経済社会の基本構造になれるのかを探ってみたい。

同リポートはまず序文で、「20世紀のタイは、数百万人を貧困から救い、基礎的な生活保障、公的医療、教育を創出することに成功したが、21世紀には、気候変動、格差の拡大、経済の不安定化、環境悪化という課題がもたらされた」と時代背景を概観する。そして、「これらの改善策としてタイ政府はBCG戦略という国家プラットフォーム構築に着手した。それはより自立的でタイの将来の経済繁栄につながる現実的なロードマップだ」と強調している。

BCGの主要対象産業は4分野

リポートは、BCGの「bio」は再生可能生物資源やその付加価値製品のこと、「circular」は限られた資源を最大化するために製品をリユース、リサイクルする循環経済の必要性、「green」は経済、社会、環境の均衡を保ち、持続可能な発展につなげるより包括的なものだと規定。BCG戦略を通じて経済を前進する取り組みを下支えているのが「Sufficiency Economy Philosophy(SEP)」であり、それはプミポン前国王が提唱した「足るを知る経済(setthakit pho phiang)」と同じであり、SEPは1997年のアジア通貨危機後にタイでポピュラーな用語となったという。

そして、BCG経済戦略は「農業・食品」「健康・医療」「エネルギー・素材・バイオ化学」「観光・クリエイティブ経済」-の4つが主要対象産業だと明確化している。タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)によると2015~20年のBCG分野の投資総額は200億ドルに達したという。タイは「コメ」「キャッサバ」「サトウキビ」の世界トップクラスの生産国で、19年には食品輸出額は1兆バーツに達しているものの、これらの加工度は低く、価格も安いと指摘、BCG産業分野の発展余地は大きいと強調した。

ちなみに、同リポートはBCG経済モデルのベースとなっているSEPについて、「個人、家庭、コミュニティー、企業、さらにはBCG戦略のように政府の取り組みにも適用可能なことが最大の強みだ」と指摘。SEPはタイが1997年のアジア通貨危機のショックに見舞われた時期にルーツがあり、国民が無力さを感じていた時に自主独立する方法として登場したという。そしてSEPは「コミュニティーの価値と地域の知恵に基づいており、その中核にあるmoderation(中庸、穏健)の考え方は、例えば必需品とぜいたく品の間のバランスを取り、極端を避けるような仏教の『中道』と同義だ」とその哲学を解説している。

タイの持続可能な開発のためのBCGモデルの採用

THAILAND’S BCG TRANSFORMATION(2022年)

THAILAND’S BCG TRANSFORMATION(2022年)

BCGの中核ビジネスとは

豊かな農産物資源とBCG経済

MHESIの先のリポートでは、BCG経済がもたらす経済効果について、NSTDAの資料を引用する形で、①4分野の経済価値は今後5年間で24%増加 ②タイの循環型(circular)経済の現在価値は33億ドル ③世界全体のバイオベースの製品の市場価値は2024年までに4870億ドルに達する見込み ④タイの健康ツーリズムは94億ドルの収入をもたらしており、世界ランキングは13位 ⑤健康食品・飲料の市場価値は60億ドルと急成長―と説明している(図表2)。

一方、タイ投資委員会(BOI)は22年4月のタイのBCG産業における投資機会とBOI支援策に関するプレゼンテーションで、タイの優位性について、①生物多様性では世界18位 ②キャッサバ輸出では世界1位 ③バイオプラスチック輸出では世界3位 ④砂糖生産では世界4位 ⑤バイオディーゼル生産では世界5位 ⑥精米収穫量では世界6位-などとタイがいかに農産物を中心とした生物資源がいかに豊富であるかをアピールしている。それはタイ経済を実際に発展させるBCG産業は何かを考えるうえで大きな示唆を与えてくれる。先に挙げたBCGの主要4分野の中では最もリアリティーがあり、収益性も期待されるのが「バイオ化学」かもしれない。

BCGの経済ポテンシャル

バイオ化学産業のポテンシャル

バイオ化学という言葉はまだ一般にはなじみは薄い。クルンタイ銀行の調査会社クルンタイ・コンパスが22年6月に発表した、タイの「バイオ化学」産業に関するリポートは、「農産物を原料にバイオテクノロジーを応用して化学品・関連製品を開発・製造するものだ」と定義付けた上で、具体的には「サトウキビ」「キャッサバ」「アブラヤシ(オイルパーム)」などの商業作物を原料に、食品や飲料、動物飼料、化粧品などの工業製品に転換可能な化学製品を開発。農産物に最も大きな付加価値をもたらすものだとする。

その上で、農産物を最下部に、中間にバイオ燃料とバイオプラスチック、そして最上部にバイオ化学製品を置く、三角形型の基本コンセプト図を紹介し、上に行くほど付加価値が高くなると説明している(図表3)。

農産物に最も大きな付加価値をもたらすバイオ化学

日タイの民間企業もバイオ化学事業に着手

21年5月に行われた「日ASEANビジネスウィーク」のBCGに関するセッションでは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が「余剰バガス原料からの省エネ型セルロース糖製造システム実証事業」を、カネカは生分解性ポリマー「グリーン・プラネット」を紹介した。さらに、キャッサバなどを原料に独自の構造タンパク質の新素材を開発する山形県鶴岡市のバイオベンチャー企業、Spiber(スパイバー)の関山和秀代表も登壇。「化石資源を使わずにバイオ資源で作れ、海洋分解を含む環境分解ができることが素材としての強みだ。BCG分野はこれからの社会をけん引していく」などと述べ、自社のバイオ化学事業もBCG経済モデルだと強調した。

