ビジネス・経済 2019.07月号

アジアでの「CFO経営」

日本とアジアで20年、1300社の経営に寄り添ってきたエスネットワークスが解説する、在アジア日系企業の経営管理術。

 タイローカル企業とのM&Aを行う際に(日系企業がバイサイド(買手)を想定)、社内で意思決定ができず、交渉が長引き結果的にディールできなかったケースが多く見受けられます。

 弊社ではタイローカル企業のセルサイド(売手)アドバイザリー業務を行い、日系企業に売案件を提供してきた中で、なぜM&Aが成立しないのか、どのようにすれば成立するのかを分析しており、M&Aの実務的な目線からその分析結果を数回にわたり解説します。

タイローカル企業の問題

 タイローカル企業は家族経営を行っているケースが多く、株主、取締役は基本的に家族で構成されており、それ以外にもオーナーもしくは親族がグループ会社を設立して、グループ間取引を行っているケースが非常に多く見受けられます。

 このような場合、法務・財務・税務DD(M&Aの対象会社に対する事前調査)を行った結果、非常に多くのリスクや課題が浮き彫りになるケースが一般的です。日系企業は経営管理、内部統制が発展途上国と比較して、高いレベルで導入されているため、それと比較して対象会社のDDレポートを見るとリスクだらけの会社であると判断されてしまうケースが多いです。

 このような判断基準を元にオーナーと交渉を行っていくため、リスクについて何度も指摘してしまい、オーナーがバイサイドに対し嫌悪感を抱き、結果的に交渉が決裂してしまうケースが多数あります。

オーナーとの交渉術

 弊社では通常DDレポートで報告された多くのリスクについて、発展途上国では一般的であるとバイサイドに説明し、交渉時にはオーナーにリスクを指摘するのではなく、買収後どのように事業を継続させていくのか協議したいと伝えて、PMI(統合業務)を念頭に置いた交渉を進めております。

 例えば、オーナーの親族が行っている会社に外注しているケースなどでは、「オーナーの親族にお金を流しているのではないか」と指摘せず、「買収後この外注を継続して行った方がいいのか、第三者から相見積を行って、会社として一般妥当な外注先を見つけた方がいいか」のように、オーナーの意見を引出す形で交渉を進めます。

 そうすることによって、オーナー自身もバイサイドは真剣に事業を継続して成長させる為に交渉していると判断され、買収後にグループ会社への取引を行わず、コストの安いタイローカルの会社を紹介するなど、様々なアドバイスが出てくるケースがあります。オーナーも日本の経営者と同様に、事業は自分の子供同様に愛着がある為、それに対して日系企業が資本力を背景にリスクばかり指摘すると、オーナーが作り上げた事業のノウハウ、コネクション等がバイサイドに引継がれず、結果的にM&Aの失敗に繋がってしまいます。

 交渉を行っていく際には、オーナーが作り上げた事業に対して敬意を持ち、買収後に売上の増加、コストの削減、従業員の給与増加など、PMIの観点を持って交渉を行う事で比較的スムーズに交渉が行えると考えております。

奥村 宙己
Hiroki Okumura
立命館アジア太平洋大学卒業。2014年、(株)エスネットワークスに新卒として入社。スポット支援として事業計画作成、事業デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、M&Aアドバイザリーを担当。常駐支援として管理体制構築支援、月次決算体制構築支援、再生企業の事業計画実行支援、クロスボーダーPMIを担当。タイ国において進出サポート及び会計・税務コンサルティングに従事。

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