時事通信 特派員リポート

Vol. 06 【インド】所得税納税者、人口の1%―インド=16年ぶりに徴税データ公開(ニューデリー支局 出井亮太)

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インド政府が16年ぶりに公開した直接税に関する統計データが波紋を広げている。2012年度(12年4月〜13年3月)に所得税を納めたのは全人口のわずか1%程度で、高所得 者の多くが税金を納めていない実態が露呈したからだ。7%以上の経済成長を記録し、中国に代わる「世界経済のけん引役」と期待されるインドだが、あまりに低い徴税率に早急な改善を求める声が強まっている。

「脱税」まん延

「透明性確保に向けた大きな一歩だ」。モディ首相は4月29日、直接税の統計データ公表を受け、ツイッターにこう投稿した。
インド政府は00年を最後に、同データの公開を中止。しかし、今年1月、著書「21世紀の資本」で知られるフランスの経済学者トマ・ピケティ氏が「インドでは所得税に関する統計が極めて不透明だ」と批判したことがきっかけとなり、00〜15年度のデータ公開に踏み切った。
12年度の詳細データによると、同年度には全人口約12億5000万人のわずか2.3%に当たる約2870万人が所得額を申告。実際に所得税を支払ったのはさらに少なく、1%程度だったことが明らかになった。
また、同年度の年間所得が1000万ルピー(約1610万円)以上と申告したのは1万8358人、5億ルピー(約8億円)以上と申告したのはたった6人にとどまった。米経済誌フ ォーブスによれば、インドには15年時点で84人の「ビリオネア(億万長者)」がいるとされる。
地元紙ヒンズーは社説で「これらの統計数値は高級車や宝飾品、高額不動産などの売り上げ高と合致しない」として、高所得者による資産隠しや脱税がまん延している可能性を指摘した。

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直接税の統計データを公表したモディ首相(AFP=時事)

貧困層にしわ寄せ

詳細なデータが示されたのは12年度分だけで、「インドにおける格差の実態を明らかにするには、データが不足している」と指摘する声もある。ただ、経済専門家ビベック・カウル氏は「示されたデータを見る限り、インドはわれわれの想像よりはるかに貧しい国か、ほとんどの国民が所得税を納めていない国かのどちらかだ」と皮肉る。
インドの15年度直接税の税収は約7兆4300億ルピー(約12兆円)で、00年度と比較して約11倍に増加。ただ、国内総生産(GDP)比では5.47%と、6%近くあった08年度から低下した。
政府は財政赤字抑制を喫緊の課題に掲げ、直接税収入の減少を間接税の増税で賄おうとしている。だが、貧富の差に関係なく国民全体から満遍なく徴収される間接税の増税は、貧困層の生活を圧迫する可能性がある。カウル氏は「政府は貧困撲滅をうたいながら、中・高所得者層の大規模な『脱税』を見逃し続けている。間接税増税の前に、所得税の徴税システムを整備すべきだ」と語っている。

※この記事は時事通信社の提供によるものです。 (2016年5月9日記事)

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