もう悩まない!人材採用&育成のコツを解説 Vol. 17 タイ人事相談室

優秀な人材が組織に定着し、活躍してもらうためのポイントについて、
今回からは実務目線で掘り下げていきます。人材管理とは切っても切り離せない
労働法務事情を、KASAME & ASSOCIATESの藤井嘉子弁護士に伺いました。

藤井嘉子
日本国弁護士
Kasame & Associates Co., Ltd.

2010年新司法試験合格、2011年司法修習修了。2011年から約4年間、日本の法律事務所にて一般民事、刑事、家事、労務等、幅広い業務を扱う。2017年12月より、カセーム&アソシエイツ法律事務所にて、日系企業の法務コンサルティング(一般企業法務、労務、訴訟・紛争対応、一般民事・家事案件等)を担当(2018年3月より岡山弁護士会所属)。
Mail: fujii@kasamelaw.com

「人材と労務」を考える(前編)

下川 タイと日本の労働法務を比較すると、相違点も多いのではないでしょうか。

藤井 そうですね。例えば、人材を採用した時点で必要になる雇用契約書はタイ法上、作成は義務付けられていません。しかし、トラブルを回避するという観点からは作成を強くお勧めしています。就業規則については、従業員数が10名以上になると作成や社内掲示の義務が発生します。

下川 それぞれの書類を作成するにあたり、使用言語の指定はありますか?

藤井 就業規則はタイ語でなければなりませんが、雇用契約書はどの言語でも構いません。会社と従業員の両方が署名する書面の内容を直接把握していることが望ましいため、英語が堪能なタイ人を雇用する場合には英語での作成をお勧めしています。また各々が母国語で認識できるよう、複数言語のバージョンをお持ちの企業もあると思いますが、この場合、実際にトラブルが起こった時に「どの言が正本か」が問題になりえますので、例えば英語が正本、日本語版とタイ語版は参考訳といった形で決めておくと良いと思います。

下川 就業規則は一度作ると、簡単には内容を変えられないと聞きますが。

藤井 従業員に一方的に有利な変更を除き、変更時は従業員全員の同意が必要とされています。「日本本社の就業規則をベースにタイの就業規則を作りたい」というご相談をいただくケースもありますが、タイと日本では労働法制が異なるため、日本の労働法をベースに作られた就業規則を使用すると、思わぬ落とし穴が生じます。就業規則に記載すべき内容はある程度決められていますし、タイ人従業員にとって「わかりやすい」書き方が日本の感覚と違うといった文化的な差異もありますので、タイ法人ではタイの基準に合わせた就業規則を作成しましょう。

下川 企業規模や業態によっても記載内容は異なるはずですものね。

藤井 仰る通りです。「マネージャー」の役職がどこまで権限を持つかは企業によって異なるでしょうし、雇用契約書で役職を「通訳」と記載した人材に、通訳以外の事務作業をお願いしてトラブルに発展することもあり得ます。何をやってほしいのか採用段階で曖昧にせず、十分なコミュニケーションを取り、文書化して残すべきかと思います。

下川 特にタイ人は役職を気にしますから、採用の観点からも明確な組織図やジョブディスクリプション(職務規定書)は必要不可欠です。

藤井 企業側が人材に求める内容を文書に落とし込む必要性がある一方で、例えば賞与の計算方法まで細かく明記してしまうと、後々調整がきかなくなり困ってしまう恐れもあります。有効な書類づくりにはコツがいるのも事実ですので、ぜひ専門家にご相談ください。

(ArayZ5月号に続く)


下川ゆう yu shimokawa
en world Recruitment (Thailand) Co., Ltd.
日系チーム チーム・マネージャー
立教大学卒業。大手人材紹介会社の東京本社で経験後、2009年に来タイ。以来、在タイ日系企業への人材紹介に従事。顧客企業の組織発展のための採用支援を得意とし尽力している。

gototop