ArayZオリジナル特集

「ガラスの天井」を打破する タイ人女性

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タイ人女性は結婚後・出産前後でも働くことが当然

中堅企業の「経営幹部の女性比率」 グラントソントン

 国際会計事務所グラントソントンが2018年3月に発表した女性の社会進出に関する「国際ビジネスレポート(世界の中堅企業ビジネスリーダー、または経営トップ2,580名を対象に2017年11~12月に実施)」によると、タイ企業の上級管理職で女性が占める割合は42%で、35ヵ国中3位だった。同社タイ法人のコーポレートファイナンス部マネージングディレクター、ジュラポーン・ナムチャイシリ氏に、タイ人女性の特徴を聞いた。

界的に女性の役割が変化してきています。潜在能力が受け入れられ、女性を勇気づける傾向にあります。例えば、国の経済成長への原動力となってきた工業部門の従業員の大半が男性でしたが、最近では経営者の大半を女性が占めるサービス分野が拡大しています。これは社会的格差の縮小を示しており、女性は現在、多くの機会を享受しています」とジュラポーン氏は指摘する。

「社会・文化の面で変化があり、タイ人女性は教育と職務の両方において多くの機会が与えられています。女性はより優れた成績で卒業し、男性と対等に仕事ができるようになりました。権利と機会が均等に与えられ、活躍の場が広がると、競争優位性を多くの分野にもたらします」。

タイ人の51%が女性。「男性の一部は兵士や僧侶になり、ビジネス界と無縁になる一方、高い水準の教育を受ける女性が増えており、男性に匹敵する存在となっています。大学・高専以上の在学率は女性が7割と圧倒しており、弊社従業員も女性が7割を占めています。この傾向は続きそうで、女性の社会でのさらなる躍進が期待されます。従って、国の経済発展を担う役目を果たしています。女性が成功する秘訣は△男性のように考える△淑女らしく振る舞う△せっせと働く――です」。

日本では夫婦が共働きをし、妻の収入が夫を上回ると家庭不和が生まれることがある。「タイ人は結婚後・出産前後でも働くことが当然と捉えられています。また、共働きで収入が増えれば、自由に使えるお金が増すと、実用面でのメリットを考えます。夫婦間の仲たがいも少なく、妻は『第2の大黒柱』として家庭で歓迎されています」。

「少子高齢化が進むタイでは、特に「ジェネレーションY(1980年~97年生まれ)」の未婚・晩婚化も進んでいます。女性の職位にかかわらず、一人でも人生を楽しめる趣味や活動(コンピューターゲーム、カラオケ、観光、買い物など)が多くなりました。結婚よりも友人と時間を過ごすことに意義を感じる人もいます」と説明する。

強い信念でタイ産業界を引っ張る“鉄の女”

Ms. Jareeporn Jarukornsakul ジャリーポーン・ジャルコーンサクン氏
WHAコーポレーション会長&グループ最高経営責任者(CEO)

バンコク大学(修士)を卒業後、26歳の時にプラスチックとパレットの事業を起こした。
2003年にWHAを共同設立し、12年にタイ証券取引所(SET)に上場。
3年後に工業団地開発大手のヘマラートを買収した。
16年にはアジア太平洋起業家授賞式で「最優秀女性起業家賞」、18年にはタイの経済界に置ける模範となる女性として、ASEAN起業家ネットワークから「ASEAN女性起業家賞」を受賞している。

「創業者でCEOの私の行く手を阻むものはありません」――説得力をもって力強く話すジャリーポーン氏。「もし、私より優秀な人材が現れ、後継者として相応しければ、CEOの座を喜んで譲り、株主として経営を見守ります」と断言する。Cレベル(経営幹部職)での女性は同氏だけだが、部長クラスでは男女半々になるという。男性の職場というイメージが強い製造関連企業。現場では男性の数が圧倒的に多いが、経理・総務などオフィス勤務者の約8割を女性が占める。女性は男性より繊細で、仕事をしながら家庭を同時に守る柔軟性を兼ね備えており、「性別で判断せずに実績・能力、欠員のポストに適しているか、前向きな思考の持ち主か、新たなことに挑戦する意欲があるか、を基準に採用します」と話す。

