アジアでの「CFO経営」

Vol.18 タイと日本の クロスボーダーM&Aの実務 ⑥

日本とアジアで20年、1300社の経営に寄り添ってきたエスネットワークスが解説する、在アジア日系企業の経営管理術。

 タイローカル企業とのM&Aを行う際に(日系企業がバイサイド(買手)を想定)、社内で意思決定ができず、交渉が長引き結果的にディールできなかったケースが多く見受けられます。

 弊社ではタイローカル企業のセルサイド(売手)アドバイザリー業務を行い、日系企業に売案件を提供してきた中で、なぜM&Aが成立しないのか、どのようにすれば成立するのかを分析しており、M&Aの実務的な目線からその分析結果を数回にわたり解説します

日系企業の取引が設立しない事情

 DD(M&Aの対象会社に対する事前調査)が終了し最終交渉を行うプロセスの際に、タイローカルオーナーの心証が悪くなり取引できないケースがあります。交渉を詰めていく際に、日系企業の担当部長がタイに来て実際の交渉を行う事が多いです。しかしながら、日系企業の部長にM&Aの交渉を即決するような権限を持っている方は少なく、交渉において決定する必要がある事項に関しては、本社に持ち帰ることが散見されます。

 このような場合、タイローカルオーナーは何故決定をできないポジションの従業員が、交渉に来ているのか理解できず、心証が悪化する可能性があります(日系企業特有の企業文化は海外では理解してもらえません)。

 また、会社によっては職務権限規程上、取締役会で議論する必要があり交渉が全く進まないもしくは進む速度が遅い場合もよく見受けられます。海外では、日系企業の承認・稟議プロセスや社内調整等は独特の文化ですので理解することが難しく、オーナーの心証が悪くなり結果的に意思決定の早い中国系やその他外資系に売却に至ることも多いです。

取引成立への重要事項

 M&Aを行う際には、直接権限を持っている担当取締役が全責任を持ってこのプロジェクトを行う事を最初に社内調整し、取締役が直接交渉することをお勧めします。これが難しい場合には、先方に日系企業のプロセス、スケジュール、担当する部長等に何ができるのかを説明し、この前提の上で交渉していくことが重要です。オーナーの心証が悪くなるとM&Aディールできる確率が下がり、結果的に時間とお金を使っても取引できないという最悪のケースに陥ってしまいます。

奥村 宙己
Hiroki Okumura
立命館アジア太平洋大学卒業。2014年、(株)エスネットワークスに新卒として入社。スポット支援として事業計画作成、事業デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、M&Aアドバイザリーを担当。常駐支援として管理体制構築支援、月次決算体制構築支援、再生企業の事業計画実行支援、クロスボーダーPMIを担当。タイ国において進出サポート及び会計・税務コンサルティングに従事。

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