時事通信 特派員リポート

【フィリピン】ドゥテルテ比大統領、 任期後半も盤石=憲法改正に弾み(マニラ支局 榊原 康益)

 フィリピンで5月13日、上下両院選挙や地方首長選挙が投開票された。ドゥテルテ大統領にとっては、任期の折り返し地点で行われた中間選挙。高い支持率を維持していたところに、野党の戦術ミスが重なり、大統領派が大勝を収めた。ドゥテルテ氏は任期後半に入っても失速せず、むしろ権力基盤の強化に成功。目指してきた憲法改正に向け、弾みを付けた。

野党は全滅

 注目の上院は、定数24議席の半数に当たる12議席が改選された。当選者のうちドゥテルテ派の候補は9人に上った。同氏に最も近いゴー元大統領特別補佐官は3位、デラロサ元警察長官は5位となり、いずれも予想を上回る順位に付けた。

残る3人は独立系で、野党候補は全滅。反ドゥテルテ派の議員は、改選前の6人から4人に減少した。「大統領の魔法だ」。政権の勢いは増す一方、上院が担ってきた大統領に対する監視や抑止の機能低下は免れない。

ドゥテルテ氏は2016年6月、大統領に就任した。インフラ建設を進める一方、違法薬物の撲滅を目指す「麻薬戦争」では少なくとも5千人が死亡。超法規的殺人が多数含まれるとして、欧米から批判を浴びている。また、中国に対し、南シナ海の領有権問題を棚上げして歩み寄った姿勢は国内からも批判を受けた。しかし、政権は高い支持率を維持し、中間選の直前には過去最高の81%に達した。

選挙戦で、野党は麻薬戦争や対中政策を政権攻撃の材料に使った。中間選挙であるため、物議を醸したテーマで論争を挑むのは王道だが、フィリピン大のジーン・フランコ教授(政治)は時事通信の取材に対し、「野党の戦術は機能しなかった」と分析する。大衆に響かなかったためだ。

ジーン教授は、20年余に及ぶ独裁政治を敷いた故マルコス大統領らのケースを例に出し、「歴史を振り返っても、大統領を権力の座から引きずり下ろしたのは人権侵害ではなく、けばけばしい蓄財だった」と指摘。ドゥテルテ氏は対照的に、国民の6割超に上る貧困層と同じ「庶民」だと思われており、それが高い人気を支えていると解説した。

長女の存在感

 フィリピンの大統領は1期6年間しか務められない。「マルコス独裁」への反省から、憲法が大統領の再選を禁じているためだ。このため、大統領は任期後半に「死に体」になりがちだが、ジーン教授は、今回は異なると指摘。理由の一つにドゥテルテ氏の長女サラ氏の存在感を挙げる。

 サラ氏はドゥテルテ氏の後を継いでダバオ市長に就き、やはり人気がある。加えて、一市長でありながら新党を立ち上げ、今回の上院選では13人を推薦。うち9人を当選させ、発言力を高めた。次回22年大統領選の有力候補者としても浮上した。
 ジーン教授は「出るか出ないかは二の次。サラ氏が22年に出馬するかもしれないと思わせるだけで、大統領の権力は衰えず、むしろ強まる」と説明。「実に賢い戦術だ」と付け加えた。

 ドゥテルテ大統領はこれまで、連邦制の導入などを訴え、憲法改正に意欲を見せてきた。議会によって事実上封じられていたが、圧勝した中間選を経て議論が進む可能性はある。本人は繰り返し意欲を否定しているものの、改正によって再選を解禁し、任期を延ばすこともできる。

 ※この記事は時事通信社の提供によるものです(2019年6月10日掲載)。

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