2019.10月号

アジアでの「CFO経営」

Vol.19 タイと日本の クロスボーダーM&Aの実務 ⑦

日本とアジアで20年、1300社の経営に寄り添ってきたエスネットワークスが解説する、在アジア日系企業の経営管理術。

タイローカル企業とのM&Aを行う際に(日系企業がバイサイド(買手)を想定)、社内で意思決定ができず、交渉が長引き結果的にディールできなかったケースが多く見受けられます。
弊社ではタイローカル企業のセルサイド(売手)アドバイザリー業務を行い、日系企業に売案件を提供してきた中で、なぜM&Aが成立しないのか、どのようにすれば成立するのかを分析しております。過去複数回にわたり解説致しましたM&A実務のまとめを、下記記載させて頂ければと考えております。

1.ティーザー及びIMでの投資検討

タイローカルのFA(ファイナンシャル・アドバイザリー)がセルサイドについている場合、ティーザー(買収スキームをまとめた匿名の企業概要書)やIM(Information Memorandum:売却対象となる企業・事業等に関する情報を詳細に記載した資料)の信憑性は低いと考えてください。事業の説明は概ね正しいと考えられますが、過去実績、事業部別損益等の数値は決算を正しく締めていないため(二重帳簿等)、経営数値としての信憑性が低いです。また、将来計画に関しても日本のように過去実績から算定したKPI(主要業績評価指標)、外部環境を元にロジックを組み立てて算定しているケースも少ないです。このような数値を百%信じて社内で検討した際には、実態との乖離が多く、事業よりこのリスクの議論ばかりになってしまいます。

2.デューデリジェンスの実施

タイローカル企業の管理レベルは、日本企業と比較して非常に低いということを前提に検討する必要があります。通常ローカル企業のデューデリジェンス(DD:M&Aの対象会社に対する事前調査)を実行した際に、実態純資産が非常に低い、正常収益力が非常に低い、税務・法務リスクなど非常に多くのリスクが抽出されます。タイはまだ発展途上国であり、日本レベルでしっかり管理されているケースが少ないので、リスクを前提にどこまでそのリスクを社内で飲めるかをあらかじめ確定しておかなければ、リスクのみの検証を行うコストと時間を費やすことになります。

3.最終交渉

タイローカルは外国人ですので、日本の稟議や承認プロセスを理解しておりません。なぜ交渉している人が、その場で決められないのか、持ち帰った決定事項に対してなぜ1ヵ月も回答がかかるのか(日本の役会決議事項等)などセルサイドが嫌悪感を抱くので、交渉はある程度意思決定が可能な方が実行する必要があります。

奥村 宙己
Hiroki Okumura
立命館アジア太平洋大学卒業。2014年、(株)エスネットワークスに新卒として入社。スポット支援として事業計画作成、事業デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、M&Aアドバイザリーを担当。常駐支援として管理体制構築支援、月次決算体制構築支援、再生企業の事業計画実行支援、クロスボーダーPMIを担当。タイ国において進出サポート及び会計・税務コンサルティングに従事。

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