一方、タイ企業のバイオ化学分野への参入も加速している。キャッサバを原料にでんぷん粉やエタノールを製造するウボン・バイオ・エタノール(UBE)や製糖大手ミトポン・グループのバイオ化学分野での取り組みを報告、タイ最大手企業、国営タイ石油会社(PTT)グループも積極的だ。化学大手PTTグローバルケミカル(PTTGC)の子会社グローバル・グリーン・ケミカル(GGC)は19年に製糖大手カセタイ・インターナショナル・シュガーと合弁で、北部ナコンサワン県にバイオ関連製品の生産拠点となる「バイオケミカル・コンプレックス」の建設に着手した。

バイオベンチャー企業「Spiber」

世銀もタイの循環型経済を高く評価

世界銀行が22年6月29日に発表した「タイ経済モニター」のタイトルは「Building Back Greener: The Circular Economy」だった。バイオ・循環型・グリーン(BCG)というそのままの表現ではないものの、世銀もタイ政府が掲げた「BCG経済モデル」というコンセプトを評価したかのようだ。同リポートは、「より循環型(Circular)の経済アプローチが成長を促進し、その経済成長はより持続可能で、外的ショックへの耐性が強いものになる」との見方を示している。

モデル分析によると、「循環型経済への移行加速が、30年までに国内総生産(GDP)を約1.2%押し上げ、16万人分の新規雇用(全労働人口の約0.3%)を創出する」と予測。さらに、商品相場の高騰や変動を抑制し、30年までに温室効果ガスを約5%削減することができるだろうとの見通しを示した。

世銀の上級エコノミスト、ジェイミー・フリアス氏は「国内市場での資源需要の高まりに伴い、タイは政策ソリューションに循環型経済アプローチを加えた。これは、資源依存型経済から経済成長を切り離すことを可能にする」と述べた。

循環型経済への移行による潜在的経済効果

Building Back Greener: The Circular Economy

Building Back Greener: The Circular Economy

B日タイ企業によるBCGビジネスが本格化

2022年はBCG本格認知の元年

タイ政府が2021年に入り、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルをアピールし始めたことを受けて、バンコク日本人商工会議所(JCC)も同年10月に「BCGビジネス委員会」を発足させたが、当時はまだ、日本企業もタイの「BCG経済モデルとは何か」といった戸惑いを隠せなかった印象もある。しかし、22年になると、地球温暖化問題への世界的な関心の高まりも背景に、「脱炭素」とともに「BCG」のセミナーが相次いで開催され、BCGがタイ経済界で本格的に認知される「元年」ともなった。

東京都中小企業振興公社タイ事務所が22年11月中旬に開催したセミナーでは、タイ工業省の産業経済事務局(OIE)のワラワン局長が、BCG産業の振興について、「タイの発展には、農業部門をより強化していくことが重要だ。天然資源の豊富さ、多様性という強みを生かしたBCG経済の発想が国力の強化につながる」と強調。そしてタイ投資委員会(BOI)のデータを引用し、タイでBCGに投資したプロジェクト数は15年から21年の累積で2,900件、金額では6,750億バーツに達し、21年の単年度のBCG投資額は1,500億バーツと前年比123%増加したと報告。「これらのデータは、タイのBCGビジネスモデルが進化している証拠だ」との認識を示した。

また同セミナーでは、東洋ビジネスエージェンシーの梅木英徹代表がタイのバイオ経済について、「農産物の付加価値を上げて、農家の収入を増やすのが狙いであり、政策のターゲットの農産物はサトウキビ、キャッサバ、アブラヤシ(オイルパーム)、そして新しい農産物がヘンプ(大麻)だ」と報告。そしてBCGで日本とタイがどのような視点で取り組むべきかについて両国の地理的条件の違いを指摘した上で、食料とバイオエネルギーを生産する農業ではタイの方が圧倒的に優位であり、日本は食料・エネルギーの安全保障のために産地を確保しなければならないと問題提起。特にバイオエタノールでは日本にマーケットがあり、タイには資源があり、相互補完が可能で、タイは日本への供給基地になれると強調した。

BCG産業の会社例

2タイ政府はAPECでBCGをアピール

22年11月中旬にタイ・バンコクで第29回アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催された。タイでの開催は19年ぶりだ。今回のAPEC首脳会議ウィークでタイ政府が最もアピールした経済政策の1つがバイオ・循環型・グリーン(BCG)政策だった。首脳宣言の第16項で、「APECの持続可能性目標をさらに推進するための包括的枠組みとして、われわれはBCGに関するBangkok Goalsを承認した」と盛り込んだ。

ただ、今回のAPEC首脳会議に関する、少なくとも日本の大手メディア報道で「BCG」という言葉を耳にすることはほとんどなく、その後もBCGという言葉が世界で経済用語の1つになったという話も聞かない。しかし、BCGという言葉が世界的に普及しなくても、タイは自信を持ってこの経済戦略を持続的に推進していくべきだろうと思う。

特にタイの強みは豊富な生物資源と農業、そしてそれを利用するバイオ産業であることは間違いない。

タイにおけるバイオプラスチックの製造工程

タイ企業はバイオプラスチック、廃棄物発電などに注力

バイオ・循環型・グリーン(BCG)ビジネスに対する熱視線は23年にも引き継がれていった。バンコク日本人商工会議所(JCC)が23年2月21日に開催した2023年新年景気討論会でもBCGは一つのテーマになった。当日行われた、「2023年に注目されるビジネストレンド」をテーマにしたアンケート調査で、「BCG経済はどのような影響があるか」との質問には、「大きなチャンスがある」が14%、「多少のチャンスがある」が36%、「影響はない」が29%、「悪影響がある」が1%、「わからない」が21%という回答結果で、日本企業の間でもようやくBCGの認知度が少し上がってきた印象だ。

TJRIでは、23年にタイのバイオ、エネルギー関連企業トップのインタビューを相次いで行ったが、BCG経済モデルに対する関心は高かった。ウボン・バイオ・エタノール(UBE)のスリーヨット社長は、BCG経済モデルについて、「タイは水や土壌などが農業に適している。政府がBCGモデルを推進することで、より多くの研究事業開発が行われるだろう。そうなれば、これまで長く発展から取り残された農業にも良い影響を与え、多くの利益がもたらされるだろう。さらに、バイオ化学産業ではバイオプラスチックに大きな需要があり、市場が成長する可能性は高い」との期待を表明した。

