中小企業社長兼経営コンサルによる、現場発-経営論

第9回 タイ政府景気対策「賃金の300%を税務上の費用に計上可能」

中小企業社長兼経営コンサルによる現場発経営論

 新型コロナウイルスは企業の業績にも大きな影響を与えており、5月号ではタイ政府の数ある景気対策の中から「賃金の300%を税務上の費用に計上可能」という政策を紹介しました。今回は、その後の動きを説明します。

 最終的にこの政策は勅令708号(※1)という形で制度化されました。条件は次の通りになります。

対象となる賃金

  • 社会保障法第33条(通常の従業員が該当)に基づく被保険者に対して2020年4月1日~7月31日に支払われた賃金であること
  • 月額賃金が1万5000バーツ以下の従業員の賃金であること
  • 通常の労働対価のみを含み、時間外労働手当、賞与等は含まない

対象となる企業

  • 当該会社の直近会計年度(19年9月30日またはそれ以前に終了した12ヵ月間の会計年度)の売上が5億バーツを超えず、また、当該会計年度における合計従業員が200名を超えないこと
  • 20年4月~7月の各月末の被保険従業員数が同年3月末の同人数を下回らないこと。ただし、今後局長が布告で定める適切な理由がある場合を除く
  • 歳入法典の他の勅令に基づく賃金に関する法人税免除を受けていないこと

 当初思っていたより利用範囲が限定的になってしまいました。「月額賃金が1万5000バーツ以下の従業員」のみ適用となり、それ以上の従業員については適用できないためです。

 5月号で紹介した際は、この点が明確になっていませんでした。例えば給与が2万5000バーツの人でも1万5000バーツまでは認められる可能性がありましたが、最終的にこの可能性はなくなりました。

 1万5000バーツは大学新卒給与のほぼ最低値(※2)です。こういった人材を採用している会社には、給与がそもそも月1万5000バーツ超の従業員しかいないことがあり、その場合は制度が活用できないことになります。かくいう私も、最終的に自社では使えないことが分かってがっかりした一人です。

 確かに利用できる範囲が限定的になりましたが、それでも適用できる会社にとっては引き続きメリットは大きいと思います。制度が適用できる企業におかれましては、積極的に利用されることをお勧めします。

図表

(※1)http://www.rd.go.th/publish/fileadmin/user_upload/kormor/newlaw/dc708.pdf
(※2)https://adecco.co.th/salary-guide
新卒の給与水準として9職種中7職種の最低給与が15,000バーツと設定されている。

寄稿者プロフィール
  • 倉地 準之輔 プロフィール写真
  • 倉地 準之輔

    日本で大手監査法人、外資系企業勤務を経て、2013年来タイ。外資系会計事務所のジャパンデスクにて日系企業向けコンサルティング業務に従事した後、15年10月にBizWings (Thailand) Co., Ltd.を設立。経営コンサルティング業務を提供し、現在に至る。公益財団法人東京都中小企業振興公社タイ事務所経営相談員。ジェトロ中小企業海外展開現地支援プラットフォーム・コーディネーター。公認会計士(日本)。東京大学経済学部経営学科、米ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。

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