ビジネス・経済 2019.06月号

アジアでの「CFO経営」Vol.15 タイと日本の クロスボーダーM&Aの実務 ③

日本とアジアで20年、1300社の経営に寄り添ってきたエスネットワークスが解説する、在アジア日系企業の経営管理術。

 タイローカル企業とのM&Aを行う際に(日系企業がバイサイド(買手)を想定)、社内で意思決定ができず、交渉が長引き結果的にディールできなかったケースが多く見受けられます。

 弊社ではタイローカル企業のセルサイド(売手)アドバイザリー業務を行い、日系企業に売案件を提供してきた中で、なぜM&Aが成立しないのか、どのようにすれば成立するのかを分析しており、M&Aの実務的な目線からその分析結果を数回にわたり解説します。

家族経営企業への対策

 タイローカル企業は家族経営を行っているケースが多く、株主、取締役は基本的に家族で構成されており、それ以外にもオーナーもしくは親族がグループ会社を設立して、グループ間取引を行っているケースが非常に多く見受けられます。その際にはグループ間での契約書や請求書等の明確な証憑が無いまま取引が行われているケースや、財布が一つ(口座は複数あるが資金管理は一つの口座)で管理されているケースなど、経営実態を把握することが非常に難しい状態です。

 また、財務・法務・ビジネスDD(M&Aの対象会社に対する事前調査)などを行う際にも、会社名が違うことから、親族が行っている会社とは判断できず、リスク分析を正確に行えないケースが多数あります。

ヒアリングの必要性

 実際にM&Aの交渉を進める際には、上記のような経営実態であることを前提に、マネジメントインタビューではオーナーに家族構成、開示されていないグループ会社、取引規模、取引の必要性などを細かくヒアリングする事が必要です。しかしながら、オーナーサイドもあえてバイサイドに開示しないケース(グループ間での架空売上の存在等)もあるため、M&Aを行う際に、親族の会社とも取引を続けたいという意思を伝えて、情報を極力開示してもらう必要があります。それ以外にも調査会社などを使用し、家族が保有していると考えられる会社のリストを依頼し、DDを行うアドバイザリー会社にも情報を共有して、正確な全体像を把握することも一つの方法です。

 また、株式譲渡契約に制限を設けて、将来的な業績に関して数年間は責任を持ってもらうなど、グループ会社の情報を極力開示してもらう必要性もあります。

 このような調査が行われなかった場合には、DDの際にもグループ間取引が明確化されず、M&Aディール後に架空の売上が判明する場合や、不当に資金が流出していたことが判明するなど、結果的にM&Aの失敗に繋がる可能性があります。タイローカルとM&Aを進める際には、このような事例がある事を前提に交渉を行って、事前に対策を行う事が必要です。

奥村 宙己
Hiroki Okumura
立命館アジア太平洋大学卒業。2014年、(株)エスネットワークスに新卒として入社。スポット支援として事業計画作成、事業デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、M&Aアドバイザリーを担当。常駐支援として管理体制構築支援、月次決算体制構築支援、再生企業の事業計画実行支援、クロスボーダーPMIを担当。タイ国において進出サポート及び会計・税務コンサルティングに従事。

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