一方、化学品販売会社UACグローバルのチャチャポン最高経営責任者(CEO)は、TJRIが2月に実施した『Open Innovation Talk』の中で、「UACはバイオガス発電、ソーラーパネルなど再生可能なクリーンエネルギープロジェクトを展開していく。(中略)さらに、学校、商業施設、産業廃棄物からの有機廃棄物でバイオガス発電の実証実験を行う。現在、ラオスでごみ固形燃料(RDF)生産をしているが、インドネシアやカンボジアにも同様な事業での実現可能性調査をしている」とした上で、「BCG経済モデルに貢献できる事業を展開していきたいと考えている。

これは世界の脱炭素・低炭素社会の流れに沿ってこれから需要が高まる見通しであり、当社もこのトレンドに合わせて事業展開していく」と強調した。

日系企業に対するBCG意識調査アンケート結果

タイの真の強みとBCG経済の今後

観光産業とBCGモデル

2020年10月初旬、TJRIではタイ政府観光庁(TAT)のユタサック総裁(当時)にインタビューした。同氏は「タイ観光の最大の魅力とは」との質問に対し、「観光商品は本来、自然、ディズニーランドのようなテーマパーク、アクティビティの大きく3分野があるが、タイの場合は90%が自然であり、美しいビーチがあるから旅行者が来る。

しかし、コロナ後は新たに『NFT』というコンセプトで分野を再構成した。NはNature(自然)だが、環境保護が求められる。FはFood(食)の探求で、タイにはストリートフードからミシュラン店まである。TはThainess(タイらしさ)で、フェスティバル、伝統、ファッションなどだ」と答えた。

その上でBCG経済モデルにおける観光産業の位置付けに関し、TATは「BCGのアイデアを導入している。タイが促進したいと考えている商品を見ると、NFTのN(自然)があり、国内外のタイ旅行者には自然を維持してほしいと望んでおり、これはBCGだ。F(食)に関しては食品廃棄物を減らそうとしている。T(タイらしさ)では、われわれが世界中の旅行者に取り入れてほしいと思っている製品はBCGモデルに沿ったものだ」と強調した。

EVはBCG経済モデルに含まれるのか

過去1年ほどタイの経済ニュースで最大の話題はやはり、電気自動車(EV)と中国自動車メーカーのタイ市場参入に関するものだ。タイ政府が正式にバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルの主要対象分野として位置付けているのは、先にも挙げたように「農業・食品」「健康・医療」「エネルギー・素材・バイオ化学」「観光・クリエイティブ経済」の4分野だ。しかし、タイ政府関係者は当初、電気自動車(EV)やデジタル関連の産業もBCGの対象に含めて話すこともあった。

タイ政府は現在、中国勢のロビー活動もあってEVシフトを急加速している。EVが自動車の動力源の脱炭素化の切り札になるならば、広義のBCG経済モデルに含まれると解釈して良いのかもしれない。しかし、EVの動力源である電気の大半が化石燃料で賄われている限りはBCGモデルとはいえないだろう。さらに、バッテリー原料の生産地では資源争奪戦による環境破壊が伝えられ、バッテリーのリサイクル問題は世界的にもようやく研究が始まった段階だ。完全EV化がBCGモデルに沿ったものなのかもじっくり精査する必要もありそうだ。

バイオ燃料、大麻はBCGの主役になれるか

先の紹介したクルンタイ・コンパスのリポートに掲載されていた「バイオ化学」の基本コンセプト図で、最も付加価値の低い農産物と最も付加価値の高いバイオ化学製品の中間に位置付けられいたのがバイオ燃料とバイオプラスチックだ。世界各国でEVと自動車の動力源をめぐる侃々諤々の議論が続く中で、バイオ燃料が静かに注目を集め始めている。

欧州連合(EU)が今年3月末に承認した2035年にICE車の販売を事実上禁止する法案で、CO2と水素で製造する合成燃料(e-Fuel)を使用する内燃機関(ICE)車が例外として認めたとのニュースは大きな話題となった。合成燃料が認められるなら、同様にCO2排出削減効果のあるバイオ燃料はなぜ認められないのか。

おそらく、バイオ燃料は食料と競合するからとの理由だろう。しかし、農業大国は基本過剰基調だ。欧州の方針はすぐには変わらないように思われるが、すでにバイオエタノールやバイオディーゼルなどのバイオ燃料が普及している米国、ブラジル、そしてタイでは少なくとも将来可能性のある本格的EVシフトあるいは合成燃料の実用化までのつなぎとしてのバイオ燃料の価値は認知されており、その他の地域でもバイオ燃料が再評価される可能性はある。バイオ燃料がいったん葬り去られた日本でも合成燃料とともにバイオ燃料の利用促進を求める動きも出始めている。

タイではバイオ燃料はすでに普及が進んでおり、農業生産性の低さを考えれば、バイオ燃料作物増産のポテンシャルは高いと思われ、BCG経済モデルの有力製品の一つとなる可能性もある。東洋ビジネスエージェンシーでタイ産バイオエタノールの日本への輸出を検討してきた梅木英徹氏は最近、 大麻草由来成分のカンナビジオール(CBD)の製造で世界4位のデンマークのENDOCA(エンドカ)が5月に設立したエンドカ・サイアムのCEOに就任し、 大麻草を原料とするバイオエタノールの研究開発、実用化にも取り組もうとしている。

昨年の栽培解禁以来、大麻産業が一気に盛り上がりつつあるタイで、大麻がバイオエタノールの原料ともなり、タイ政府のバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済の主役の1人になれるかを長い目で見守っていきたい。

