ArayZオリジナル特集

変化を遂げるASEAN~優位性と課題を探る~

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「ASEANへの帰属意識を高める」
スティパン・チラティワット事務局長
チュラロンコン大学ASEAN・スタディーズ・センター

8月3日、国立チュラロンコン大学ASEAN・スタディーズ・センターでフォーラム「7th Chula-ASEAN Week and 4th Parliamentary ASEAN Community Forum」が開催された。ASEAN各国から意識の高い大学生が集まり、政治家、識者らと4日間に渡り、交流を深めた。同センターの事務局長で、同大学の名誉教授のスティパン・チラティワットにASEANの方向性について話を聞いた。


同大学の名誉教授でもあるスパティン事務局長

ASEAN諸国では都市化が急激に進んでいるが、どのように国を持続可能な形で成長させていくべきか。

タイだけでなく他のASEAN諸国では、政治や経済などの社会機能が首都に一極集中しており、日本のように第二、第三の都市(コンケンなど)を開発していく必要があります。日本にはタイの東部経済回廊(EEC)開発などで重要な役割を果たしてくれることを期待します。

大国の中国やインドと同じ土俵で張り合う必要はないと思います。一方で、GDPの伸びで国を図るのだけでなく、「幸福度」「連帯意識」を高めるべきです。雇用が増えるかもしれませんが、生活の質や環境への影響を考慮するべき時代になりました。タイ人の大らかなライフスタイルはセールスポイントになるでしょう。

日本にこれから期待する役割は?

これまで日本は戦略的なパートナーとして、貿易と投資で重要な役割を務めてきました。1997年のアジア通貨危機で疲弊したタイやASEAN諸国を支援し、経済・技術面で多大な貢献もしてきました。中国の台頭で同地域での、日本の影が薄くなっていますが、今後も製造分野だけでなく、接客などサービスの分野で、高品質な日本の技術が発揮されること期待します。

タイ人の日本に対するイメージはとてもよく、日本人の生活様式や規律に対して尊敬の念を持っています。タイに到来する高齢化社会への備えに関しても、日本から医療の面などで学ぶ面は多いです。

ASEANの若き学生へのメッセージは?

現代の若者は学ぶのが早く、新しい考えを生み出す力を持っています。国境、宗教、人種を越えて多様性を理解し てほしいですね。帰属意識を高め、ASEANの精神を共有し、共同体の一員として行動してほしいです。当センターは京都大学東南アジア地域研究所や東京大学公共政策大学院などと交流があります。

タイ人と日本人の往来は一方通行だったが、タイ人に対するビザが2013年に免除されてから、タイ人渡航者が急増し、両国の相互理解がさらに高まりました。

一般市民もASEAN会合に」
アピシット元首相

アピシット元首相は8月3日、国立チュラロンコン大学ASEAN・スタディーズ・センターなどが共催するフォーラム「7th Chula-ASEAN Week and 4th Parliamentary ASEAN Community Forum」 で基調演説を行った

民政移管を図るタイは来年、総選挙を実施するほか、ASEAN議長国を務める。2009年にも議長国を務めたが、当時首相だったアピシット氏の退陣を求める武闘派グループのによる暴徒で首脳会談が中止に追い込まれるなど、辛酸を舐めた。

民主党の党首として2度目の首相に就任する可能性を残すアピシット氏だが、「次期政権の最優先事項は経済だ」と強調。前年の08年に発生したリーマンショックにより、タイとASEANの経済も一時疲弊した。だが、貿易のさらなる自由化などを推進したことで、他の経済圏よりも早く景気を回復したと、世界各地で台頭する保護主義の動きをけん制。

増加する自然災害の際の救助作戦など、今後直面しうる難局では、共同体としてのASEANの真価が問われる。また、加盟国が結束して交渉力を高め、中国の「(経済圏構想)一帯一路」や南シナ海での領有権を巡る懸念に対処することを提言した。
ASEANは年間約300の会合を開催するが、参加するのは政治家と官僚のみ。

「一般市民にも会合に参加し、発言してもらい、ASEANの一員として活動に関与していただきたい」とアピシット氏。特に若い世代のASEAN共同体への帰属意識が高まれば、地域に繁栄と平和をもたらすだろうと期待を示した。


ソンポン・スチャリットクン氏

今から半世紀前の1967年8月8日、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5ヵ国の外相によって、ASEAN設立をうたう「バンコク宣言」が採択され、ASEAN が発足した。その宣言を起草したのが、タイのソンポン・スチャリットクン博士(88)だ。

当時のタナット・コマン外相が、国際弁護士のソンポン氏に起草を依頼。宣言には親善で平和的な意図を示す7つの目的が盛り込まれた。「各国が手探り状態の中、そのような公文書を起草するのは難しかった」と当時を振り返る。ソンポン氏はフランス、イタリアなどの大使を歴任。日本大使も1973年から4年間務めた知日派で、「赴任時は日本との貿易赤字が膨らみ、解消の交渉に奔走した」。

ただ、技術面での支援など日本への感謝を示す。2008年12月8日には、ASEAN憲章が発行されたが、内容を巡って先発国のシンガポールと後発国のミャンマーに不協和音が生じたという。バンコク宣言は現在でも風化しておらず、「ASEAN諸国は自国民にASEANの重要性をもっと理解したもらうよう努力することが求められる。欧州連合(EU)から脱退する英国のようなことを繰り返さないためにも」と付け加えた。

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