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タイ・ASEANの今がわかるビジネス経済情報誌アレイズ

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新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略

Roland Berger

東南アジア伝統的小売に向けたB2Bプラットフォーム

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      日系消費財メーカーにとっての伝統的小売

      東南アジアにおける伝統的小売比率(2021年)

      東南アジアの小売市場において伝統的小売は重要な役割を持つチャネルである。インドネシアでは「ワルン」、ベトナムでは「クアハン」と呼ばれ、零細商店ながら現地消費者に不可欠な存在だ。定量的に見てもベトナムとインドネシアでは小売市場全体の40%を占めるゆえ、日系消費財メーカーにとっても重要な小売チャネルとなる。だが、メーカー側にとって、これら伝統的小売は悩みの種でもある。伝統的小売は1店舗ずつの個人経営が基本であるため、近代的小売(コンビニやスーパーなど)のように本部機能が存在しない。

      それにより1軒ずつ回って開拓しなければならず、専門の営業部隊が必要となってくる。同時に、相手はローカルの商店主なのでこちらもローカル人材で組成することとなり、組織としてのマネジメントは難しくなる。加えて、膨大な数の店舗をカバーする体制を作ろうとすると固定費もかさむ。そこまでしても、代金回収が上手くいかないといったトラブルも多い。

      もちろん、自前で営業部隊を持つのではなく、現地代理店やディストリビューターを使うことも少なくない。だが、有力な代理店は既に先行参入したメーカーに抑えられていることが一般的だ。また、代理店やディストリビューターを多層的に通すことで流通経路がブラックボックス化しやすい。消費者が遠い存在となり、彼らの動向も見えづらくなってしまう。

      伝統的小売のプラットフォーム化

      伝統的小売への流通構造比較

      このように悩ましい存在の伝統的小売であるが、物理的に張り巡らされたネットワークが持つ可能性は非常に大きい。ここに着目し、およそ10年近く前から日系企業やローカル財閥、欧米系企業がこぞって伝統的小売のプラットフォーム化を試みたという背景がある。プラットフォーム化とは、端的に言えばメーカーから伝統的小売に至る多層的流通構造をB2Bオンラインプラットフォームに置き換える取り組みだ。伝統的小売にはモバイルアプリを提供し、彼らはそこから必要な商品を必要なタイミングでメーカーに直接発注することができる。価格の透明性が担保されるとともに、デリバリーの状況もリアルタイムで追うことができる。メーカー側にとっても、どの伝統的小売で何が売れているかが見える化されるわけだ。

      この発想は実に分かりやすく、イノベーティブと言えるだろう。だが、結果として当時描かれたプラットフォームが実現されたとは言い難い。理想的とも思えた伝統的小売のプラットフォーム化は思ったように進まなかったのだ。その一つの要因は、伝統的小売店主のモチベーションと言われている。伝統的小売のB2Bプラットフォーム構想の多くは、伝統的小売ビジネスの効率化、そしてその結果による収益増を謳い文句としていた。各プラットフォーマーは、伝統的小売の店主に対して理路整然としたプレゼンテーションでその参画を促した。

      合理的に考えれば、伝統的小売はプラットフォームに組み込まれるべきだろう。だが、そう上手くは事が進まなかった。伝統的小売の店主は自身の小売ビジネスに熱心ではないのだ。親の代から受け継がれた店舗を惰性で行っているケースがほとんどである。長年のやり方が染みついており、事業の効率化や収益向上よりもこれまでの取引関係を変えることの億劫さが勝ってしまう。プラットフォームに入ることはメーカーや代理店の馴染みの営業マンから鞍替えすることなのだ。そういった情緒的な面も絡んで、「モチベーションが湧かない」という極めて非合理的な背景が伝統的小売のプラットフォーム化を拒んだと言える。