麻の様々な用途

COLUMN 「BCG」は新政権でも生き残れるか~PPPGCに見るバイオビジネスの現場~

 今年3月下旬、タイ南部プラチュアブキリカン県にあるPPPグリーン・コンプレックス(PPPGC)という会社のパーム(アブラヤシ)を原料として食用油やバイオディーゼルなどを生産する先進的工場を見学する機会があった。これまでトウモロコシ、サトウキビ、天然ゴム、そしてキャッサバという東南アジアの主要商業作物の生産現場を見る機会はあった。しかし、日本人にとっては極めて「異形」ともいえるパームの実がびっしり詰まった巨大な塊が、パーム油工場の広大な原料置き場にうず高く積まれた光景は衝撃的だった。パームビジネスにかかわってきた日本の商社などの企業の話を聞く機会はあったが、ほとんどの日本人が知らないであろうパームの加工現場を実際に見るのは初めてだった。東南アジア特有のこの生物資源は世界的にも利用価値が極めて高く、タイ政府が推進するバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルにふさわしい素材なのだろうと実感できた。

PPPGCのBCGビジネスモデルとは

「今後、電気自動車(EV)が普及していくとバイオエタノールは減り、エタノールメーカーはより高付加価値のバイオプラスチック生産にシフトしていくだろう。一方、ディーゼルエンジンはトルクが大きいという優位性があり、バイオディーゼルは今後5年間は横ばい水準を維持できるだろう。その後は、パーム油の用途は高付加価値製品のオレオケミカル(油脂化学)向けが増えていくだろう」

EVシフトが内燃機関(ICE)車の燃料に与える影響に関する質問に対し、PPPGCのチャイタット・ワンチャイ社長はこう答えた。PPPGCはタイの給油所運営大手PTGエナジーと、パーム油生産大手タ・チャン・インダストリー・グループ(TCG)、パーム苗卸し会RDカセットパッタナーの3社合弁会社で、2015年にプラチュアブキリカン県南部に「タイ初の完全統合型のパームコンプレックス(複合生産施設)」を着工、19年に操業を開始した。同施設は、パーム油から、食用油、バイオディーゼル、グリセリン、バイオマス発電、バイオガスなど、原料のアブラヤシからさまざまな製品を加工・生産している。そして、「工場で使用する電気は100%自給するサステナビリティを実現している」という。

同社長によると、パーム油市場の世界シェアはインドネシアが45%、マレーシアが25~35%で、この2ヵ国で70~80%を占めており、タイは4%程度に過ぎない。当初、バイオディーゼル燃料を含め、東南アジア産のパーム油に依存していた欧州が熱帯雨林伐採問題を理由に輸入規制を強化していることについて同社長は、「欧州はロシア・ウクライナ戦争でヒマワリ油が調達できなくなると、結局、東南アジアからパーム油を購入した。政治的要素が大きい」とした上で、「仮にパーム油を欧州が買わなくても中国とインドという巨大なマーケットがある」と強調。さらに、航空機燃料向けの「持続可能な航空燃料(SAF)」への需要が高まる中では、SAFは廃食油を原料としているため、結局は新しいパーム油を買わなければならないだろうとの見方を示す。

地球温暖化対策のトレンドは今後も続くと予想される中で、タイ石油会社(PTT)やPTGエナジーなどタイの石油会社も現在、脱化石燃料戦略を加速している。PTGエナジーとしてはこのPPPGCでバイオマスビジネスを強化していく方針のようだ。タイ政府も、パーム油生産を増やす場合でも、天然の森林は伐採せずに、天然ゴムをパームに植え替える方針を示しており、サステナビリティを重視しているという。バイオ資源の活用、農業残渣の活用など、PPPGCの取り組みはまさしくバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルを実践しようとしていると言えるだろう。

PPPGCの原料アブラヤシ置き場

政権交代と経済政策

5月14日の総選挙で前進党が勝利してから早くも1ヵ月近くになるが、いまだに次期政権は発足せず、実質的政治空白が続いている。総選挙結果が最終確定するまであと1ヵ月かかり、次期政権の発足は総選挙から約3ヵ月後というタイの政治慣行に改めて驚く。なぜ最終投票結果の確認に2ヵ月もかかるのか、日本人には理解不能だろう。

経済政策に関する議論は始まっているが、どのような連立政権ができるか分からない中では経済政策の先行きも不透明だ。プラユット政権で打ち出された経済戦略「タイランド4.0」と東部経済回廊(EEC)計画がなくなることはないだろうが、重点の置き方が変わる可能性があるのか。また、「バイオ・循環型・グリーン(BCG)」経済モデルについては、「全世界で取り組んでいるテーマでもあるので、名前が変わることがあっても、このような環境に配慮した政策は続くのではないか」(助川成也国士舘大学政経学部教授)との見方は妥当だろう。

今回のコラムで紹介したPPPGCのチャイタット社長は、「石油ビジネス企業はバイオに切り替えないといけない」とした上で、「バイオ原料はパームやキャッサバ、コメであり、安価で大量供給できるのがタイだ」と訴えている。こうした認識はタイのバイオ、素材、エネルギー関連業界では定着しつつある印象だ。その上で、「日本は原料を持っていないので、日本企業はタイの原料供給会社といかに組んで投資していくことが重要であり、日本企業と組めるタイ企業は20社ぐらいしかない。急ぐ必要がある」とエールを送っている。

大麻は人類の貴重な資源になれるか
~ある日系企業に見るタイのバイオ産業の未来~

2022年6月9日にタイ政府が大麻(カンナビス)を麻薬リストから除外し、個人の栽培・使用を自由化したことがタイ社会に大きな波紋を広げ、現在もさまざまな議論が続いている。バンコク市内では今、有名観光地、繁華街だけでなく街中の多くの通りに緑色の大麻草の葉のマークのディスプレイがあふれている。今回の総選挙でも大麻自由化問題が1つの争点ともなり、第1党となった前進党を中心とする連立政権を目指す8党が合意した政策覚書(MOU)では、大麻の麻薬リスト再指定と規制法導入が盛り込まれた。