「タイ人は子供が一番大事と考えているので、職場に連れてくることで不平を言う従業員はいません。もしくは祖父母や子守が子供の世話をする文化が根付いています」。

同氏には17歳の娘が一人おり、バンコクのインターナショナルスクールを経て、現在は英国の高校に通っている。「あらゆる支援を惜しみませんが、彼女がどの道に進むかは、彼女次第です。

同居している時は日中、あまり一緒にいてやれませんでしたが、夜はなるべく一緒に過ごして、仕事と私生活のバランスを保ちました。現在は離れ離れですが、お互いに隠し事をせずに信じ合うことで、良好な関係を保っています」と母としての顔を見せる。

孤独を恐れない

「創業時の顧客はほとんどが日本企業で、全員が男性でした。今もあまり変わりませんね」と苦笑いする。「サービス業でなく、製造関連業のトップとして働く女性は稀で、最初は驚かれました。ただ、現場に足を踏み入れて、商談が進んでいくと、日本人だけでなく、欧米人の表情も変わっていきました。従って、女性という理由で不利な立場に置かれたことはありません」と振り返る。経済界には、模範となる人物はいないときっぱり。「自分自身を信じて、将来の目標を立てて前向きに進んできました。なりたい人物像を描いてその人物になることを目標としています」。

妥協を許さない同氏は、強いリーダーシップの持ち主で、強い信念で多くのことを達成してきた。「チームで動いても独立した考えを持つこと。リーダーになるには違った観点で考えることが不可欠で、孤独になることを恐れてはいけません。同僚や友人のアドバイスは聞きますが、最終的なビジネス上の判断を下すのは私です」。趣味はスポーツで、週末にはムエタイのコーチを自宅に呼んでトレーニングするほか、水泳やジョギングで健康管理も徹底する“鉄の女”だ。

男性にできることは女性にもできる

Ms. Kasera Manchusree ケサラ・マンチュスィ氏
TSFC証券(TSFC Securities PCL.)会長/前タイ証券取引所(SET)社長

 国立タマサート大学経済学部(学士)、米サンフランシスコ・ゴールデンゲート大学院金融科学(修士)卒業。2003年にタイ証券取引所(SET)に入社し、
副社長など要職を歴任。14年から18年まで社長を務める。女性社長は3人目だった。
TSFC証券の株主はSET(40.65%)、財務省(10.56%)、政府貯蓄銀行(9.5%)などで、タイ政府から証券金融の免許を受けている。

イでは多くの金融機関のCEO(最高経営責任者)もしくは社長を女性が務めている。カシコン銀行のカティア社長、ムアンタイ保険のヌアンパンCEOらが活躍しており、ケサラ氏は、「弊社の取締役11人のうち、6人が女性で全員が金融機関出身です。SETでの性別構成も69対31で女性が圧倒していました」と説明する。

「同等の経歴・技能・将来性を持った男性と女性が同時に面接に来たら、バランスを保つために男性を採用したい。女性が多すぎると男性の意見が通らなくなる」と男女均等の形を望む。

「女性の方が人当たりがよく、細かいことに気がつきます。同僚や部下とのコミュニケーションも円滑で、対立をうまく回避し、時には妥協します。ただ、短気で頑固で強情な女性もいますが」と苦笑いする。タイ人女性は日本人女性のように専業主婦でいることを望んでいない。「子供の養育には、親戚が手を差し伸べるほか、保育園を利用します。私には2人の娘(25歳、18歳)がいますが、夫が融通の利く仕事をしているので、忙しいときは代わりに世話をしてくれました。夫の実家も助けてくれました」と笑顔で振り返る。

結婚しない女性が増加

タイではホワイトカラーであれば、妊娠・出産しても職場復帰が容易という。一方、結婚しない女性が増えていることを懸念する。「SETには800人の女性従業員がいます。毎年数えていましたが、出産(産前産後の)休暇を取る女性は、年平均で10数人。多くて16人、少ない年は12人だけでした。結婚しない、しても子供を作らない。国の将来が不安です」と内情を打ち明ける。

教育程度の高い女性は、男性に頼らなくても、独身で生きていけると感じているようで、「趣味に打ち込んだり、友人らと一緒に過ごす時間の方が大切なようです」。タイ人と日本人の出生率はほぼ同じ低水準(約1・5人)だが、タイ人は低所得者の出産が多いところが異なり、もっと深刻だという。

