【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

第45回 コロナ禍のサプライチェーン寸断

トヨタは9月10日、10月の世界生産において従来計画の4割にあたる33万台の減産を発表。2021年の世界生産の目標も930万台から900万台に引き下げた。その原因は東南アジアで新型コロナウイルスの感染拡大が続き、部品調達難が続いているためとしている。ホンダ、マツダ、日産なども減産を強いられている。

今回はコロナ禍とサプライチェーンの寸断について触れたい。

各国でサプライチェーンに影響

コロナ禍による東南アジア主要国の市場とサプライチェーンへの影響を図表に整理した。マレーシアとベトナムは、サプライチェーンへの影響が「大」と評価された。共通するのが、デルタ株の蔓延を受けて政府が工場に強権的な感染拡大予防措置を講じたことだ。

マレーシアには、STMicroelectronicsやInfineonなど半導体の後工程メーカーが集中し、世界の半導体生産の約1割を占めている。6月からの厳しいロックダウン措置では工場への出勤率の上限が設けられ、稼働率が大幅に低下して世界的な半導体供給不足に拍車を掛けた。

ベトナムはワイヤーハーネスなどの労働集約的な部品の集積地。経済産業省によると世界に占めるワイヤーハーネスの輸出は19年に7%を占め、特に日本の自動車メーカーは東南アジアからの調達率が高い。その中で8月後半以降、ハノイ、ホーチミンなどで出勤する全従業員に工場で食事、寝泊りを強いる「工場隔離」という措置が取られた。交代も認められず、多くの工場は稼働率の低下や停止を余儀なくされた。

サプライチェーンの維持で踏ん張ったのはタイである。1日の感染者が2万人を超えた時期もあったが、感染地域全体の封鎖ないし稼働率低下を強いるような措置は取らなかった。自動車部品工場でクラスターも発生したが、供給への影響は最低限に抑えた。さらにタイは供給問題を起こしたインドやベトナム等の代替生産先となった。

サプライチェーン寸断の理由

東日本大震災やタイの大洪水の教訓から、日系自動車メーカーはサプライチェーンの末端に至るまでの「可視化」、特定サプライヤーからの調達の集中を避ける「複線化」、重要部品の「在庫の積み増し」などの対策を打ってきた。

しかし、今回はサプライチェーンの寸断を回避できなかった。その理由の一つは、そもそもコロナ禍で落ち込んだ自動車生産が21年以降急回復し、部材の需給がひっ迫したことがある。半導体メーカーは市場の9割を占める電機・電子メーカーへの供給を優先し、1割に過ぎない自動車産業向けの増産要請にすぐに応えなかった。

また、半導体の前工程のようにサプライチェーン上流では、特定のメーカーへの集約化が進んでいた。前工程の最大メーカーTSMCの増産が計画通りに進まなかった結果、半導体の供給不足に陥った。

さらに部品メーカーへの発注を分散させたとしても、労働集約的な工程は特定地域に集中する傾向にあり、その地域で稼働規制が掛かると複数のサプライヤーの供給が止まった。今後、サプライチェーンのさらなる複線化も考えられるが、生産効率の低下・コスト増も招くため慎重にならざるを得ない。

考えられるのが、需要の変動に柔軟に対応する主要生産拠点の生産技術、調達・物流機能の強化である。タイが代替生産を引き受けられたのは、現場での生産技術力や調達能力が高く、増産に対応できたことも要因と筆者は見る。今後、タイの生産拠点はIoTも導入しながら、フレキシブルな生産対応能力に磨きを掛けていくことが求められる。

寄稿者プロフィール
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  • 野村総合研究所タイ
    マネージング・ダイレクター田口 孝紀

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