時事通信 特派員リポート

【フィリピン】半世紀の紛争、集結へ着々=イスラム自治政府22年発足(マニラ支局 榊原 康益)

フィリピン南部のミンダナオ島などで半世紀近 く続いた紛争が、終結に向けて着々と前進してい る。イスラム教徒による2022年の自治政府樹立 を容認した法律に基づき、賛否を問う住民投票 が行われ、暫定政府も発足した。

三つのステップ

 フィリピンは国民の大半がキリスト教徒で、イスラム教徒は6%にとどまる。その多くは南部に住むが、政府がミンダナオ島にキリスト教徒の入植を進めたことに反発。1970年ごろ、独立運動が武装闘争に発展し、 万人以上が犠牲になったとされる。

 戦闘と停戦・和平が繰り返された 末年に当時のアキノ大統領が「バンサモロ(イスラム教徒の国)基本法」(以下「基本法」)の導入を表明した。

 既得権益を失う勢力の反対もあり、法成立は難航したが、 年にミンダナオ島ダバオ市が地盤のドゥテルテ大統領が就任。年7月に成立した。

 基本法によると、「自治政府」は議会制民主主義に基づき、独自の議会と首相、予算の立案・執行権を持つ。現在の「自治区」から権限が拡大すると見込まれる。年に発足する予定だが、それまでに三つの重要なステップが組まれた。

 一つ目は住民投票。基本法への賛否や自治政府へ加入するか否かを問うもので、1月と2月に対象地域で行われた。投票前日に裁判官宅で手投げ弾が爆発する事件は起きたが、混乱や大きなトラブルはなかった。

 投票によって領域が画定した。一部の自治体が加入を見送ったものの、自治政府の管轄下に入る住民数は約400万人に上る。

 これを受け、二つ目のステップに当たる「暫定政府」が2月下旬に発足した。自治政府が発足するまでの移行作業を担う組織で、自治区から業務を引き継いだ。

 トップの暫定首相には、最大の武装勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」のムラド議長が就いた。

正念場はこれから

 最終ステップは年に行われる通常選挙だ。現在までのプロセスは順調に進んできたが、今後の懸念や課題は少なからずある。まず、紛争に関わったイスラム武装勢力が一枚岩ではない。MILFの他に、モロ民族解放戦線(MNLF)、アブ・サヤフ、バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)、マウテなどが 存在。戦闘を続けている組織もある。

 「新政府」の管轄に入る地域では、基本法成立の 5日後に国軍関係者ら10人が死亡する爆発事 件が発生。住民投票の後にも教会のミサ参列者ら人超が死亡する爆弾テロが起きた。いずれもアブ・サヤフの犯行とみられている。

  MNLFの中には、基本法に同意していないグループがある。MNLFのミスアリ議長は3月、ドゥテルテ大統領との会談で、自治政府ではなく連邦制の導入を要請。「実現しなければ戦争を起こす」と脅したという。また、暫定政府のメンバーとして 2月末までに指名された76人中、MILFの出身者が40人に上ったのに対し、MNLFはわずか5 人にとどまり、不満を残した可能性がある。

 自治権拡大と引き換えの武装解除も大きな課題だ。総勢で3、4万人に上るとされる「戦闘員」には、普段は農業などに従事する民兵が少なからず含まれるとみられ、銃器の引き渡しは難航が予想される。

 暫定政府の統治能力も問われる。ムラド議長は武装勢力を率いてきたが、旧自治区の官僚を使いこなす行政手腕は未知数だ。地域全体の利益を考え、調整を図らなければならない場面は多々出てくるだろう。年紛争に終止符を打てるのか。正念場を迎えるのはむしろこれからだ。

 ※この記事は時事通信社の提供によるものです(2019年4月1日掲載 )。

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