また、子供に高い教育を受けさせたいと思うと公立学校ではなく、高額な授業料が必要なインターナショナル・スクールに入学させるしかない。「娘はタイの仏教系学校で教育を受けました。掃除・料理から自己責任・チームワークまで、幅広い道徳心を学び、他のタイ人と比べると、独立心が強い子供に成長しました」とケサラ氏はホッとした表情を見せた。

ただ、トップを目指すには、男性を様々な面で凌駕しなければならない。「日本人の女性は優秀なので、機会を与えられれば、活躍するでしょう。恐れずに挑戦するべきです。男性にできることは女性にもできます」とエールを送る。

あえてトップの座に就かない選択肢もある

Dr. Luxmon Attapich ラッサモン・アタピック氏
東部経済回廊事務局(EECO)副事務局長

 国立チュラロンコン大学(政治学)を卒業後、英国に渡り、ハル大学で博士号
(経済開発学)を取得。帰国後に財務省税務局に入職。財務省(財務相補佐官)、
アジア開発銀行(シニアカントリーエコノミスト)で要職を歴任し、2018年より現職。
東部経済回廊事務局(EECO)は、東部3県(チャチュンサオ、チョンブリ、ラヨン)にタイ政府が掲げる重点産業(航空機、ロボットなど)の誘致を図っている。

ECOには、トップの事務局長を務めるカニット氏と5人の副事務局長がいるが、半数が女性だ。中間管理職になるとほとんどを占め、ラッサモン氏の直属の部下も8人中6人が女性という。「日本を含め、国内外に出張することが多いので、場合によっては体力がああり、力仕事をしてくれる男手が必要です」と苦笑する。

タイの歴史を振り返ると女性は重要な役割を担ってきた。「男性が女性の実家に婿養子のような形で嫁ぐ風習がありました。現在は男女同権です。EECOを含め、タイの職場では男性が女性を上司として自然に受け入れています」と職場環境の快適さを強調する。「女性は詳細にこだわる一方、男性は大局的な考え方をします。従って、男性と女性が混合した方が、お互いを補い、良いチームができます」。

政府機関・民間企業のCEOや社長は男性が依然、独占しているが、「あえてナンバー2でいることを望む女性もいます。仕事と生活のバランスを取ることを重視するからです。子供や家族を第一に考える傾向があり、副社長や専務などを目指す女性は多くても、家族を犠牲にしてまで、仕事への献身さを求められるトップになることを躊躇する女性が少なくありません」と指摘する。

ワークライフバランスを大切に

出張が多いため、休日は自宅で読書や料理などをしてくつろぐラッサモン氏。「現在、英国の寄宿学校に通っている15歳の息子がいます。子育ては仕事よりも重責を負いましたが、有意義なものでした。仕事での成功だけが幸せではありません」。タイには赤ん坊や子供を預ける施設が不足しており、「民間企業や政府機関に託児所が設置されるよう働きかけたい」と、女性が安心して働ける環境作りを目指している。夫は他の機関の副事務局長を務め、同様に多忙な日々を送っているが、良きパートナーとしてお互いを補っているという。

英国留学時代に友人となった日本人女性との交流を大切にしているが、「社会状況を理解していたので驚きませんでしたが、投資誘致セミナーを日本で開催しても出席者は男性ばかり。将来は女性の活躍する姿がもっとみたいです」と本音を漏らす。「ただ、『成功したい、認められたい』という気持ちは分かりますが、極端に走らないこと。まずは自分自身を大切にし、尊敬することです。自分だけの時間、家族との時間は生活に欠かせない重要な要素です」。トップになることよりも、他人に信頼され、尊敬される人になることが、究極の目標というラッサモン氏だが、「トップを引き受ける勇気と決意を持った女性を深く敬服しています」と付け加えた。

仕事と家庭を両立させながら素養を深める

Ms. Sandy Hanutsaha サンディ・ハヌットサハ氏
国営テレビ局NBT(National Broadcasting Services of Thailand)ニュース番組アンカー

 米国生まれで、14歳の時にタイに移住。サシン経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。
私立アサンプション大学(ABEC)での経営学の常勤講師、国立チュラロンコン大学、
マヒドン大学での英語講師を経て、テレビ局「チャンネル9(MCOT)」で放映された英語ニュース番組のキャスターに抜擢された。現在は国営テレビ「NBT」のニュース番組「Newsline」でアンカーおよびディレクターを務めるほか、ラジオ局のニュースプレゼンター、カンファレンスなどの司会を務める。

