2016.07月号

時事通信 特派員リポート

Vol. 7 【タイ】投資奨励事業の課税訴訟、国税当局に軍配=日系企業に動揺広がる(バンコク支局 近藤 泉)

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タイ政府の投資促進委員会(BOI)から優遇税制の適用を受けた事業の税務処理をめぐり、ミネベアの現地法人NMBミネベア(タイ)が財務省国税局による追加納付の決定を不当として争っていた裁判で、タイ最高裁は5月16日に国税局を支持する判決を下し た。タイ政府は外資誘致をテコに産業高度化を進めようとしているが、それと逆行するような司法判断が示されたことに、在タイ日系企業の間で動揺が広がっている。

損益通算で二つの解釈

最高裁まで決着がもつれ込んだのは、優遇税制が適用される投資奨励事業で生じた損益と適用されない非奨励事業の損益との相殺方法について、BOIと国税局の解釈が大きく食い違っているためだ。
BOIは、奨励事業の損失は非奨励事業で出た利益と最初に相殺した後、さらに損失が残れば別の奨励事業の利益との間での相殺が可能との考え。これに対し、国税局は「複数の奨励事業で利益と損失のいずれもが生じているなら、最初に奨励事業同士の損益を相殺し、それでも損失が残る場合に初めて非奨励事業の利益と相殺できる」と主張する。
BOIの解釈だと企業は通常の税率が適用される非奨励事業で得た利益を優遇税率が受けられる奨励事業で相殺し、全体の税負担を軽減できる。一方、国税局の考え方に従えば、まず奨励事業の中で損益を確定し、非奨励事業の損益との通算はその後になるため、納税額の軽減は限定される。
国税局は2008年8月、BOI解釈に基づき税務処理したNMBミネベアに5億200万バーツ (約15億円)の追加納付を命じた。同社は「BOIの指導に沿って税務申告を行っており、(国税局の)決定は不当」として、決定取り消しを求めて中央税務裁判所に提訴。10年10月の税務裁判決では勝訴したものの、国税局が同年12月に上告し、およそ5年半 の審理を経て今回の逆転判決が言い渡された。

タイ財界も批判

最高裁の判決理由は「投資奨励法には奨励事業の課税所得を計算するための明確な方法が規定されていないため、歳入法の規定に従って計算すべきだ」というもの。損益通算の方法論をめぐるBOI、国税局それぞれの解釈の妥当性への判断には踏み込まず、投資奨励 法の不備を理由にBOI解釈に合理性はないとするいわば「門前払い」に近い内容だ。
そもそも、投資奨励法に損益通算のルールが明示されていないことは以前から指摘されていたこと。にもかかわらず、関係当局間で解釈の擦り合わせができず、投資奨励法が改正されないまま放置されてきた事態に、日系企業ばかりかタイ財界からも「わが国の投資政策への信頼を揺るがしかねない」(プレディー・タイ銀行協会会長)と批判の声が上がっている。
BOIの指導に従って損益通算している日系企業はミネベア以外にも複数存在するとみられ、そうした企業は「いつ更正決定を受けるのかとの不安を抱えている」(会計コンサルタント)という。タイ政府は6月14日の閣議で、最高裁判決を受けて課税所得の再計算に追われる企業の負担を考慮し、確定申告期限の延期を決めたが、企業側の不安を解消するに至っていない。在タイ日本企業、政府関係者らは今後のタイ政府の動きを注視し、より抜本的な改善策を求める方針だ。

jiji国税局の判断を支持する判決を下したタイ最高裁 (バンコク、6月9日撮影)

※この記事は時事通信社の提供によるものです。

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