中野陽介コラム

22 【創作経済】「虹を作るジュエリー屋①」(日本/東京)

 JR総武線などが乗り入れる綿糸町駅を出ると、クリスタルの石がキラキラと風になびいていた。その輝きに魅せられて近づいてみた。

 「太陽の当たるところに飾るとお部屋中いっぱいに虹をつくります」という素敵なキャッチフレーズ。

 値段は長さや大きさによって違う。それ以外は、ハンドメイドのジュエリー、本物の葉っぱを使ったアクセサリーなど、女性心をくすぐるフレーズと、商品が可愛く陳列されていた。たくさんの女性が足を止め、店長さんと談笑しながら、商品を購入している。

 これはオモシロイと思ったので、店長さんに話しを聞いてみた。「なんでここでやろうと思ったんですか?」「場所がいちばん大事なんだよ。渋谷や新宿のような人通りの多いガチャガチャした場所では、店の雰囲気と合わないから売り上げも伸びない。ちょっとシャレオツで落ち着いたマダムや女性たちが集う場所だと、店のテイストとも合い、お客さんも増えるからここなんだよ」

 なにを通行人に提供するかも大事だが、それに合う場所や環境を選ぶこともまた大切だというのだ。それにしてもなかなか大掛かりな店構えである。

 「毎回自分でセットしているんですか?」「そうだよ、1時間くらいかかるよ(笑)」「警察に注意されません?」「されるよ」 「そのたびに片づけてるんですか⁉」「そうだよ」

 「ナイス根性ですね!なんでこんな働き方してるんですか?」と問うと、「俺バカだからさ~♪」との一言が印象に残った。

 「本来ならもっと効率よく短時間で店をオープンできるように工夫するんだろうけど、俺はバカだからそれをせずに毎回時間をかけてセットしたりして、こんな働き方してるんだよね」と僕は彼の言葉を解釈した。けど、彼が自身のことを「バカ」だと言ったことが僕には気にかかった(8月号に続く)。


中野陽介

1987年福岡生まれ。19歳で渡米、Los Angeles City College卒業。23歳で岡本太郎著「今日の芸術」で芸術使命に目覚める。24歳で渡タイ、バンコクでサラリーマンと芸術家の2足のわらじ生活を3年間送る。28歳で1年間に22ヵ国を巡る世界一周旅を敢行。その後、路上ワークの研究を始め、現在、平日はサラリーマン、休日は路上ワーカーという生活を送っている。「路上ワークの幸福論」発売中。
yosukenakano.com

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