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変革期の自動車産業 ~タイにおけるCASE~

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コネクテッド進むタイ商用車、
データから付加価値生むモデル模索

自動車に使われるワイヤーハーネスの世界大手、矢崎総業を中心とした矢崎グループの中で、矢崎エナジーシステムはトラックやバスなどに付けられるタコグラフと呼ばれる運行記録計を展開している。当初は紙が記録媒体だったが、現在では車両と事業所間のリアルタイムの双方向データ通信が可能(テレマティクス)となり、活用の幅が大きく広がっている。

御社の概要を教えてください

2010年頃より日本からタコグラフを輸入し、アプリケーションをタイ語に翻訳して販売、日系の物流会社を中心に導入を進めました。

ただ、タイは日本と運行管理の考え方が違います。当時からドライバーの不正防止の観点でGPSデバイスの普及率は高く、ある程度の規模の会社では商用車にほぼ導入されていました。

日本とのニーズの違いが顕在化してきたため独自の商品開発を始め、15年にはタイ法人を設立。ただ、一から全国をカバーするサービス網などを設けるのは現実的ではありません。そこでアプローチしたのが、テレマティクス機器ではタイ大手のDTCエンタープライズです。実際にお会いすると現社長の父親が昔、日本企業の物流部門で働かれていて、矢崎をよくご存知でした。非常に好意的に受け入れてくれ、資本提携をすることになりました。

そしてGPSトラッキングによる運行管理や、運転傾向を分析して運転中に安全指導などを行う機能を搭載したテレマティクス運行管理機器「iQsan」を15年に発表。最近では、新型のハイラックス、フォーチュナーを対象にトヨタが運送会社など向けに提供する「FTS」の開発にも携わっています。

勝又GM(左)にタイの商用車コネクテッドの現状を聞くMU Research and Consulting(Thailand)の池上MD(右)

勝又GM(左)にタイの商用車コネクテッドの現状を聞くMU Research and Consulting(Thailand)の池上MD(右)

御社の強みは何でしょうか

安全、省燃費、効率の3つをキーワードとして、製品開発やサービス展開を行っています。タイでは毎年、多くの交通事故が発生しています。私共の製品では、日本で長年蓄積したデータを基に運転指導などによって事故を減らすサポートが可能です。

また、普通のGPSデバイスでは取れないエンジン回転数のデータを得ることができ、運転の癖を顕在化させ改善に繋げることができます。さらにトレーニングモードが設けられており、設定中は通常より多く改善点を音声で知らせてくれます。タイ特別の仕様として、指摘するだけではなく褒める機能を加えています。

タイでは運送会社の運行経費に占める燃料費の割合は50%に上ります。日本では18%程です。これらの運転指導によって燃料費を20%以上削減できたケースもあり、コスト削減効果は大きいです。

タイの市場環境の特徴とは

16年から10輪以上のトラックにもGPSデバイスの搭載義務が拡大され、陸運局では登録された約55万台のトラックが今、どこを走っているかを見ることができます。ただ、管理は会社側にゆだねられており、法律を満たせれば十分と考える企業も多いです。

義務化時にまだ30社~40社程度だったGPSデバイスの企業が今では150社を超えています。対象車両はほぼ導入しており、価格競争も激しくなっています。私共のサービスの付加価値をどのように認めていただくかは課題です。

現在の製品は通信に3Gを利用していますが、将来、5Gになれば遅延がほとんどなくなり、サーバー側でデータの分析が可能になり、新しいサービスが逐一投入できるようになります。

今後の事業展望については

弊社の社是に「世界とともにある企業」「社会から必要とされる企業」とあります。今後も安全と省燃費、効率を一層追求した新たなサービス、技術を立ち上げることが重要と考えます。

「iQsan」や「FTS」への取り組みにおいても、単なる機器売りに留まらない、データを解析して付加価値を生む、新しい一歩を踏み出せたと思っています。今後は周辺国など事故が多い国へさらなる普及を図り、少しでも安全に寄与していきたいと考えています。

スマートシティにおけるモビリティ活用の可能性

タイ政府は建設が進むバンスー中央駅周辺の372ha(公園部分含む)をスマートシティとして再開発する計画だ。タイ政府の要請を受けて、日本の建設コンサルタント会社パシフィックコンサルタンツ(PCKK)を幹事会社としたJICA調査団が実現に向けた提案を行った。その中には新たなテクノロジーを用いたスマートモビリティの活用も検討されている。

バンスースマートシティの概要は

新しいバンスー中央駅を中心にオフィス、商業施設、住宅などを造設し、最新技術を導入したスマートシティとして開発することが計画されています。タイの中ではプーケット、チョンブリ(アマタシティチョンブリ工業団地)と共に、バンスー地区はASEANスマートシティネットワークにおけるモデル地区に選ばれています。私共はモビリティやエネルギー、環境などを重点分野としたスマートシティ構想などを提案しました。

運輸省傘下のタイ国鉄が持つ土地で展開するスマートシティ開発ということで、当初からスマートモビリティをキーワードに提案をしてほしいという要望がありました。バンスー地区は建設中のバンスー中央駅を中心として、周辺にBTSやMRTの駅、高速道路の出入り口もあり、まさしく新たな交通ハブになり得る場所です。

