バンコク不動産投資

元外資系投資銀行アセットマネジャーが分析する! バンコク不動産投資最新動向

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第5回 プレビルドで大切なのは、プロジェクトを選び取る力

荒野の用心棒やダーティハリーで有名な俳優クリント・イーストウッド氏。今は映画監督としての才能も発揮し、彼が作る映画は「マディソン郡の橋」、「ミリオンダラーベイビー」、「グラン・トリノ」など、多くがヒットしている。そしてその成功の秘密は、彼の持つ優れた脚本を選び取る力にあるといわれている。彼は自分では脚本は書けない。しかし、数ある脚本の中からこれは映画にしたら面白くなる、というシナリオを選び取る力を持っているからこそ、次々とヒット作を出し続けることができるということらしい。

実はバンコクのプレビルド投資もこれに近いものがある。更地状態もしくは建設途中での早期購入になるので、大型プロジェクトだと竣工引渡しまで何年もかかる。それに投資家はデベロッパーではないので、自分で企画設計することもできない。従って、長期の将来性を先読みしながら、数あるプロジェクトの中から自分の投資クライテリアを満たすベストなものを選び取っていかなければならないのだ。もっとも、だからプレビルド投資は面白いともいえるのだが。
実際、プレビルドで儲け続けているタイ人投資家の多くは、サブアーバンよりもCBDやダウンタウンで、値上りが期待できる有望プロジェクトだけをプリセールで買い漁っていく。彼らには土地勘や経験、そして何より投資家としての実力があるからこそ、これはというプレビルド・プロジェクトを選び取れるのであり、滅多なことで失敗しないのだ。一方、中途半端な物件を買って損したり、竣工寸前になって焦って投げ売りをしてくるのは、経験も資金力もないミドルクラスの一般投資家たちに多い。
ここで、6月末時点での2つのプレビルド・プロジェクトの販売状況を比較してみた。デベロッパーはAP社とアナンダー社でどちらも大手だ。中心価格帯は同等でグレード・セグメンテーションもメインクラス。また、ライフもアイディオも名の通ったブランドで、物件スペックもほぼ同格である。

fudosanライフスクンビット48
・BTSプラカノン駅から600m
・2016年6月販売開始
・平均価格:平米98,500バーツ
・セグメント:メインクラス
・全戸数612ユニットは6月中に完売

fudosanアイディオ タープラ・インターチェンジ
・タープラ・インターチェンジ駅から100m
・2016年2月販売開始
・平均価格:平米97,800バーツ
・セグメント:メインクラス
・全戸数884ユニットのうち14%が販売済

いうまでもなく、バンコクのコンドミニアム選定でもっとも重要なポイントはマストランジット・システムの駅が近くにあることだ。しかし、駅から600メートルも離れたライフが1ヵ月ほどで完売し、一方で2月から販売しているアイディオは、2つの路線が交わる新駅からわずか100メートルなのに4ヵ月以上経ってもまだ14%しか売れておらず、ちょっと絶望的な数字といえる。単純に駅に近ければいいというだけの話なら、アイディオの方が完売でライフが苦戦しているはずだが、実際にはその真逆のことが起こっているのは何故か?
デベロップメント・パイプラインや将来の新線計画、駅周辺の開発計画、住宅地としての地歴や土地柄、安全性やプライバシーの確保、道路付け、徒歩や車でのアクセスの良さなど、プロジェクト全体をデューディリジェンスの中で見渡してみて初めて、タイ人がなぜアイディオでなく、ライフを選んだのかが外国人である我々にも分かってくるのだ。
巷では、海外不動産投資で大儲けできるようなことを書いた本がたくさん出ているが、常識で考えれば、土地勘もなく、地歴や土地柄、市場構造やトレンドもよく知らない外国人が簡単に儲けられるわけがない。まさに、優れたプロジェクトを選び取る力が不可欠なのである。

fujisawa
藤澤 慎二前職はドイツ銀行の国際不動産投資ファンド、RREEFのシニア・アセットマネジャーで米国公認会計士。現在はバンコクに在住し、自身のブログ「バンコクコンドミニアム物語」(http://condostory.blog.jp)で、バンコクの不動産マーケット情報を発信している。
連絡先:087-481-9709
bkk.condostory@gmail.com

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