中野陽介コラム

34 【態度経済】「電車内を無言で経済空間に変える青年」(アルゼンチン/ブエノスアイレス)

旅する芸術家が綴る世界で出会ったしばられない働き方 世界の路上ワーカー

アルゼンチンのブエノスアイレスで地下鉄に乗っていると、若い青年(写真の右奥、緑色ズボンを履いた男性)が小さな紙を乗客に渡し始めた。

紙にはスペイン語でこう書かれていた。

「乗客のみなさま。あなたの少しのお金で、私は兄弟たちと一緒に食事ができます」

このメッセージを読んで、数人の乗客がポケットの財布と相談を始めた。

青年は乗客の全員に紙を配り終えると、今度はすぐにその紙を回収し始めた。回収する時に、お金を一緒に渡す乗客が数人居た。

車内の様子とメッセージが書かれた紙

全員から紙を回収し終えると、電車は計算されていたかのように次の駅に停車し、扉が開いた。青年は何事もなかったかのように降りて行った。

青年は一言も発することなく、小さな紙に書かれたメッセージと「態度」だけで、電車内を経済空間に変えてしまった。

そしてまた電車が動き出した。

どんな場所でも視点を一つ変えるだけで、そこは経済空間に変わるのだ。

寄稿者プロフィール
  • 中野陽介 プロフィール写真
  • 中野陽介

    1987年福岡生まれ。19歳で渡米し、Los Angeles CityCollege卒業。23歳の時、岡本太郎著「今日の芸術」を読んで衝撃を受ける。24歳で渡タイ、バンコクでサラリーマンと芸術家の二足のワラジ生活を3年間送る。28歳から1年間で22ヵ国を巡る世界一周旅を敢行。旅先で路上ワーカーたちの出会いに感銘を受け、「路上ワークの幸福論」を出版。同書はKinokuniya:Bangkok店&EmQuartier店でも発売中。

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