【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

第31回 COVID-19で転換求められる タイの自動車産業(2)

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野村総合研究所タイ タイ、アセアンの自動車ビジネス 新潮流を読む

デジタルシフトとバリューチェーンの拡大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が招いたタイ政府のロックダウンは、感染者数の減少を受けて徐々に解除されつつある。

 しかし、COVID-19終息後も「新常態:ニューノーマル」が続くことが予想され、自動車産業を取り巻く環境は大きく変化し、立ち位置が変わっていく可能性が高い。今後求められる変化を占ってみたい。

非接触型行動に対応したデジタルシフトのイニシアティブ

 タイはアジアの中進国の中でも、消費・サービスのデジタル化が比較的進展しているとされる。

 その要因としては①スマートフォンの高い普及率、②FacebookやLineなどのSNSの高い利用率、③ShopeeやLazadaなどのEコマース関連企業及びKerryやGrabなどの小口配送会社の進出による物流・配達システムの整備などが挙げられる。そのような背景もあり、タイの自動車メーカー各社は3年~4年前からデジタルマーケティングなどの取り組みを強化している。

 例えば、広告支出に占めるデジタル広告の比率は、2014年の8%から19年には30%に増加している。COVID-19拡大以降の特徴としては、自動車メーカーやその他モビリティ関連の企業が、デジタル化のイニシアティブをバリューチェーン全体で加速化していることが挙げられる。

 政府のロックダウンによる市民への行動規制とCOVID-19に対する懸念から、タイの消費者の行動は「非接触型」に大きくシフトしている。一方で自動車メーカーは、ディーラーに足を運ぶ顧客の激減に加えて、タイでは販促活動の中心になりつつあったショッピングセンターなどでの新車展示イベントの全面的な停止を余儀なくされた。

 この結果、自動車メーカーは購入前、購入時、購入後におけるバリューチェーンでの顧客とのデジタルでの繋がりを各段に増やそうとしており、デジタルシフトを加速させている。

デジタルシフトで変化するサービス形態

 例えば、購入前でのデジタルの取り組みとしては、新製品発表のライブストリーミングを増やし、FacebookおよびYouTubeを通じて顧客エンゲージメント活動を行うようになった。

 また、マツダはこの機会を利用して、昨年のマツダ3の発売から開始した「スカイブッキング」と呼ばれるプラットフォームを強力に推進しようとしている。これは、メーカーがディーラーを介さずに、新製品の発売から顧客の問い合わせ管理、そして車の予約までの購入プロセスを全てオンラインで簡潔に処理するサービスである。

 また、自動車メーカーはディーラーを訪問できない顧客へのサービスとして、ディーラーが顧客の家に車を配送してテストドライブを行う「自宅でのテストドライブ」や、ディーラーが顧客の家まで車を受け取りに行き、点検・サービス完了後に家まで車を送り届ける「自宅からのサービス」を開始している。コロナ禍以前からサービスは開始していたものの、ロックダウン以降加速させている。

 さらに、COVID-19の影響でデジタルシフトと並行して進展しているのが、OEMないし系列会社による、一定期間定額で利用するサブスクリプションサービスの拡大である。

 トヨタは3月中旬に東南アジアでは初めて3年〜4年契約の新車のレンタルサービスである「KINTO ONE」を開始した。しかし、パンデミックの期間中は公共交通機関の利用をできるだけ避けたい新規顧客の要求に応えて、試乗車を使用した短期レンタル(3ヵ月〜1年間)のための追加サービス「KINTO ONE Limited」を開始した。これは、新しい顧客の需要と低利用の資産(ここでは試乗車)を結びつける創造的な取り組みと言える。

図表1 自動車メーカーのバリューチェーン全体でのデジタルシフト

ポストCOVID-19におけるデジタル領域での競争が本格化

 これらの事例から見えるように、ロックダウン開始の3月以降、各メーカーによってマーケティング、販売、サービスの分野で多くの新しい試みが展開されている。特に、製品のマーケティング、新規顧客の開拓、そして現在の顧客との良好な関係維持のために、デジタルツールとチャネルを活用している。

 メーカーはこれが一過性の競争ではないことを認識し、パンデミックが過ぎた後にデジタル変革の重要性は低下すると軽く考えるべきではないと、ここで強調しておきたい。その理由として2つのポイントに着目したい。

 第一に、タイの自動車セクター、特に自動車の購入に対するCOVID-19の影響は、長く深刻なものになることが予想されること。そして第二に、パンデミックは顧客の行動に大きな変化をもたらし、収束後も元通りにならないであろうことである。

 顧客はデジタルツールとサービスに慣れ、信頼するようになり、その後は便利さを一層追求することが予想される。メーカーは、長期的に市場で勝ち残り、成長するためには、販売とサービス機能をデジタルに変革するためのリソースを迅速かつ効果的に割り当てていくことが求められるようになる。

文責:NRI タイ、製造業コンサルティンググループ

寄稿者プロフィール
  • 山本 肇 プロフィール写真
  • シニアマネジャー
    山本 肇

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  • コンサルタント
    Punthira Chinotaikul

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