一方で、それぞれの駅が離れているなど連結性に乏しく、域内の移動をどうやってスムーズに行うかが大きな課題でした。また、開発は地区ごとに段階的に行われていく予定で、需要が顕在化してくるタイミングが異なります。できるだけ需要の変動に柔軟に対応できるモビリティサービスという点も考慮しました。

具体的な提案内容とは

現状でも周辺道路は渋滞しており、徒歩による移動も難しい。それなら域内の移動に特化した階層を作るべきと考えました。

バンコクにあるMBKの交差点の上には人が集まるデッキがありますが、あのようなデッキでバンスーの各地区を結んで歩いて回遊できるようにするとともに、デッキ上にはPRT(Personal Rapid Transit)と呼ばれる小型のEV車両を走行させるスカイデッキネットワークなどを提案しました。他の交通と交わらないレーンを作ることで、将来的には自動運転などが先行的に導入できる環境になる可能性もあります。

交通渋滞というのは難しく、一つの対策で解決できるものではありません。スカイデッキネットワークの他にも、域内に入ってくる自動車を少なくするために敷地の境界に駐車場を作り、パーク&ライドのようにPRTに乗り変えてもらうようにしたり、少しでも域内の交通渋滞の緩和に寄与できるようなアイデアを取り入れようと考えました。

ほかにも、PRTのバッテリーに夜間電力を蓄電し、日中の電力使用のピーク時に供給して電力の需給バランスを最適化するⅤ2H(Vehicle to Home)なども構想に入っています。

バンスースマートシティのパース図 出所:JICA

バンスースマートシティのパース図 出所:JICA

今後の進捗などは

今年の年初に提案を取りまとめたレポートを運輸省に提出し、非常に好意的に受け取っていただきました。ただ、私どもが提案したのは都市開発の中で展開するスマートシティのコンテンツであって、地域全体の都市開発をどのように進めていくかは現在、関係機関で協議が進められています。

ともあれ昔から交通ハブになり得る構想の下で、タイ国鉄が広大な土地を持っていた地域です。タイにおける新しい都市の在り方を提示するような場所になることを望んでいます。

都市開発は何かプロトタイプがあるわけではありません。都市、国ごとに持っている課題、可能性は違います。それに対して今ある技術、ノウハウをいかにカスタマイズして提案できるかが、私どもがコンサルタントとして付加価値を提供できる場所です。そういった目線で、今後も都市開発案件は積極的に展開していきたいと思っています。


寄稿者プロフィール
  • 瀧波 栄一郎プロフィール写真
  • ミャンマーサーベイリサーチ

  • 瀧波 栄一郎

    三菱UFJリサーチ&コンサルティングなどにて一貫して、海外(主にASEAN)進出支援を専門とするチームで、大手日系企業の海外進出案件に従事。2018年にミャンマーサーベイリサーチ(MSR)入社。MSRジャパン(日本法人)の代表も務める。

配車サービスは Grabの一強体制

ミャンマーでは、安価なスマートフォンの普及や通信費用の低減によりデジタル化が急速に進んできた。過去5年でも情報通信技術を取り入れた新興企業が100社以上も誕生し、外資PEファンドやベンチャーキャピタルの海外資金も相まって、スマートフォンが一つあれば、先進国や隣国タイ、シンガポールなどと変わらないサービスが受けられるようになっている。

MaaSに関連する配車アプリ、ライドシェアの領域ではシンガポール資本のGrabの存在が最も大きい。最大都市ヤンゴンでも、過半数のタクシー運転手がGrabを活用している。

Grabは2017年にミャンマーに進出し、翌年には配車アプリのパイオニア的存在であるアメリカのUberのASEAN事業を買収することで自社のシェアをミャンマーでも確立した。

現在では配車アプリを起点に食品デリバリー、ポイント事業、ホテル予約、運転手付きレンタカーなども提供する。独自で投資を進めている決済プラットフォームやウォレット機能は、非現金決済を進めたいミャンマー政府の意向と消費者ニーズとも一致しており追い風となっている。

ベトナム系なども参入して競争激化

Grab以外にもOway Ride、 Hello Cabsなどの地場系や、18年にはベトナム資本のFastGoなどがミャンマーに進出した。中でもOwayはスタンフォード大学を卒業後、アメリカのGoogleで勤務経験のあるミャンマー人創業者が14年に設立し、日本の大和証券グループも18年に出資をしている。

タクシー運転手にとってはGrabへの手数料はOwayの2倍であり負担が大きいが、

①ラッシュアワー以外の時間帯での顧客獲得が容易
②外国人観光客が他国で利用し既にアプリを保有している
③ビジネス客にとっては領収書が発行される
④カード決済では即日支払い可能
⑤運転手向け保険サービスの充実

など、運転手と利用者の双方から支持されていることがGrab1強体制の背景にはある。

ただ、ミャンマーにおけるMaaSのサービス拡大と普及には、そもそもの基盤となる鉄道、道路などのインフラ整備が不可欠である。

最大都市であるヤンゴンの公共交通をとっても、本来は主要通勤手段となるべきヤンゴン環状線は老朽化により速度が遅く、多くの通勤者はバスや自家用車しか通勤手段がない。MRT(大量高速交通システム)の計画もあるが、現時点ではルートの初期調査段階である。

一方で、大規模な交通運営事業者は国営ミャンマー鉄道以外には存在しないミャンマーだからこそ、MaaSが目指している交通・移動手段をすべて繋ぐ社会の実現を迅速に進めることができる可能性も秘めている。


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