時事通信 特派員リポート

Vol.04【モルディブ】「楽園」に迫る危機=イスラム過激思想と独裁 ISとつながり指摘も(ニューデリー支局 出井亮太)

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真っ白に輝く砂浜と青く透き通った海。インド洋の島国モルディブは、新婚旅行先やリゾート地として高い人気を誇る。しかし、近年ではイスラム過激思想が高まりを見せ、「イスラム国」(IS)に参加する若者が増加。一方、ヤミーン大統領は政敵を相次いで排除し、独裁色を強めている。日本政府はいまだ渡航者に危険情報を出していないが、「楽園」には確実に危機が迫りつつある。

jijiアマル・クルーニー弁護士(右)とともにロンドンで記者会見するモルディブのナシード元大統領=1月25日(AFP=時事)

ISとつながり

「どの国よりも多くのジハーディスト(聖戦主義者)を輩出している」。モルディブのナシード元大統領は1月、英ロンドンでの記者会見で警鐘を鳴らした。
元大統領によると、これまでに200人以上がイラクやシリアに渡り、ISの活動に参加。「人口規模(約40万人)を考慮すれば、モルディブは過激主義とテロリストの温床になりつつある」と訴えた。
米国務省は国際テロリズムの動向に関する2014年版報告書で「モルディブのイスラム過激派は世界各地のテロ組織と接点がある」と指摘した。インド政府も隣国モルディブにおけるISの動向に神経をとがらせている。

強まる独裁色

観光を主要産業とするモルディブの政府は「楽園」のイメージ保護に躍起になっている。マウムーン外相は今月、米CNNのインタビューで「イスラム過激主義が伸長しているとの主張は、野党による無責任な言い掛かりで、全く根拠がない」と切り捨てた。
しかし、国際社会が懸念するのはISだけではない。ヤミーン大統領は13年の就任以降、ナシード元大統領や現職の副大統領を相次いで逮捕。警察幹部や国防相も解任するなど粛清を進め、独裁体制を築きつつあるからだ。
米英印は「ヤミーン政権は人権を侵害している」と批判し、ナシード氏らの釈放を要求。政権は今年1月、同氏の治療名目での渡英をしぶしぶ許可した。
米俳優ジョージ・クルーニー氏の妻アマルさんをはじめとする国際弁護団とともにロンドンで記者会見に臨んだナシード氏は、ヤミーン大統領の独裁政治が過激主義の台頭を助長していると指摘。そのまま、英国に政治亡命する可能性も示唆した。

「時間の問題」

今年1月、モルディブの首都マレに日本大使館が開設された。
日本政府はこれまで、モルディブへの渡航に関する危険情報を出していないが、英政府は「一般的なテロの脅威がある」と注意を促している。
約1200の島が存在するモルディブは「1島1リゾート」方針を掲げ、海外からの旅行者は首都ではなく、離島のリゾートに宿泊する。モルディブではこれまで「過激派分子は国内リゾートを攻撃の対象にしない」との暗黙の了解があったとされる。
しかし、ISが台頭する中、その不文律が今後も守られる保証はない。ナシード氏の弁護団の1人は「(リゾート地で観光客40人近くが殺害された)チュニジアのテロと同様の事件がモルディブで起きるのは時間の問題だ」と警告している。

※この記事は時事通信社の提供によるものです。
(2016年2月18日記事)

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