今回は、TJRI Webサイトで21年7月19日号で紹介した日系大麻会社「サイアムレイワ(2020)」のビジネスの現状を報告することで、タイでの大麻を含むバイオマス産業の未来を探ってみたい。
記事提供:TJRI特集より(公開日 2023.06.13)

左:サイアムレイワの大麻工場内 右:サイアムレイワの茅原拓人取締役副社長

植物工場で新しい栽培方法を確立

「苗を成長させて収穫するまでのプロセスで、弊社はこれまで外部環境の不確定要素を極力排除するためにインドアで栽培をしてきたが、このほど品質管理を強化するために、海外では事例はあるがタイでは初めてとなる新しい栽培方法を確立した」
医療・産業用大麻の栽培と大麻関連製品の製造・販売を手掛けるサイアムレイワの茅原拓人取締役副社長は、ブリラム県クームアン市にある大麻を栽培する同社の植物工場内で、同社の生産モデルについてこう説明してくれた。同社の藤代浩司社長インタビュー記事に対する読者の反響が非常に大きかったこともあり、早く工場見学をしたいと思いながらも実現したのは今年5月12日のことだった。

サイアムレイワの設立は2020年7月で、同月には工場建設に着手、21年1月には完成した。ちょうど同月には民間企業の大麻栽培・販売などのライセンス制度が始まり、すぐにライセンスを申請。同年8月に「栽培」「販売」「種子輸入」「種子販売」のライセンスを取得し、すぐに栽培・生産を開始した。大麻成分はストレス緩和や不眠症などに効果があり医療用に利用されるカンナビジオール(CBD)と、陶酔作用が強いテトラヒドロカンナビノール(THC)に大別され、大麻(カンナビス)の品種にはTHC濃度の低いヘンプもある。サイアムレイワでは当初、THCが0.1~0.2%以下のヘンプの種で栽培をスタートした。

左:サイアムレイワの大麻工場内 右:サイアムレイワの茅原拓人取締役副社長

IoT、そしてブロックチェーン

茅原氏によると、屋外ではなく植物工場内での栽培にしたのは、特に温度管理ができないとTHCの濃度が上昇してしまうなど品質が安定せず、病院や製薬会社などへの出荷ができないためだという。同氏は「製薬会社などに卸せるレベルの生産設備を所有しているタイ国内企業は、弊社を含め完全にインドアの植物工場で生産している4社のみだ」とアピールする。

実際の栽培作業では、「受粉をしてしまうとCBDを分泌しなくなるので、雌のみを育てる。種自体が女性化した品種を使うが、2~3%ぐらいは雄になってしまうため、見つけたらすぐに除去して廃棄する」ことに留意しているという。栽培開始から約4ヵ月で1.4メートルぐらいの高さまで育ったら、花を手作業でカットしていく「トリミング」を行い、花を乾燥させる。また種から育てるほかに、健康そうな枝を選んでカットし、他の鉢に植え替えるという挿し木、クローン栽培も行っている。

同社のブリラム工場の床面積は640平方メートルで、4ヵ月ごとに年3回収穫でき、生産能力は年間10万鉢まで可能という。屋内なので収穫期は季節に左右されず、栽培はいつからでも始められる。21年8月から生産を開始し、22年1月に初出荷。現在はフル生産状態になっているという。

生産モデルでは、センサーやネットワーク接続デバイスを農業機器や農作物に組み込むIoTなどのアグリテックを活用した栽培方法だ。主な環境要素は「温度」「湿度」「光」「二酸化炭素」などで、光は成長段階によってどの色、どのスペクトルが良いかは違うのでプログラム化している。さらに、生産出荷販売データを一元化した上で、デンソーと岐阜大学との産学共同研究で開発した「Symbol」ブロックチェーン基盤のトラッキングシステムを採用。データ改ざんを防ぎ、安心と安全を担保できるという。

用途は発電燃料から建材の可能性も

サイアムレイワではこうした先端テクノロジーを活用して生産したカンナビスのCBD、THC成分が多く高価な「花」は国内の病院に医療用として卸している。一方、剪定した「葉」は、お茶、コーヒー、バーム、ブラウニー等のスナック菓子、そして各種コスメティック(ボディローション、ボディオイル、リップクリーム)の商品に加工して、今年2月にオープンした直販店「大麻問屋」やグループ店、Eコマースなどで販売している。現在、制汗剤やデトックス用麻炭などの新規商品を開発中だという。

同社はまた、バイオマス発電用のウッドペレット生産も準備している。茅原氏は「発電用バイオマス燃料では現在、パームオイルを絞ったあとのヤシ種殻(PKS)が使われることが多いが、ヘンプは成長が早く、屋外では高さも4~6メートルぐらいになり、年3回収穫できる。油分もあり、非常に効率が良い」と指摘。「大麻草は成長する時の二酸化炭素の吸収力が他の植物に比べて抜群に良く、バイオ・循環型・グリーン(BCG)のストーリーにも合う」と推奨している。

さらに大麻草を断熱材や吸音材などの建材としての利用の検討も始めたという。元大手建設会社社員で一級建築士でもある茅原氏は、「従来の断熱材はアスベストの問題があり、石油由来の薬品、塗料も使っている。これをオーガニックのヘンプで作ればすべてが解決する。大麻は地球上の生物で2番目の強度があるという文献もある。また鉄の7分の1の重量で同じ強度がある」と説明する。

