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多様な観点から経営学を説く経営学の可能性

サシン経営大学院日本センター 藤岡資正所長コラム

経営学とM&A

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    M&Aとは買収(merger)と合併(acquisitions)を意味し、1990年代に持株会社が認められたことで事業単位でのM&Aが可能になりました。また、2007年に三角合併が解禁されたことなどで国境を越えた動きが加速しています。企業が行うメリットとしては、人的資源や技術といった経営資源の獲得、市場の拡大、規模や範囲の経済を追求するなど様々な理由が考えられます。

    現代の企業経営においてM&Aは経営戦略の一環として広く浸透し、その件数増加に伴い、経営学の観点でも多様な実証研究が行われています。そのなかで主流になっている研究の一つがシナジー効果の検証ですが、M&A後の業績や株価に対する影響については一様ではないことが示されています。

    コンサルティングファームなどの調査では、想定していたシナジー効果を獲得できたとする企業は少なく、35〜50%程度が当初の想定を下回るという結果が出ています。また19年にPwCが行った調査によれば、日本企業は約80%が買収価格にシナジーを織り込んでいることが示されています。

    しかし、実際にシナジーが十分に発揮されているとは言えず、特に日系企業の行う案件は割高となっていることが多いと言われます。そのため、デューデリジェンスをしっかりと行うことが大切であり、クロスボーダーの案件になるとその重要性はさらに高まることが考えられます。

    他方で、事前に合理的に判断されたシナジー効果と比較すると、M&Aを行う時点では既存事業とのシナジーが明確には理解されていなかったものの、「結果として」シナジー効果が生じた場合の方が、その後の業績に及ぼすプラスの効果が高いことが示されています。

    つまり、事前合理的に導き出された解は競合他社も同様の結論になりやすいため、デューデリジェンスでシナジー効果を検討することに加えて、買収後の統合戦略(post-merger integration)やガバナンス体制の構築、想定外の事象に対して事後的に素早く経営資源を組み合わせながら適応していくダイナミックな組織能力が不可欠です。

    米国や欧州のみならず、アジアでのクロスボーダーM&A(In-Out)が増加しており、今後もこうした傾向は続くものと思われます。しかしアカデミックな研究では、日本企業によるクロスボーダーM&Aの成功率は欧米企業と比べて非常に低く、デューデリジェンスの欠如、明確なビジョンや戦略性の不足、買収金額の見誤り、不十分なリーダーシップ、文化の相違といった組織的要因、ガバナンスの弱さなどが指摘されています。

    大切なのは、環境の変化のなかに機会を素早く感知し(sensing)、捕捉し(seizing)、組織内外の経営資源を再構成しながら組織を変革していく(transforming)、組織能力を醸成していくことです。M&Aは決して成功率が高いとは言えませんが、企業成長の3割がM&Aを源泉としているという研究結果もあるように、クロスボーダーM&Aは重要な戦略オプションであると言えるでしょう。

    寄稿者プロフィール
    • 藤岡資正プロフィール写真
    • チュラロンコン大学
      サシン(Sasin)経営大学院日本センター所長
      明治大学専門職大学院教授

    • 藤岡 資正 Professor Takamasa Fujioka, PhD.

      英オックスフォード大学より経営哲学博士・経営学修士(会計学優等)。チュラロンコン大学サシン経営大学院エグゼクティブ・ディレクター兼MBA専攻長、ケロッグ経営大学院客員研究員などを経て現職。NUCBビジネススクール、早稲田ビジネススクール客員教授。神姫バス(株)社外取締役、アジア市場経済学会理事、富山文化財団監事などを兼任。
      撮影:石田直之

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