2015.05月号

【連載】千代田中央法律事務所 タイの労働法制

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本稿においては前稿に引き続き、就業規則に関する具体的な事例を通じて、使用者として従業員との紛争を避けるためにどのように立ち振る舞うべきかについて検討していく。
前稿においては、就業規則の内容の適法性、当該事例への適用の当否が争われた事件について取り上げた。本稿では、使用者が就業規則の変更を行った場合に、変更後の就業規則が従業員に対して適用されるかが争われた事例について検討する。

1.事案の概要

Y社においては、定年日について、就業規則において「従業員が満60歳を迎える年の12月31日」と定めていた。Y社は当該就業規則を変更し、定年日については、「従業員が60歳となった日」とする旨を定めた(以下、「本件規則変更」という)。Y社変更後の就業規則を従業員全員に配布し、加えて就業規則の変更についての説明会を、全従業員を対象に開催した。
このような状況の下、60歳の誕生日を迎えたことによってY社から定年退職とされたXが、本件規則変更が無効であるとして、自身の従業員たる地位の確認を求め出訴した。

2.判決

【結論】
本件規則変更は無効である。
【理由】
雇用条件についての労使間の合意事項について追加変更を加えるに当たっては、追加変更を希望する側が相手方に対して、追加変更の申入れを書面によって行わなければならない(労働関係法13条1項)。本件規則変更は、就業規則のうち定年日についての内容変更であるところ、雇用条件についての労使間の合意事項についての変更に当たる。
よって、Y社が従業員に対して本件規則変更の申入れを書面によって行ったか否かを検討するに、まず、Y社は変更後の就業規則を従業員全員に配布している。しかし、これを以て、本件規則変更の書面による申入れに当たるとは言えない。

次に、Y社は、従業員全員を対象として、就業規則の変更についての説明会を開催している。しかし、これを以て、書面による申入れに代わる措置であると言うことはできず、同説明会において従業員の異議がなかったことを以て、本件規則変更に対する労働者側の承諾があったということもできない。
したがって、本件規則変更は労働関係法13条1項に反し無効であり、変更後の就業規則をXに適用することはできない。

3.解説

労働関係法13条1項は、雇用条件についての労使間の合意事項について追加変更を加えるに当たっては、書面による申入れが必要である旨定めている。私人間の合意事項の内容を変更するに当たって、変更の申入れを行い相手方の承諾を要することは、およそ私法上の原則であり、労働関係法13条1項は、その旨明記するとともに、雇用条件についての合意事項の変更という性質に鑑みて、変更の申入れを書面によって行うことを要求したものである。
まず、変更後の就業規則の配付が、書面による変更の申入れに該当しないことは論を待たないであろう。次に、全従業員を対象とした、就業規則の変更についての説明会の開催を以て、書面による変更の申入れに準じた手続が履行されたと言えるかが問題となるが、裁判所はこれについて否定している。その理由は明らかにされていないが、労働関係法13条1項は、労使間の合意事項の追加変更が、とりわけ使用者によって一方的に行われることを避けることを趣旨としている。単に従業員を集めて説明会を開催した程度では、とても当該趣旨を担保するだけの手続的適正が確保されていたとは言い難いであろう。本件で仮に説明会の場において、従業員に異議を述べる機会を与え、変更の承諾について決議を経ていた場合には、判断に変更があったかは定かではない。しかし、労働関係法13条2項や3項が、変更の申入れ書面に、交渉参加者氏名を記載することを求めていることに照らせば、就業規則を変更するに当たって労働関係法が想定しているの は、変更の申入れに基づいて労使の代表者がともにテーブルについて交渉する場面であろう。説明会という形式では、労使間が対等に交渉する場が設けられたとは言い難い。よって、例え上記のような手続を経ていたとしても、裁判所の判断に変更があったかは疑問である。

4.同様の紛争を避けるために

『法令に定める手続にしたがって就業規則を変更することが必要である』
まず、労使間においては、これまで述べてきたとおり、書面にて変更を申入れるとともに、互いの代表者が交渉を経て変更について合意することが必要である。なお、交渉に際して変更を希望する側が出すことのできる代表者は7名以下である。
そして合意された就業規則の内容について、7日以内に労働官に届出を行い、審査を受ける必要がある。

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【共著:平井遼介弁護士】

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