BCG経済モデルで豊かな社会へ ~タイの強みは農業・バイオ~

大麻の不遇の歴史と復活への道

2008年頃、米国シカゴでバイオエタノールブームを取材していた時、米フォード・モーターの創業者ヘンリー・フォードがT型フォードを作った際に、植物油由来のエタノールを燃料にしたとの話を知り、記事にしたことがある。今回、タイでの大麻自由化関係の取材をする中で、フォードは大麻の茎を原料とする樹脂でボディーを作り、燃料は大麻由来のエタノールを使う車を販売しようとしたという話も聞いた。しかし、どこでも生産できる万能の天然素材の普及を恐れた米国のロックフェラー財閥などの石油資本が大麻を毒性の強い麻薬だとアピールし、実質禁止に追い込んだといった陰謀論的な話も流布されているが、確認はできない。

日本でも「麻」は古来、しめ縄という神事の素材に使われたほか主要な繊維素材として使われてきた。しかし第2次世界大戦後、連合国軍総司令部(GHQ)が「麻取締法」を制定させ、麻の栽培を実質禁止し、麻産業は衰退していったという。私自身、GHQの影響が強い戦後教育のせいなのか「大麻=違法ドラッグ」としか思っていなかった。本当に米石油資本が「生産地が限られ自ら蛇口を閉められる石油で世界の政治経済をコントロールする」(業界筋)ために、大麻を抹殺したといった話が真実かは分からない。それでも、今後、多くの地域で生産可能な大麻の資源としての優位性、万能性が確認されてくるなら、歴史の真相は自ずから浮かび上がってくるのだろう。

タイ次期政権はどう対応するか

5月14日のタイ総選挙で第1党となった前進党を中心とする連立8党の政策MOUに大麻の麻薬リスト再指定、規制再強化が謳われている。ただ前進党ピタ党首のメディア株保有問題がくすぶる中では、次期政権がどうなるかはまだ分からず、大麻再規制の先行きも不透明だ。昨年6月の大麻実質自由化後、想定されていた規制法の導入が遅れ、大麻の一般販売が実質野放し状態になっていることに対しては、大麻の積極活用を主張する人々の間でも規制導入とルール順守体制の整備が急務との声も聴かれる。

サイアムレイワの茅原氏も、「政府は国民に対して大麻使用のルールに関する啓もう活動を積極的にはしていない。一般のタイ人は、麻薬成分が少ないCBD商品すら怖くて買いたがらない。タイ政府が推奨しているCBD製品をまじめに開発し、販売しているタイ企業も困っている」と指摘。さらに、「街中にある大麻販売店の大半がライセンスを取得しておらず、安全が確認できない製品が出回っている」とし、非合法の大麻販売が増えたことで大麻のイメージが悪化している事態を憂慮。「新政権になって法を順守している企業が、正しい大麻への理解のもとに成長できる環境がくることを強く望んでいる」と訴えている。

BCG経済の主役になれるか

前進党を中心とした連立政権を目指す陣営が、大麻の再規制方針を打ち出したことで、大麻ビジネスに新規参入した業者の間で不安が広がっている。規制緩和に伴いライセンス取得を義務化したにもかかわらず、警察など当局はほとんど監視・管理ができておらず、ライセンス制度が有名無実化しているとも見られる。

TJRIニュースレターの前号で紹介した、大手私立病院グループのバンコク・ドゥシット・メディカル・サービス(BDMS)のチャイラット最高執行責任者(COO) の 「現時点では自由化は医療用大麻に限るべきだ。医療用大麻は保健省の監督下にある病院内で使用されるため、管理が容易だ。一方、大麻を完全に自由化する場合には・・・国民が十分な情報と知識を持っているかどうかを検証する必要がある」とのコメントは、大麻に何らかのリスクがある以上、妥当な指摘だろう。

大麻をめぐってはさまざまな政治・社会的な議論もあるが、さまざまな利用方法がある天然素材としての価値の高さが損なわれるわけではない。適切な利用ルール順守体制を整備することで、大麻が本当にタイ政府の言うバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済の主役の1人になれるかを長い目で見守っていきたい。

協業パートナー募集中企業(BCG関連)

タイ企業と協業しませんか?提案サポートはTJRIまでお問い合わせ下さい

石油化学:エネルギー・石油化学を中心に幅広い事業を行う「UAC」

石油化学:エネルギー・石油化学を中心に幅広い事業を行う「UAC」

【募集要項】
1)ネピアグラスの高付加価値化、輸出用の土壌改良材の開発パートナー
2)油田のCCS / CCUSの技術パートナー
3)有機廃棄物のバイオマスガス発電への投資パートナー
4)データ管理 / マネジメント分野のパートナー
5)グリーン水素のバリューチェーン構築に向けたパートナー
6)タイでEV充電ステーションの共同開発と投資が出来るパートナー

UAC Global Public Company Limitedは電力、化学事業の2つをメインで事業を行っており、2021年総収益の56%がエネルギー、23%が石油化学を占めている。工業向け化学品や設備の輸入販売業事業を展開しており、天然ガスの探査・生産、石油精製、石油化学、潤滑油、ポリマーおよびプラスチックなどさまざまな業界における顧客のニーズに対応。08年にはバンチャク・コーポレーション(BCP)の子会社との合弁事業を通してバイオディーゼル工場に投資し、再生可能エネルギーおよび代替エネルギー分野にも進出を果たす。スコータイ県で石油精製工程でガスを分離して再利用する石油製品工場の開発に投資、チェンマイ県でバイオマス発電所を開設したほか、屋根型太陽光発電所、ガス火力発電所にも投資している。

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食品・飲料:ペットフード事業にも注力するタイ大手食品メーカー「NRF」

ペットフード事業にも注力するタイ大手食品メーカー「NRF」

【募集要項】
1)農業廃棄物を製品化する炭素回収プラントの管理技術
2)炭素隔離の経験を持つ日本企業のノウハウ
3)日本のニーズに合わせたプラントベース食品の商品開発
4)タイから日本へプラントベース食品の販路拡大
5)日本のニーズに合わせたペットフード商品の開発
6)タイから日本へペットフードの販路拡大

