中小企業社長兼経営コンサルによる、現場発-経営論

第8回 タイ事業撤退の判断基準

中小企業社長兼経営コンサルによる現場発経営論

Q:コロナ禍で業績が悪化しており、タイの事業を撤退すべきか悩んでいます。判断基準のようなものはありますか。

A:現在の経済状況は、前号で触れた通り「過去30年で最悪レベル」です。今年の業績が悪いのは仕方ないとして、そもそもタイの日系企業は普段どんな業績なのか、日系製造業をサンプルとして調査しました(※1)。そのサマリーが以下の表になります。

様々な観点から論じることができると思いますが、私が感じたのは次の2点です。

1 日本と同等の利益を出すのは難しい

調査対象企業の約4分の3(79社)が黒字というのは、タイで事業をしている期間が長く(平均約25年)、赤字が続いた企業は恐らく既に撤退していることを考えれば、高い水準になるのも理解できます(表1・3)。

一方、調査対象企業全体の税引後利益率は平均がマイナス0・13%、中央値も2・99%となっており、日本における製造業の税引後利益率の平均5・2%(※2)と比べるとかなり低い数値です(表1)。

ちなみに、5・2%以上の利益率が出ている企業は全体の4割程度となり、半分もいません。このことから、タイで日本と同等の利益を上げるのは難しいというのが見て取れます(表4)。

2 設立10年以内なら利益を出すのも難しい

設立10年以内の企業に限定すると、黒字の会社は約半分の10社、その税引後利益率も平均マイナス5・71%、中央値も2・24%となっています(表2・3)。

つまり黒字を出すのは容易ではなく、その収益性も厳しいというのが見て取れます。このことから「設立10年以内の企業で利益が出ているなら素晴らしいことだ」というのが分かります。

以上を踏まえて、撤退理由が今回のコロナ禍は別として、「日本ほど儲からないから」であり、特にその会社が設立10年以内であれば、そもそもタイで日本ほど儲けるのは簡単ではなく、再考の余地があるかもしれません。

自社がタイで何を求めるのか、事業拡張性はあり得るのかなど、今後の事業の在り方について専門家とも協議しながら、検討することが必要になるのだと思います。

表1:調査対象全体

表2:タイでの営業年数が10年以内の会社

表3:業績(税引前利益)、表4:日本の税引後平均利益率5.2%との比較

※1 調査時点でバンコク日本人商工会議所に業種「現地製造」として検索可能な企業(合計737社)からランダムサンプリングにより111社を抽出。抽出された企業の内、商務省に有効な財務諸表が登録されている107社を対象に、商務省登録財務諸表に基づく調査を実施した。なお、財務諸表は全てコロナ禍前の期間が対象である

※2 2019年経済産業省企業活動基本調査(2018年度実績)より算出

寄稿者プロフィール
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  • 倉地 準之輔

    日本で大手監査法人、外資系企業勤務を経て、2013年来タイ。外資系会計事務所のジャパンデスクにて日系企業向けコンサルティング業務に従事した後、15年10月にBizWings (Thailand) Co., Ltd.を設立。経営コンサルティング業務を提供し、現在に至る。公益財団法人東京都中小企業振興公社タイ事務所経営相談員。ジェトロ中小企業海外展開現地支援プラットフォーム・コーディネーター。公認会計士(日本)。東京大学経済学部経営学科、米ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。

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