イ人女性が活躍する場は教育機関や放送局にも及ぶ。「ABECの副学長は女性で、私自身も同大学院の学部長に任命されました。チュラロンコン大学で英語を教えた際には、学生は全員女性。現在、勤務するテレビ・ラジオ両局のニュース番組の最高責任者も女性と、常に女性に囲まれて仕事をしてきました」とサンディ氏は語る。

世話上手で、繊細な女性は、上司として効果的に部下のやる気を引き出す。「視覚に敏感で、放送開始前にアンカーが着用する衣類や髪、メイクが画面上でどう見えるかなどを想定します。男性が担当すると、付けまつげが緩んでいる、もしくは外れていることに気づかないことがあります」と語る。

女性としてひどい差別を受けたことはないが、「ある大物政治家は、(豊富な知識・経験がある)男性アンカーによるインタビューを期待していたようでした。従って、重用されるには、男性と同等の実力があることを示す必要がありました。取材の下準備を万全にするなどの努力を惜しまず、克服しました」と思い起こす。

2人の子供(男女各1人)を育てたサンディ氏。「最初に妊娠したとき、仕事と家庭を両立される自信がありました。しかし、息子と娘に対する思いがどれだけ強いものになるかを理解していませんでした」。子供中心の世界となり、時間を割いて自分のキャリアを追求するのは間違いであることに気づいた。

ただ、専業主婦の道は選ばずに、素養を深めると同時に、職場で起こる混乱が自分を成長させてくれる機会と感じるようになった。「フリーランスで仕事を続けることで、子供に勤勉の大切さを教えたいと思いました。幸い、夫や親戚が理解を示してくれたおかげで、子育ては順調でした」と笑顔で話す。

タイでは職場に子供を連れてくる母親をしばしば見かける。「職場に託児所があれば、子どもたちが母親の働きを見ることができ、責任感と勤労の精神を彼らの心に植えつけるでしょう。大人や他の子供と一緒に時間を過ごすことで、社交術を向上させることができます」と肯定的だ。

同等以上を望むタイ人女性

出生率の低下が懸念されているが、「より高給で地位の高い女性は、少なくとも釣り合うパートナーを見つけるのが難しくなるでしょう。タイ人男性は従来、プライドが高いため、より高い地位に就いている、もしくは付加価値のある女性を敬遠する傾向にあります。従って、女性の選択肢は狭まると思います」。日本人女性は、結婚相手に求める条件に、高学歴・経済力などを挙げるが、「私と同世代の女性も、将来の夫の教育水準と職場の地位が少なくとも同等であることを望んでいます」と付け加えた。

日系企業との相性も抜群
拡大する女性活躍の場

「女性の方が断然優秀です」―バンコクで1994年から人材紹介会社パーソネル・コンサルタント・マンパワーを経営する小田原靖社長は、迷うことなく答える。その言葉通り、同社のタイ人従業員80名(2018年12月現在)は全員が女性だ。「勤勉さ、積極性、接客態度、気遣い、根気などの点で、女性は男性より優れています」。

顧客の日系企業の見方にも変化がみられる。「90年代は男性を求める企業が多かったです。その後は、経理や総務など内勤の事務職だけでなく、営業担当者や管理職として女性を採用する企業の方が多くなりました。採用の男女比率は現在、女性が約6割ですが、日系企業との相性が良いので、有能な女性の需要がさらに高まるでしょう」と活躍の場がより広がりそうだ。
一方、女性ばかりの職場だと、男性との出会いの場が限られることが懸念される。小田原社長は、「時々、従業員の結婚式に参列しますが、お相手は大学時代の同級生がほとんどです。タイは依然、階級社会で、同等の学歴や収入があり、気心の知れたパートナーを選ぶ傾向にあります」と指摘する。ただ、上位5大学の女性率(15ページ参照)は6割を超えており、釣り合うパートナーを探すのに苦労するタイ人女性の晩婚化・未婚化は避けられないとの見方もある。

「いつも笑顔で」がモットーの同社。楽しく働ける環境の下で、前向きな女性従業員が生き生きと動いている姿が印象に残った。

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