2015.01月号

【連載】千代田中央法律事務所 タイの労働法制 第3回労働者の採用・賃金について

chiyoda

本稿においては、タイにおける労働者の採用から、賃金の支払い方法、残業代の取り扱いについて概要を説明する。

雇用契約

①雇用契約書の作成

タイにおいて従業員を採用する際は、労働条件等を定めた労働契約を締結することになるが、その際に、「労働契約書」、「労働条件通知書」などといった書面を取り交わす法的義務はない。
もっとも、労働者の配置転換をする場合や、新たな業務を担当してもらう際には、労働義務の範囲が問題になることもある。
例えば新たな業務を指示した際に、労働者から「労働契約で定められた業務の範囲外です」と言われ拒否することなどがある。そのため、今後の配置転換や担当業務の変更も視野にいれつつ労働契約書を締結する方が良い。使用言語については、労働者が内容を齟齬なく把握するためにタイ語表記は必要であろう。

②雇用契約の内容

雇用契約書の内容としては、賃金、期間の定めの有無、労働時間、労働場所、職位、職務内容、担当する職務内容によっては退職後の競業避止義務(※1)などを規定することになる。

【試用期間】

タイにおいても従業員を採用した際に試用期間を設けることは認められている。労働者保護法によると試用期間中の雇用は、期間の定めのない雇用契約とみなされることになる。
そのため、試用期間の終了に伴い不採用とする場合には、解雇の場合と同様の規制がかかってくる。
試用期間を定めても解雇の場合と同様の規制がかかってくるが、試用期間を定める意義は、試用期間経過時点での不採用の際には、当該不採用は不当解雇とされるリスクは少ないことにある。具体的には、次の規制(※2、※3)に留意する必要がある。

【賃金】
賃金の支払方法に関し、労働者保護法では以下のような規制が規定されている。
(1)平等取扱いの原則
同じ種類の労働に従事している労働者に対しては、性別にかかわらず同一の賃金を支払わなければならないとされている。
(2)現金支払いの原則
賃金は、タイの通貨によって支払わなければならないとされている。ただし、労働者の承諾を得ることで外国通貨や小切手で支払うことができる。
(3)支払場所
賃金は、労働者の就業場所で支払う必要がある。ただし、労働者の承諾を得ることで、その他の場所で支払うことができる。

【残業手当】
タイにおいては、始業時間と就業時間を定め労働者に公示しなければならない。1日の労働時間は8時間を超えず、かつ、1週間の労働時間は48時間を超えてはならない。
労働者に残業をさせる場合には、その都度、事前に労働者から承諾を得る必要がある。
この場合、使用者は労働者に対し、通常の時間当たり賃金額の1.5倍の割合により計算した賃金を支払う必要がある。
いずれかの日の労働時間が8時間より短い場合、使用者と労働者の合意により、当該余った時間をその他の労働日の労働時間に加えることができる。ただし、1日あたり9時間を超えてはならず、かつ、週48時間を超えてはならない。

(※1)競業避止義務の定めの有効性について
競業避止義務については、労働者の職務内容・職位を鑑みて競業避止義務を負わせる必要性、制限される時期、場所、対象となる業務内容が制限されており労働者の権利を不当に制限することがないと判断される場合には有効とされる。
どのくらいの制限であるならば有効とされるかについては、当該労働者の担当する職務内容、会社の業種がそもそも広域を前提としたものかなどによって個別的に決定されるため、一律の基準が存在するわけではない。
また、競業避止義務の有効性については、競業避止義務自体が与える労働者への制限の内容だけでなく、当該労働者の処遇なども考慮の対象とされる。

 

(※2)事前通知
使用者は労働者に対し、賃金支給日までに解雇する旨を通知しなければならず、この通知をすることによって、次の賃金支給日に雇用を終了させることができる。通知に代えて、解雇予告手当として、同期間分の賃金を支払うことで事前通知に代えることも可能である。

 

(※3)解雇補償金
労働者を解雇する際には、解雇補償金を支払わなければならない旨が、労働者保護法に規定されている。このように120日以上、雇用すると解雇補償金を支払う義務が生じることになるため、試用期間を設定する場合、120日未満になるように留意する必要がある。
(1)雇用期間が120日以上1年未満 ⇒最終賃金の30日分以上
(2)雇用期間が1年以上3年未満  ⇒最終賃金の90日分以上
(3)雇用期間が3年以上6年未満  ⇒最終賃金の180日分以上
(4)雇用期間が6年以上10年未満  ⇒最終賃金の240日分以上
(5)雇用期間が10年以上      ⇒最終賃金の300日分以上

chiyoda
佐藤聖喜 代表弁護士
千代田中央法律事務所・バンコクオフィス
1 Empire Tower, 23th fl., River Wing West,
South Sathorn Rd, Yannawa,
Sathorn, Bangkok 10120
02-670-1398
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