Book Review

青春の切なさと残酷な運命が交錯する、恋愛小説

青春の切なさと残酷な運命が交錯する、恋愛小説
『わたしを離さないで』

Tonami Thailand Co., Ltd.
岡本祥和

1980年、トナミ運輸株式会社(現トナミ ホールディングス株式会社)入社。同社関連の国際物流会社、通関会社役員を経て2014年トナミ タイランド代表として着任。レムチャバン港における海上コンテナ、重量貨物輸送とコンテナ保管を行うマハポーン トランスポートの代表も務める。バンコク富山県人会会長。趣味はゴルフとビリヤード。

www.thaitonami.com/ja

ノーベル文学賞受賞が記憶に新しい、カズオ イシグロ氏の長編小説。臓器提供のために生を受けた、温室育ちのクローン人間たちが、残酷な運命に葛藤しながらも使命を受け入れていく姿を描いている。 舞台はイギリスの田舎町。幼少期~青年期を共に過ごした3人の男女が友情や恋愛に心を揺さぶられる風景だけを切り取れば、まるで青春物語だ。しかし終始、彼らの存在が臓器提供の役割を果たすためにあるという事実が読み手の心に重く響く。成人を迎えた頃から臓器提供は始まり、3~4回の提供で短い生涯を終えていく。

2010年の映画化をきっかけに本作を知ったという岡本社長、原作を読んでさらに魅了され、同氏の作品を読みあさったという。

「『わたしを離さないで』は、決っして逃れられない運命、変えられない未来に追いつめられていく若者たちの、健気で切なく残酷なストーリーです。主人公の語りは淡々としていますが、普通の人間と同じ体と心を持ちながらも、同じようには生きられない彼らの“生”に対する“もがき”が読み手に切なく訴え続けます。その抑圧された閉塞感は、現代人そのものかもしれません。5歳で日本を離れイギリスで育ったという著者の小説は、記憶と幻想が交じりあった世界観が印象的です。1900年代初め、上海で孤児になったイギリス人を描いた『わたしたちが孤児だったころ』も好きな作品です。上海に行かれたことのある方なら、きっと楽しめる作品ではないかと思います」。

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