      B2Bプラットフォーム構想の再燃

      こういった経緯から、B2Bプラットフォーム構想は徐々に下火になってきた。しかし、コロナ禍によるECやオンラインデリバリーの進展もあり、東南アジアの小売・流通構造の地殻変化が今まさに起こっている。その中でここ最近、伝統的小売のB2Bプラットフォーム構想が再度の盛り上がりを見せているのだ。この1〜2年でも弊社に対する関連相談は実際増えている。一度は道半ばで頓挫したB2Bプラットフォームが東南アジアでいよいよ実現する機運すら感じられる。その中でも、旗主となり得るプレイヤーを3つ紹介したい。

      ビンショップ (VinShop)

      ベトナムの財閥「ビングループ」が提供する、伝統的小売向けのB2Bプラットフォームアプリ「ビンショップ」。2020年からサービスを開始しており、現在では10万店を超える商店が利用している。昨年には、伝統的小売に対し「手数料無料、財政証明不要、担保無し、40日間無利子」という思い切った融資プログラムを展開し、導入店数を一気に拡大させた(同内容の融資はすでに終了)。

      また、同アプリをビングループが運営する他事業で使用できるポイントプログラムも検討中と聞く。伝統的小売の商店主は、このアプリでの発注によってポイントを貯められ、そのポイントはビングループが持つレストランやホテル、またはビンマート等でも使用できるという。つまりは伝統的小売の店主を、ビジネスオーナーというよりも一消費者として見てプラットフォーム加入のモチベーションを与えるわけだ。見方を変えれば、ビングループのエコシステムに組み込もうという取り組みでもある。ベトナム最大の財閥グループゆえに為せる業だろう。

      グダンガダ (Gudangada)

      「グダンガダ」はインドネシアのスタートアップで、全方位的なB2Bプラットフォームを提供するプレイヤーだ。受発注機能や在庫の最適化支援、そして融資等の金融支援も行っている。これだけを聞くと、かつて多くのプレイヤーが目指したB2Bプラットフォームと類似しており、それ以上でもそれ以下でもないように聞こえるかもしれない。

      実際にはその通りであり、グガンガダの差別化要因はプラットフォームそのものではなく営業部隊にあると聞く。同社は、かつてのプラットフォーマーが行ったようなスマートなプレゼンテーションを伝統的小売店主にするのではなく、もっと粘着性の高い営業活動をする。泥臭く何度も通いつめ、店主との関係性を築いていく。その中で、少しずつ信頼を得てプラットフォームを提案するのだ。加えて、地場の代理店とパートナリングを組んだり、特定のエージェントをリクルーティングしたりすることも多いようだ。伝統的小売店主の心理的抵抗を上手く排除することで頭角を表したプレイヤーだと言える。

      ブカラパック (Bukalapak)

      「ブカラパック」はECプラットフォームとしてインドネシアでよく知られており、一般的にはB2C/C2CのECプラットフォームとしての印象が強い。だが、別の顔として伝統的小売のデジタル化支援の側面も持つ。その核となるのは「ミトラ・ブカラパック」事業である。いわゆるB2Bプラットフォームとしてメーカーへの発注機能等を提供することに加え、フィンテック機能も兼ね揃えている。

      具体的にはミトラ・ブカラパック加盟商店が銀行窓口的な役割を果たし、消費者が公共料金支払いや預金等を伝統的小売店舗できる仕組みだ。人口の半数以上が、銀行口座を持たないインドネシア消費者にとって、同加盟店舗が銀行の役割を担うこととなった意義は大きい。消費者の伝統的小売への訪店頻度を高め、「ついで買い」を促進できるからだ。さらには、伝統的小売は金融手数料を徴取することもできる。コロナ禍で経営状況が悪化したインドネシアでは、これらの機能が非常に魅力的に映った。

       

      上記の3社はほんの例示だが、水面下でもさまざまなプレイヤーがプラットフォーム熱を高めている。前述の通り、コロナによる構造変化も進むなか、伝統的小売のB2B領域において今度こそ大きなトランスフォーメーションが起こるのかもしれない。

      寄稿者プロフィール
      • 下村 健一 プロフィール写真
      • Roland Berger下村 健一

        一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーに在籍。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者(バンコク在住)として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。

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