ビジネス・経済 2020.06月号

第30回 COVID-19で転換求められる タイの自動車産業

タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

生産・供給体制再編と新規事業開発が鍵

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が招いたタイ政府のロックダウンは、感染者数の減少を受けて徐々に解除されつつある。しかし、COVID-19終息後も「新常態:ニューノーマル」が続くことが予想され、自動車産業を取り巻く環境は大きく変化し、立ち位置が変わっていく可能性が高い。今後求められる変化を占ってみたい。

タイに過去訪れた危機と自動車産業の転換

 これまで、タイの自動車産業は幾多の危機を乗り越える度に、大きな構造転換を図ってきた。1997年のアジア通貨危機後は、国内市場の急減に対応するため、国内向け生産専従型から輸出志向型へ転換した。2009年のリーマンショック後は、政府の後押しもあって小型乗用車のエコカー(1500cc以下の内燃機関)の生産を拡大し、1トンピックアップ依存型から脱却。製品・市場の多様化に成功した。

 自動車業界は今後、これまでの延長線上にある生産体制・オペレーションのままでは、地盤沈下は避けらないだろう。特に00年以降、新興市場の拡大をにらんで各メーカーが大胆に現地調達や研究・開発機能をタイで強化したように、ポストCOVID-19は生産・供給体制の再編による競争力強化と、製品・市場・バリューチェーンの見直しによる新規事業開発との両にらみで取り組むことが求められるだろう(図表1)。

図表1 過去の危機との比較

サプライチェーンの変革 日本、アセアンの供給体制再編

 自動車業界が直面する課題の一つは、サプライチェーンの変革である。今回の危機で昨年後半から続く自動車生産が更に低迷し、サプライヤーの余剰な生産能力が顕在化、淘汰のリスクが高まることが予想される。

 ある大手日系サプライヤーはCOVID-19感染拡大前後から、これまでの「製品別・縦割り式」にサプライヤーから部材調達する体制を、「機能別・横串式」に部材調達する体制に切り替える方針を固めた。

 同じ機能の部品を別々のサプライヤーから調達していたのを、機能ごとにサプライヤーを集約することで、コストダウンに繋げられるからである。タイでは、付加価値の低い部品の生産はCOVID-19以降一層採算が悪くなることから、不採算部門の整理・生産移転の動きが加速する可能性がある。

 その一方で、グローバルでは「生産集中・最適調達」から「生産分散・現調優先」の動きが加速化すると見られる。日本の自動車メーカーの工場が、中国でのCOVID-19拡大の影響を受けて生産停止したことから伺えるように、中国依存のサプライチェーンのリスクが顕在化したからである。

 よって、COVID-19を契機に日本・中国との分業・補完関係を見直し、タイやアセアンとの補完関係をより強化する可能性がある。特に、プラスチック材料やダイキャストなどの素形材、電子部品、金型は中国製が安く、アセアンの製品は押され気味であったが、今後はアセアンでの現地調達化や供給拠点化が進むなど、流れが変わる可能性がある。

「チャイナ・プラス・ワン」による非日系企業のプレゼンス拡大

 これらの生産・調達拠点再編の流れと合わせて、注目されるのは「チャイナ・プラス・ワン」の動きである。

 日本からのタイの自動車など機械・メタル加工産業分野への投資は、タイ投資委員会(BOI)の認可ベースでは11年の665億バーツから、19年に265憶バーツに減っており、日系メーカーの間では「チャイナ・プラス・ワン」の動きは顕在化していない。

 その一方で、中国や台湾等非日系企業の投資が増えており、19年に初めて同分野で日本以外からの投資金額が日本からの投資金額を超えた。「チャイナ・プラス・ワン」の動きの加速は、中国や台湾などからのサプライヤーの進出増大を意味し、日系との競合関係も強まる可能性がある。

 日系自動車メーカーが積極的に日本との補完関係を見直しながらタイの拠点を強化していくことは、タイ国内での競争力向上の観点からも必要となるだろう(図表2)。

図表2 ポストCOVID-19のサプライチェーン変革

寄稿者プロフィール
  • 田口 孝紀 プロフィール写真
  • 野村総合研究所タイ
    マネージング・ダイレクター田口 孝紀

  • 山本 肇 プロフィール写真
  • 野村総合研究所タイ
    シニアコンサルタント山本 肇

  • 野村総合研究所タイロゴマーク
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