【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

アセアン地域で攻勢を高める中国自動車メーカーの動向

アセアン地域で攻勢を高める中国自動車メーカーの動向

中国自動車メーカーが日系自動車メーカーの牙城であるアセアン市場を切り崩しに積極的に攻勢をかけている。その先頭を行くのが、マレーシアの国民車メーカーのプロトンを買収した吉利汽車やタイ最大の財閥CPグループと組んで進出した上海汽車グループである。本稿では、最近の中国メーカーの進出動向をみながら、中国メーカーのアセアン攻略の成否について論じたい。

2000年代に失敗した中国メーカーのアセアン市場進出

中国メーカーがアセアン市場に進出を図ったのは、今に始まったわけではない。例えば、奇瑞汽車(Chery)は、2009年にタイでディストリビューターのYongtrakitグループと組んで、小型車QQなどを販売。やはり10年以上前に、Cheryや北京汽車傘下のFotonがインドネシアの財閥大手インドモビルと組んで、現地ノックダウンで参入している。

以前の中国系メーカーは、国際的な基準と比べると一、二世代前のプラットホームをベースにしたながら、ベーシックな装備とシンプルなデザインで、低価格を売りに参入を図った。しかし、アジアのユーザーは、長年日系メーカーのモデルに乗っており、目が肥えていることもあり、チープなブランドとしてほとんど市場で受け入れれなかった。

最近の中国メーカーのアセアン進出戦略の転換

しかし、最近の上海汽車-CPやプロトンを買収した吉利汽車の進出は、以前の中国自動車メーカーの進出の仕方とは明らかに異なっているように筆者にはみえる。以前と異なり、最新のADAS(先進安全システム)やコネクテッド技術を搭載し、洗練されたデザインで、しかも競合より少し安い価格で市場の隙間をついてきている。

その背景には、吉利汽車によるVolvo社、上海汽車によるMG・Roverブランドの買収が典型的に示すように、中国自動車メーカーが、外資メーカーから技術・ノウハウを吸収することで、自社ブランドの車のデザインや技術のレベルを引き上げてきたことがある。

例えば、マレーシアの国民車プロトンを買収した吉利汽車は、Volvo社との連携を促進するために、スイスでVolvo社と共同開発拠点を設立し、新しいプラットホーム(CMA= Compact Modular Platform)を開発した。2017年のマレーシアで発売した新型SUVのX70はCMAをベースとしており、Volvoの新型XC40の兄弟車であることから察せられるように、洗練した欧州車デザインに仕上がっている。現に、マレーシアでは市場の受けはよく、発売前のX70の注文台数は目標を大幅に上回る1万台を超えた。

また、中国メーカーの進出形態は、以前の現地パートナーへの生産委託及び販売・マーケティングのほぼ丸投げ状態と対照的に、自前で立ち上げた工場での本格生産、中国本社主導でのディーラー開拓、ブランド構築の戦略に転換している。

執筆者:野村総合研究所タイ


マネージング・ダイレクター
岡崎啓一


シニアコンサルタント
山本 肇

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