2017.01月号

時事通信 特派員リポート

時事通信 特派員リポート Vol.13 【ミャンマー】スー・チー氏に国際批判強まる=ロヒンギャ迫害疑惑、ミャンマー政府は否定(バンコク支局 花田義久)

ミャンマー政府の実質的トップ、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相に対し、ミャンマー治安部隊によるイスラム系少数民族ロヒンギャへの人権侵害疑惑をめぐって、国際的な批判の声が高まっている。

「ジェノサイド」と糾弾

今回の疑惑の発端となったのは、10月9日にバングラデシュとの国境に近いミャンマー西部ラカイン州北部マウンドーで武装集団が警察施設を襲撃し、警官9人が死亡した事件。当局は事件をロヒンギャ過激派による犯行と断定し、過激派掃討のため、国軍を中心とする治安部隊が軍事作戦に着手した。
当局によると、治安部隊と武装集団の衝突で、これまでに武装集団69人を含め、少なくとも86人の死者が出た。この軍事作戦中、治安部隊がロヒンギャの民間人に対し、法によらない処刑や拷問、性的暴行などの人権侵害行為を加えたとの疑惑が、ミャンマーからバングラデシュに逃れたロヒンギャらが人権団体や外国メディアに行った証言で浮上した。
ミャンマー政府・軍は疑惑を全面否定する一方、外国メディアや人権団体などによる現地取材・調査を規制。国連をはじめ国際社会からミャンマー政府に対し、疑惑を検証するため独立調査の実施を求める意見が相次いだ。

ミャンマー大統領府は12月1日になってようやく、疑惑の調査などを目的とした調査委員会の設置を発表した。一方、スー・チー氏は2日、訪問先のシンガポールで地元テレビ局チャンネル・ニューズ・アジアのインタビューに応じ、国際社会がラカイン州の多数派仏教徒とロヒンギャの対立を誇張して取り上げていると反論。「国際社会が怒りの大きな炎の原因をいつもあおり立てるのではなく、平和と安定を維持し、二つのコミュニティーのより良い関係構築を進展させるために私たちを支援してくれれば、大いに感謝する」と述べた。
しかし、「細心の注意を要するデリケートな問題」だとして、慎重な対応に終始するスー・チー氏の姿勢に対し、厳しい見方が広がっている。
「ミャンマーでロヒンギャに対するジェノサイド(集団殺害)が進行中だ」と警鐘を鳴らす報告書を昨年発表した英ロンドン大学クイーン・メアリー校の研究者は、「スー・チー氏はジェノサイドを正当化し、ロヒンギャ迫害を固定化している」と強く非難。マレーシアのナジブ首相は4日、クアラルンプールで開かれたロヒンギャ迫害に抗議する集会で、「世界はジェノサイドが起きているのを座視できない」と糾弾した。

調査委に冷ややかな目

国連も懸念を深めており、国連人権高等弁務官事務所の報道官は「人道に対する罪となる可能性がある」と警告。国連のナンビアール事務総長特別顧問(ミャンマー担当)は8日、スー・チー氏に対し、「状況を熟慮し、彼女が多くの機会でそうしてきたように彼女の『内なる声』に耳を傾け、民族や宗教、その他の違いを乗り越えて全てのコミュニティーの間で人間の尊厳、調和、相互協力を推進するようミャンマー国民に直接語り掛けるよう」求める声明を出した。
さらに、同特別顧問は、スー・チー氏に対し、マウンドーなど現地を訪問し、「身の安全を守る、と現地住民を安心させるよう」呼び掛けた。スー・チー氏は10月に襲撃事件が起きて以降、一度も現地を訪れていない。

ミャンマー政府が設置した調査委に対しても冷ややかな目が向けられている。13人のメンバーは全員ミャンマー人でロヒンギャの代表は含まれていない。委員長に就任したミン・スエ副大統領は元国軍幹部で、軍事政権のトップだったタン・シュエ氏に近い強硬派と目されている人物だ。
このため、「スー・チー氏が直面している反発を一時的に和らげるための単なる道具」(バングラデシュ紙デーリー・スター)などと、真相究明は期待できないとの見方が強い。

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