【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

第29回 COVID-19の タイ自動車市場への影響

タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

新型コロナウィルス感染症(COVID -19)のパンデミックという未曾有の事態に、タイの自動車産業は深刻な影響を受けている。

3月26日の非常事態宣言とその後のバンコク都などのセミ・ロックダウン措置を受け、トヨタをはじめとした日系7社は4月末までの生産休止を発表。国内販売に関しても3月は既に前年比41.7%減を記録している。今回の危機は短期的にはリーマンショックを上回り、年間の国内販売は2割~3割減の70万~80万台にまで落ち込む可能性がある。

過去の危機との比較

タイはこれまで1997年のアジア通貨危機、2009年のリーマンショック、11年の大洪水という3つの危機を経験し、タイ経済及び自動車産業も復興を遂げてきた。

今回は、パンデミックとそれに伴う実体経済への悪影響による危機であり、過去のものとは異なる。ただ、これまで自動車産業がどのように危機を乗り越えてきたのかを振り返ることは、現在の事態を理解する上でも参考になるだろう。

タイが震源地となった1997年の通貨危機では、国内の金融機関が破綻し、深刻な被害を被った。98年の国内総生産(GDP)成長率は二桁台のマイナスに陥り、自動車市場は前年比60%減、2年前に比べて75%減の水準まで下がった。GDPの落ち込みはリーマンショックの約2倍、自動車市場は危機前の水準回復までに77ヵ月を要した。

2009年のリーマンショックでは、タイも同年のGDP成長率は –1%に下落した。しかし幸いにも、タイ経済のファンダメンタルズが通貨危機の教訓を経て健全化していたことや、グローバルでの未曾有の金融緩和策、中国などの新興国市場への輸出回復により、経済の回復は比較的早かった。それでも、各月の自動車販売は前年比減から同増に転じるのに12ヵ月、危機前の水準回復までに15ヵ月を要した。

11年の大洪水では3ヵ月でV字回復を果たし、ファーストカー・バイヤープログラムもあって12年は過去最高の販売を記録している。この時はサプライチェーンへの影響に限られており、危機の期間、スケールの面でも異なるだろう。

年間では約3割減の見込み

COVID-19の影響を考える場合、市場の底ばい期間に注目したい。通貨危機では約1年、リーマンショックは5ヵ月に亘った。リーマンショック時(08年9月~09年8月)の自動車市場の落ち込みが約20%、最大で37.8%減だった。今年3月現在で既に販売減が40%超であることを勘案すると、今回は少なくとも年間で20%、ロックダウン期間や危機の連鎖拡大により30%減以上に落ち込む可能性がある。

この危機に対して、タイ政府による経済対策の中で日系企業が利用できる政策は少ない。特に、生産停止の長期化で深刻化する可能性のある資金繰りリスクに対する措置はほとんどないことから、日タイの政府・産業界で連携して迅速に対応する必要がある。

執筆者:野村総合研究所タイ

田口 孝紀
マネージング・ダイレクター
田口 孝紀

山本 肇
シニアコンサルタント
山本 肇

野村総合研究所タイ
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経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

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