調味料、レトルト食品、プラントベース食品、ペットフードなどの製造・販売を行う食品会社。創業1991年、SET上場企業。タイ国内外に生産工場があり、2022年の売上高は約22億バーツ。自社製品とOEM製品を合わせて、イギリス、アメリカ、インドネシアなど世界30カ国以上・2000アイテム以上の製品が販売されている。近年では、PTT の子会社 Innobic (Asia) Co., Ltd. と提携したプラントベース食品工場や、同じくInnobicと共同出資している代替たんぱく質レストラン 「alt.Eater」事業など、イノベーティブな食品事業にも進出している。NRFはタイ国外でのペットフード業界に成長の機会があると考えているのだが、日本への輸出経験はないため 、経験豊富な輸入代理店を探している。

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農業関連:タイ最大の有機キャッサバ加工製品の製造・販売企業「UBE」

タイ最大の有機キャッサバ加工製品の製造・販売企業「UBE」

【募集要項】
1)ベーカリー用有機キャッサバスターチ原料の食品生産・開発のパートナー
ー健康食品やスナックの生産・開発の共同投資または共同研究開発のパートナーを募集
2)機能性食材(食品・サプリメント用)の最先端バイオ技術・素材技術パートナー
ーハイテクかつ革新的な食品添加物の生産パートナー
3)生分解性パッケージの製造に投資または共同研究・生産開発出来るパートナー
4)サステナブルな航空燃料に投資または共同研究開発出来るパートナー

タイ東北部ウボンラチャタニ県を拠点にキャッサバを原料とする加工製品の製造・販売を行うメーカー。主な製品はエタノールとキャッサバスターチ。長年、エタノールやキャッサバスターチを中心に製品を展開してきたが、小麦粉の代替となるグルテンフリーのキャッサバスターチの製造開発のため、子会社のUbon Sun Flower社(UBS)に3億バーツ投資。グルテンフリーのベーカリー用有機キャッサバスターチのニーズはますます増え、ブラウニーやグルテンフリーのパン、即席加工食品の製造・販売を行っている。また、有機キャッサバスターチ、エタノールを利用した高付加価値製品の生産拡大を目指しており、機能性(食品・サプリメント用)素材や、主力製品のキャッサバスターチを利用した生分解性パッケージを製造することで付加価値を高めていきたい。

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食品・飲料:65年以上の歴史を誇るアジア最大の製糖企業「Mitr Phol」

65年以上の歴史を誇るアジア最大の製糖企業「Mitr Phol」

【募集要項】
1)バイオ技術パートナー
ーバイオ技術を活用した食品の製造。食品添加物、エキス、機能性食品の製造等
2)製品のマーケティングパートナー
ー栄養補助食品、健康食品、プレバイオティクス食品、バイオプラスチック製品等
3)飼料用のバイオベース原料関連の技術パートナー
4)バイオ燃料のパートナー

ミトポンは、65年以上の歴史を誇る、アジア最大の製糖企業で、タイはもとより中国やラオス、インドネシア、オーストラリアにも生産拠点を持つサトウキビ生産と製糖事業のリーディング・カンパニー。現在は、売り上げの60%以上を製糖事業が占めており、次いでエネルギー事業、木材の代替事業となっている。また、近年はタイの新たな国家戦略であるBCG(バイオ・循環型・グリーン)経済の促進にも力を入れている。今後は持続発展可能な事業を展開していくために、バイオ技術を活用して製品の付加価値を高めていくことを目指しており、特に代替エネルギーへの転換を実現するために研究開発に力を入れている。

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医療関連:ライフサイエンス事業に注力するPTTの子会社「Innobic」

ライフサイエンス事業に注力するPTTの子会社「Innobic」

【募集要項】
1)タイと東南アジアで市場拡大を目指すパートナ
ーすでに商品を持っており、タイおよび近隣諸国での市場拡大を目指すメーカー企業募集
2)タイでの製造工場を設立から共に行える合弁パートナー
ー医療用食品、医療栄養、患者向けの食品の生産 / 高齢者向け食品、嚥下食等の生産
3)Innobicブランドの製品を製造できるOEMパートナー
ー高齢者向け食品、嚥下食等 / 医療栄養 / 患者向けの食品機能性食品等

PTTの子会社であるInnobic(Asia)は、医薬品や健康食品などのライフサイエンス事業を拡大するために資本金20億バーツで設立。2021年4月、抗がん剤を開発する台湾最大の製薬会社「Lotus Pharmaceutical Company Limited」に15.6億バーツを投じて6.6%の株式を取得した後、同年11月には30.60%増やし、合計37.26%の株式を取得。同社は、既存のネットワークを通じて市場を拡大するための信頼を構築し、新しいパートナーシップを築くとともに、タイとアジアの製薬およびライフサイエンス事業のリーディングカンパニーとして前進するために、持続可能なエコシステムの構築にも注力している。

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寄稿者プロフィール
  • Managing Director 増田 篤 プロフィール写真
  • Mediator Co., Ltd.
    TJRI Editor-in-Chief 増田 篤

    一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

通訳から商談アポ、プレゼンテーションサポートまで。TJRIの一貫サポート

クルンシィ、スタートアップ支援フェア開催、日・ASEANの投資機会を創出

2023年6月9日、バンコクにてASEAN最大のスタートアップ・マッチングイベント「Japan-ASEAN Startup Business Matching Fair 2023」が開催された。本イベントは、世界最大級の金融機関である三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の連結対象子会社であるクルンシィ(アユタヤ銀行)が、タイ・日本・ASEANのネットワークを活用し、各種政府機関とも協働し各国スタートアップ企業への投資機会創出を目的として開催したもの。

タイ、日本、カンボジアを始めとするASEAN各国等9ヵ国60社以上のスタートアップが参加した。また、6ヵ国160社以上の投資家も参加し、ビジネスプランを交渉・アピールする機会となり、イベントの参加者は400名を超える盛況なイベントとなった。なお、最終的には、328件のスタートアップ企業と投資家の個別商談が実現した。

