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タイ・ASEANの今がわかるビジネス経済情報誌アレイズ

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新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略

Roland Berger

新興国消費者の変化

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    FMCG市場と経済ステージの関係性

    筆者は東南アジアを拠点に各国・各地でのコンサルティング活動に長く従事しているが、近年はそれぞれの国の消費者の個性がより如実にその購買行動に表れていると感じる。本稿では、このような消費者変化について論じたい。

    一般的に、低単価で商品に対する嗜好性が高くないFMCG(Fast-Moving Consumer Goods:日用消費財)の新興国戦略では、一人当たりGDPは非常に重要な指標となる。FMCGのプロダクトの種類毎に、一人当たりGDPがどの程度に達すると市場拡大が見込まれるかという閾値が存在し、欧米メガプレイヤーはこの値を読んで、どの市場にどのタイミングで投資するかを判断してきた。それにより、ベットすると決めれば有力なディストリビューターを囲い込むと共に、生産コストを極小化するために早い段階から現地生産を計画する。

    シンプルでありながら、思い切った投資の意思決定が求められる、いわばパワーゲームの様相である。P&Gやユニリーバ等の欧米メガプレイヤーは、このようなやり方で世界各地のFMCG市場を抑えてきたわけだ。だが昨今、その状況は変わりつつある。

    新興国消費者の価値観発出における“リープフロッグ”

    従来は、経済ステージ(一人当たりGDP)が上がっていくと、FMCGに対する消費も拡大していくという単純なセオリーが成り立っていた。もちろん、ヘアケア商品やオーラルケア商品、洗剤といった個別のFMCG商品毎に市場拡大が起こる閾値は異なっている。

    だが、それらを総じてFMCG市場規模として見た時、新興国においては一人当たりGDPとFMCG市場規模は強い相関関係にあり、一人当たりGDPの成長に呼応して一人当たりFMCG市場規模も伸びていく。ちなみに、先進国の域に入ると耐久消費財やレジャー消費などへと消費支出構造がシフトしていくことにより、一人当たりGDP成長に対する一人当たりFMCG市場規模成長は鈍化する傾向にある。

    新興国における一人当たりのGDPとFMCG市場規模の関係性(USD)

    図表1を見ると、2011年には新興国における一人当たりGDPと一人当たりFMCG市場規模の相関が極めて強く出ていたことがわかる。それに対して、コロナ禍直前の19年、そしてコロナ禍に入った21年は共に11年の相関係数よりも15~20%程度も下がっている。この背景には、ここ10年で新興国の多くの国でもデジタル・リープフロッグ※が進んだ点が挙げられる。

    新興国消費者はスマホを通じて、気軽に、かつ能動的に商品情報を取捨選択することができるようになった。商品比較サイトやソーシャルメディアを通じて、メーカー発信とは異なるソースから情報を得ることも一般的な購買行動になっている。メーカーによるマスプロモーションで、一方的に商品情報を与えられていたこれまでの在り方が大きく変わったのだ。

    自ら情報を取りに行って判断できるようになり、自らでその批評もできるようになった。これによってメーカーに操作されるのではなく、消費者は自らの本質的な価値観に基づいた商品購買をするようになった。このような消費者による能動的消費選択は、従来は先進国ステージで起こり始める現象だ。だが、今は新興国消費者においてもリープフロッグ的に起こり始めているわけだ。

    例えば、フィリピンの衣料用洗剤市場は一般的な閾値よりも早いタイミングで市場成長が進んだ。フィリピン消費者にデジタル・リープフロッグが起こり、現地人が本質的に持っている「社会価値」を重視するという性向が影響していると考える(詳細は後述)。

    自分の身なりであったり、匂いについて他人がどう感じるかを彼らは非常に気にする。そのような特性が働いて、セオリーとしての閾値よりも早いタイミングで市場拡大が起こった。近年はこのような国・市場がいくつも登場しており、結果として全体の相関にも影響を与えているのだ。

    ※「リープフロッグ」とは、既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービス等が先進国が歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まること。

    RBプロファイラーによる消費者の本質的な価値観の可視化

    以上が一人当たりGDPだけではなく、本質的な消費者の価値観がFMCGの新興国ビジネスにおいて重要になっていきている背景である。では、その本質的な消費者の価値観をどのように捉えればよいか。

    弊社はRBプロファイラーという独自ツールを持ち、こういった消費者の本質的な価値観(=生活者価値)を可視化することができる。生活者価値を19の普遍的な価値観に分解し、それぞれの価値に対して肯定を示すか、否定を示すか。そして、その肯定・否定の強さがどの程度かを基に、価値観の発出状況を「生活者価値マップ」として表すことが可能である(図表2)。

    RBプロファイラーの概要とフィリピンの衣料用洗剤ユーザーにおける例

    例えば、先のフィリピンであれば「社会価値」、そして「情緒価値」の中でも「フレンドリー」などの要素が肯定として強く発出している。我々の長年の研究から、これら価値に対して肯定を示す場合、他人からの見られ方を気にする傾向が強い。自らの身だしなみや匂いに敏感であり、アパレル商品や衣料用洗剤などの支出拡大がセオリーによるタイミングよりも早くなる。まさに前述の衣料用洗剤市場拡大の背景である。

    フィリピンはあくまで一つの例であるが、デジタル・リープフロッグが進んだ新興国各国では、このように一人当たりGDPに依らないFMCG商品の市場拡大があちこちで見られている。デジタル環境の充実がその国の消費者の本来の価値観をより直接的に発出させているわけだ。

    この世界観の中では、FMCGプレイヤーは、経済指標にだけ目をやるのではなく、その国の消費者の本質的な価値観を見極めて投資判断を行う必要がある。

    弊社は、そのためのツールであるRBプロファイラーを用いたサポートが可能である。ご興味のある方は、お気軽にご相談いただきたい。

    寄稿者プロフィール
    • 下村 健一 プロフィール写真
    • Roland Berger下村 健一

      一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーに在籍。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者(バンコク在住)として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。

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