時事通信 特派員リポート

【ベトナム】「報道管理」強める新指導部=体制の動揺を警戒(ハノイ支局 冨田共和)

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ベトナムで4月に発足した新体制下で、報道管理の動きが目に付く。国際ジャーナリスト組織 「国境なき記者団」による2016年の国・地域別報道の自由度ランキングでワースト6位となるなど、同国では以前から当局による統制が厳しいが、それが一段と強まった感がある。グエン・フ ー・チョン共産党書記長ら指導部が「報道が発端となって党・政府への批判が高まり、体制が動揺するのを警戒している」(消息筋)との見方が一般的だ。

jijiベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長(AFP=時事)

記者証を剥奪

党・政府の姿勢を象徴するのが、立て続けに起きた記者証剥奪事件だ。ベトナムでは各報道機関の記者に、取材・執筆活動を保証する「記者証」を支給する。 同国の報道機関は国営または公営で、記者証の返納はジャーナリ ストの身分を失うことに等しい。
情報通信省は6月20日、「ホーチミン市の法」紙に所属する40代の男性記者の記者証の剥奪を決めた。空軍戦闘機が連絡を絶ち、捜索に出たパトロール機まで行方不明になった事故をめぐり、インターネット交流サイト(SNS)上に「軍の名誉を傷つけ、乗員の家族の感情を逆なでした」投稿を行ったのが理由という。 7月6日には、政府発行の記者 証と似た独自の身分証を作成・交付したとして、「ベトナムの企業と会社」誌の編集局次長の記者証を取り上げることにした。
2件の真相は不明だが、記者にも落ち度があったようだ。前者は、失踪機の残骸が発見された後に「なぜ(機体が)『木っ端みじん』になったのか」などと記述。 ベトナム人が日常会話で口にし ない「木っ端みじん」という刺激的な言葉が、ネット上で批判された。一方、後者では、独自の身分証を持った者が記者活動を逸脱する行為を行っていたとのうわさがある。報道事情に詳しい関係者は、2件について「つまらないことで、当局につけ込む隙を与えた」と語り、党・政府の今後の動向に注意すべきだと指摘する。

「主敵」はSNS

党・政府にとって、電子版も 含めて通常の記事はそれほど脅 威にならない。たとえば電子版 であれば、記事が掲載された後 に当該報道機関に見解を伝え、 削除させることが可能だからだ。 問題はむしろ、「フェイスブッ ク」などSNS上に報道機関が 開設したページだ。特に、読者で ある一般市民が書き込んだ体制批判などのコメントが短時間で拡散することに、ひどく神経質になっている。情報通信省幹部は最近、メディアのインタビューで 「個人や組織を不当に攻撃する ようなコメントの管理ができていないのは、由々しき事態」と報道機関に苦言を呈し、対応を要請した。
ベトナムでは現在、若年層を中 心にSNSを通じて情報を入手する傾向が強い。日本と同様に、 従来型メディアの影響力は下がってSNSの役割が強まっており、指導部もそれを意識している。 党・政府は、報道機関の関わるSNSを抑え込むことをSNS対策の足掛かりと位置付けているとみてよさそうだ。

※この記事は時事通信社の提供によるものです。 (2016年7月21日記事)

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