在タイ日本国大使館臨時代理大使の大場雄一次席公使は「スタートアップ支援は日本政府が推進している重要な分野の一つ。共創の実践が我々の成功への鍵になる。本年は友好協力50周年という節目の年でもあり、日本・ASEAN間のビジネスチャンスを創出し、今後さらに関係を強化する」と述べた。  また、首相官邸付大臣であるAnucha Nakasai氏は、「本イベントが、スタートアップの促進や地域との関係の醸成という政府の方針と合致し、ビジネスチャンスの支援と強化に重要である」と強調した。

一方、depaの社長兼CEOであるAsst Prof. Dr. Nuttapon Nimmanphatcharin氏は、「経済成長の原動力となっているデジタルスタートアップを通じて、新鮮なアイデアや革新的なアプローチにより、市場が拡大し、雇用を創出することができる。これらのソリューションは特に環境や社会的側面において人々の生活を改善し、持続可能な開発を促進することができる」と述べた。

クルンシィ社長兼最高経営責任者の大和健一氏は支援パートナーに感謝を述べた上、「クルンシィでのビジネスマッチングイベントの開催経験を生かし、ビジネスコミュニティにおける有意義なつながりを促進することに尽力している。本イベントを通じて、スタートアップ企業の将来の発展と成功に貢献したい」と述べた。

本イベントは、アユタヤ銀行として初めてのスタートアップイベントである。2023年は日ASEAN友好協力50周年の年であり、経済産業省、AMEICC(日アセアン経済産業協力委員会)の支援も得ている。なお、アユタヤ銀行は、2021年にタイのdepa(デジタル経済振興庁)、2022年にカンボジアのTecho Startup Centerとスタートアップ支援に向けたMOUを締結している。タイを起点としたASEANのスタートアップエコシステムを拡大、加速させるべく、来年も同様のスタートアップイベントを計画している。

カンボジアで高金利定期預金!タイ在住者も口座開設可能

「カンボジアの銀行の金利は高い」と耳にしたことはありませんか?

ほとんどの国の場合、銀行口座はビジネスビザや在住ビザが必要ですが、 カンボジアの場合、日本人であれば観光ビザでも口座開設ができます。

そこで、今回はネット金融大手SBIホールディングスの連結対象子会社であるカンボジアのSBI LY HOUR Bankの定期預金について、メリットや留意点、開設方法などをSBIの担当者が解説します。

SBI LY HOUR Bankの定期預金のポイント

日本人がわざわざカンボジアで口座開設をするメリットはどこにあるのでしょうか。

① 高い定期預金金利

SBI LY HOUR Bankの定期預金金利は最大7.50%。
これはカンボジア国内においても優位な金利です。

※タイバーツ口座(金利1%)も作成可能

② ドル建て預金可能

カンボジアの法定通貨はリエルですが、米ドルの預金口座(普通預金金利2.5%)も作成できます。
※タイバーツの預金口座金利1%も作成可

③ マルチプルエントリービザ (観光・ビジネス)で開設可能

タイをはじめ、東南アジア諸国でもその国に住む人しか銀行口座は開設できませんが、カンボジアの場合、観光で渡航した際にも口座開設が可能です。
プノンペン空港到着時に申請後(2023年5月現在)、来店・口座開設手続きをします。

④ デビットカード作成可

米ドルとリエル口座限定で、Visaのデビットカードが作成できます。

海外からもアプリで操作

海外からもアプリで各種手続き、残高や取引内容を確認できます。

安心の日系銀行

SBI LY HOUR Bankは、日本で証券や銀行、住宅ローンなどの事業を展開するネット金融大手SBIホールディングスが、両替事業や決済・送金サービス事業などを手掛けるカンボジアの大手財閥LY HOURグループのマイクロファイナンス事業を買収し、2020年3月から営業を開始した日系商業銀行です。
日本人スタッフが日本語で対応するため、いつでも安心して相談ができます。

口座開設に必要な書類

SBI LY HOUR Bankの定期預金口座を開設するのに必要な書類は以下5つです。 ※予約制

  1. 残存期間3ヵ月以上のパスポート
  2. 残存期間3ヵ月以上のVISA(マルチプルエントリービザ1~3年、プノンペン空港到着時取得可)
  3. お勤め先の詳細(名刺の画像・ウェブサイト等)
  4. ご自宅の住所が証明できる画像(免許証や公的郵便物等)
  5. カンボジア滞在期間中に宿泊しているホテルの予約確認書のコピー

留意点

日本やタイに比べ高金利で、米ドル建ての預金ができ、観光ビザでも簡単に開設が可能なSBI LY HOUR Bankの定期預金。
しかし、リスクがあることも開設前にしっかり理解しておきましょう。

❶ 口座の休眠

365日間一度も出入金が無い場合、普通預金口座が休眠状態となります。
一年間放置することのないように注意しましょう。

❷ 定期預金の中途解約

解約手数料は一切発生せず、普通預金口座と同利率の金利が適用されます。

❸ タイバーツの出入金

現金の預け入れは可能ですが、引き出しはできません。
カンボジアからタイや日本への海外送金は可能です。

❹ 利息にかかる税金

カンボジア非居住者口座の課税率は14%です(利息額から源泉徴収)。

❺ 定期預金の金利変動

金利が変更されることがあります。

❻ カンボジアビザ

ビザ申請カウンターの判断により、マルチプルエントリービザが発行されない可能性があります。

お問い合わせ

ご関心のある方はお気軽に電話・メールにてお問い合わせください。

SBI LY HOUR Bank Chamkarmon(チャムカモン)支店

118 Preah Norodom Blvd (41), Phnom Penh

キング ジェシカ(日本人スタッフ)
Mob:+855-81-288-880 Email:jessica.king@sbilhbank.com.kh
ラクスメイ(カンボジア人スタッフ)
Email:pichraksmey.um@sbilhbank.com.kh