【連載】千代田中央法律事務所 タイの労働法制 ~IHQに対する恩典制度について~

chiyoda

このコラムにおいては、基本的に、雇用関係についての法的論点、事例について扱っているが、今回は特別にASEAN経済共同体(AEC)発足に合わせて設けられた、『IHQ(国際地域統括本部)』に対する恩典制度について取り上げたい。

タイ当局は、同制度を外資のうちとりわけ日本企業を呼び込むための起爆剤と捉えており、日系企業側においても同制度の趨勢を大いに気にしているものと思われる。以下、恩典を受けるための要件、手続、恩典の内容について概観していく。

1.要件

(1)国際地域統括本部とは

1社以上の海外の「支店もしくは関連会社」を「統括」する、「一定の事業」を営む会社をいう。
まず「支店もしくは関連会社」とは、一方会社の発行済株式の25%以上を他方会社が保有する際の、当該両社、および一方会社に対して他方会社が管理監督権能を有する際の、当該両社を言う。次に「統括」とは、他社の発行済株式の25%を有すること、もしくは、他社に対して管理監督権能を有することを言う。「一定の事業」とは、製品の研究開発、技術支援、マーケティングおよび販売促進、人事管理、トレーニングなどの支援サービス事業、原材料、部品の調達事業、為替管理法に基づく財務センター事業を言う。地域事業本部事業(ROH)に比し、事業の範囲が拡大されている。
なお、IHQは、外国人事業法17条柱書、表3(21)により、外国人事業法の適用を受ける。

(2)資本金 1000万バーツ以上。奨励証書が発行されるまでに全額を払込む必要がある。
(3)年間支払費用(BOIからの恩典のみを求める場合には、不要)
1会計年度において、IHQの事業のために、1500万バーツ以上を国内の法人または個人に対して支払うことを要する。

2.手続

必要書類を添付した申請書を提出後、審査担当官による適宜のインタビューを経て審査が開始され、要件適合性が認められれば奨励証書発行の運びとなる。IHQに対して恩典を付与する機関はBOIまたは歳入局、またはその両方であり、両機関からの恩典付与を希望する場合、両機関に対してそれぞれ申請を行うことが必要である。手続に要する期間は、BOIについては40日、歳入局については30日とされている。

3.恩典の内容

以下、BOIおよび歳入局から付与される恩典の概要を記載する。

(1)BOIによって付与される
恩典
ア 外国人がIHQの株式の過半数を有することが可能になる。
イ IHQが土地法上の「外国人」である場合でも、土地所有が可能になる。
ウ 10名までの外国人の雇用が可能になる(但し、前年の納税額が300万バーツ以上であった場合、必要に応じて10名以上の雇用が可能となる余地がある)。
エ 研究開発、訓練用機械の輸入関税免除
オ 輸出向け製品の原材料の輸入関税免除

(2)歳入局によって付与される恩典
ア 下記の収入について、法人税が免除される。
・海外の支店もしくは関連会社に対するサービス提供の対価
・海外の支店もしくは関連会社からのロイヤルティ・海外の支店もしくは関連会社
からの配当金
・海外の支店もしくは関連会社の株式の譲渡金のうち、取得価額を超える部分
・海外が役務履行地となる業務についての収入(ただし、国内で調達した原材料によって製造した物品を販売する場合を除く)
イ 下記の収入について、法人税が10%に引き下げられる。
・国内の支店もしくは関連会社に対するサービス提供の対価
・国内の支店もしくは関連会社からのロイヤルティ
・国内で調達した原材料によって製造した物品を海外に販売して得た利益
ウ IHQが雇用する外国人技術者・専門家または上級幹部に対する個人所得税率の上限が15%になる。
エ 国内外の支店もしくは関連会社に対する貸付による利息について、源泉税が免除される。
【共著:平井遼介弁護士】

 

chiyoda
佐藤聖喜 代表弁護士

千代田中央法律事務所・バンコクオフィス
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