バンコク不動産投資

元外資系投資銀行アセットマネジャーが分析する! バンコク不動産投資最新動向

第13回 サムローン駅はスクムビットライン延伸線の試金石

先月、BTSスクムビットライン(グリーンライン)東部延伸線最初の駅「サムローン」が開通した。この駅からバンコク都ではなくサムットプラガーン県になるが、全部で9つある新駅の中では最も期待できる駅だ。

拙著『バンコク不動産投資』を上梓した昨年2月当時、期待の新線として注目されていたパープルラインは、デベロッパーが際限なく沿線で新規プロジェクトを発表する中、全体のコンドミニアム供給量が7万ユニットにも達していた。その結果、供給過剰で市場は崩れるとほぼ確信したので、「パープルライン沿線は買ってはいけない」とはっきり著書の中で書くことができた。実際、昨年8月のパープルライン開通から現在に至っても販売在庫一掃は進んでおらず、今年3月、とうとう見かねた政府がノンタブリ県内の駅から500メートル以上離れたエリアでの開発規制を始めた。

そこでサムローン駅の話に戻るが、著書の中では「グリーンライン延伸沿線は今後のマーケット動向を注視」と書いた。当時、既にこの沿線でも大量供給が懸念されつつあったが、まだ、買ってはいけない、とまで書く確信がなかったからだ。
しかしその後、パープルラインが開通し、大量の販売在庫の存在が現実の問題となった頃、グリーンライン東部延伸線でも大手デベのAPが大型プロジェクト「アスパイアー・エラワン」の第1フェーズがわずか15%しか売れず、第2フェーズを凍結した。また、調査機関AREAはサムットプラガーン県の販売在庫総数は実は7,600ユニットもあり、パープルラインのノンタブリ県、9,500ユニットにほぼ匹敵すると公表した。すなわち、グリーンライン延伸線市場も一歩間違えば崩れる可能性が高いのだ。

しかし、スクムビットラインは東京の中央線のように複数のCBDを走り抜ける。この延伸線沿線なら乗換なしの職住接近が実現できるのも事実だ。郊外を走るだけでCBDに行くにはブルーラインへの乗換が必要なパープルラインとは人気度が違う。それにサムローン駅にはもう一つ、将来イエローラインのターミナル駅になるという魅力もある。

ただし、残念ながら、プライドの高いタイ人アッパーミドルクラスはバンコク都に固執する傾向が強く、インフラ整備の遅れたサムットプラガーン県はあまり人気がない。一方、沿線住民には日系企業などの工場で働く労働者が多く、彼らこそが主な見込顧客である。しかし今、最も住宅ローンが借りられないのがこういう工場労働者で、6割が与信審査で落ちるともいわれている。そんな中、もし大手デベロッパーが今の低迷するコンドミニアム市場の突破口としてこの沿線で大量供給を始めれば、ここでもまた市場が崩れることになる。

最後に一つ、投資コンサルタントしてアドバイスをしておきたい。少なくとも新駅の中ではサムローン駅が最も将来性がある。従って、筆者は予算が1,000万円しかないクライアントには、「中途半端なダウンタウンの中古を物色するよりサムローン駅前の新築物件を買う方が良い」と2年前から勧めてきた。もっとも、現在進行中の駅前プロジェクトは大手デベのものはなく、中堅デベのものが一つしかないのだが…。

一方、サムローン駅から500メートルも離れたら、もうそこは 300万円から500万円の工事監理もあまりできてない、安かろう悪かろうのスタジオや1ベッドルームしか見当たらない。首尾よく賃貸できても大半が5,000~6,000バーツ程度の家賃しか取れない。そんなセカンダリーなマーケットに外国人である我々が投資してはいけない。
不動産投資として効率が悪すぎるのだ。日本では外資系機関投資家が一本50億円から100億円の物件を探していて、20億円以下は見向きもしない。同様に我々のような個人投資家にとっても海外不動産投資である以上、投資規模が著しく小さいというのは立派な投資リスクなのである。


藤澤 慎二
前職はドイツ銀行の国際不動産投資ファンド、RREEFのシニア・アセットマネジャーで米国公認会計士。現在はバンコクに在住し、自身のブログ「バンコクコンドミニアム物語」(http://condostory.blog.jp)で、バンコクの不動産マーケット情報を発信している。
連絡先:087-481-9709
bkk.condostory@gmail.com

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