【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

第28回 タイでのEuro5、6導入と 自動車市場への影響(2)

タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

 バンコクのPM2.5の排出量は、自動車など移動発生源由来が全体の約半分を占め、焼畑や工場など固定発生源が残りの半分とされる。また、バンコクは2012年以前に登録された車が約8割を占めている。21年~22年に導入されるEuro5、6によるPM2.5排出規制は新車のみが対象なことから、効果が限定的であることは否めない。本稿では、登録台数を踏まえて、Euro5、6によるPM2.5削減効果を試算した。

削減効果は1~2%程度

 タイの自動車登録台数は、19年12月で約1,860万台に到達し、バンコクは約3分の1の630万台に上る。バンコクの人口は全人口の10%程であり、保有比率は全国平均に比べると著しく高い。この大都市部での保有率の高さが、交通渋滞及び空気汚染を深刻化させる背景となっている。

 バンコクの年代別及びタイプ別の登録台数は右図の通りである。ピックアップ、トラック、バスなどの商用車で、現行のEuro4を導入した12年より前に登録された車は約150万台と約8割を占める。このように商用車全体ではEuro4以前の規制対応車(トラック、バスはEuro3以前)が多いことから、仮にこれら古い車齢のピックアップがEuro4対応の車と比べて2倍以上、トラック、バスでは5倍以上のPM2.5を排出した場合、商用車は実登録台数の倍の約300万台分(Euro4対応車換算)のPM2.5を排出していることになる。

 19年新規登録車の内、PM2.5を主に排出しているピックアップ、トラック、バスは計約10万台であり、商用車の累計160万台の6%相当となる。よって先述の300万台に対して、新車代替によるPM2.5の削減効果は3%分に半減する試算である。PM2.5削減には、高車齢商用車の買替奨励策が欠かせないことを示している。

 また、車以外の主な発生原因である焼畑が野放しのままなら、削減効果は更にその半分の1~2%程度に縮小する。つまり、Euro5、6で新車に排ガス規制を適用しても、大気汚染状況は短期的にはほとんど変わらないと見られる。

望まれる買替奨励策

 大都市の空気汚染改善のために排ガス規制を強化することは、何の政策も講じないよりは正しい方向ではある。しかし、本来は最も効果的な政策から導入するべきであり、PM2.5の削減がより期待できる古い車齢の車の買替奨励政策を同時に進めることが望ましい。

 Euro5、6の導入により、酸化触媒や尿素SCRなどの後処理システムを新たに装着しなければならず、工業省経済局の試算ではディーゼル乗用車(ピックアップに相当)の価格は55,000バーツ上がる見込み※1であり、価格上昇による新車販売の減少が懸念される。

 インドではBharat6(Euro6に相当)を20年から導入し、商用車の新車販売が1割以上減少するなど深刻な影響を与えている。タイでも高車齢車の代替促進策が伴わなければ、自動車市場の更なる低迷が懸念される。

図:バンコクの主要タイプ及び年代別登録台数

執筆者:野村総合研究所タイ

田口 孝紀
マネージング・ダイレクター
田口 孝紀

山本 肇
シニアコンサルタント
山本 肇

野村総合研究所タイ
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経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

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