国内・アジアなど1,320万台
「市場のEV比率が3割程度であれば、ATベースの駆動装置の需要は変わらない」。アイシン精機の伊原保守社長は自信を示す。ATはEVには使われないが、駆動力にエンジンとモーターを併用する簡易的なハイブリッド(HV)駆動システム「マイルドHV」には使われる。またモーターのみで駆動できる「ストロングHV」向けにも、従来のATにモーター一つを組み合わせた「1モーターHV」を開発中だ。
世界の車市場全体の拡大も考慮すると、EVの販売比率が、世界で30年に3割に達したと仮定しても、既存のATをベースとした駆動製品の市場は大きく変わらないと同社は見ている。2,000億円の巨費を投じるATの大増産の背景には手堅い需要見込みの裏打ちがある。
ATの増産は、子会社のアイシン・エィ・ダブリュ(AW)を中心にグループ全体で進める。まず日本では、岐阜県瑞浪市にATの新工場を稼働。18年末からAT部品の加工を開始し、19年2月には前輪駆動(FF)車用の8速ATの生産を始める。19年中に追加で能力増強を実施し、同工場の年産能力を70万台とする。このほかアイシングループの既存工場も増強し、国内でのAT生産台数は20年度に960万台(17年度比17%増)となる。
一方、アジアでは中国とタイでATを増産する。中国ではアイシンAWが広州汽車集団系、浙江吉利控股集団系とそれぞれ6速ATの合弁工場を20年に稼働する。両合弁会社にはアイシンAWが60%、合弁相手が40%出資。天津市と河北省唐山市の既存工場も増強し、中国でのAT生産を20年度に240万台(同約2.7倍)に高める。タイの工場も能力増強し、ATの年産能力を30万台とする計画だ。
中国2社との合弁会社設立では、先々のAT需要の減少リスクを車メーカーとの間で分け合う判断もあったとみられる。アイシン精機首脳は「先々のAT投資には危険もある。中国市場の情報を収集する上でも合弁にはメリットが大きい」と話す。
AT比率の高まる欧州では、アイシンAWがフランスのグループPSAにFF車用の6速ATの生産ライセンスを供与。PSAは20年以降に同国北部バレンシエンヌの工場で年30万台のATを生産する方針だ。
“EV時代へ布石”
EV時代への布石も打つ。プラグインハイブリッド車(PHV)向けの駆動システムを高出力化し、システム制御を追加したEV向け駆動ユニットも開発中。「電動化に全方位で対応できる唯一のパワートレーンメーカー」(伊原社長)を目指し、競争力を高めている。
岐阜県瑞浪市に整備中のアイシンAWのAT工場
※記事提供・日刊工業新聞(杉本 要 2018/5/16)