時事通信 特派員リポート

【インドネシア】 第2期ジョコ政権、半年で正念場=看板政策が棚上げ(ジャカルタ支局 榊原 康益)

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インドネシアの第2期ジョコ政権が、昨年10月の発足から半年で早くも正念場を迎えている。大連立を組んで政権基盤を固め、投資環境改善や首都移転といった看板政策を押し進めたが、相次いで棚上げ状態に追い込まれた。新型コロナウイルスが足かせとなったものの、「強権」がひずみを生み出した側面も見逃せない。

勝負の「3年」空転

ジョコ大統領は再選が濃厚となった昨年4月、首都移転を突然表明した。「首都ジャカルタを擁するジャワ島に人口や経済活動が集中する現状を変えるためだ」と説明。8月に移転先をカリマンタン島と発表した。

今年2月には、税制関連法案や雇用創出法案を国会に提出した。インドネシアは人口2億7000万人という「魅力的な市場規模」を誇るが、海外からの投資は伸び悩んでいる。賃金の高騰と生産性の低さ、複雑な税制・法制や不透明な運用が原因だ。これらを改善する切り札として、日系企業も両法案に大きな期待を寄せていた。

ジョコ大統領の任期は2024年10月まで。3選禁止のため次の選挙を意識する必要がない上、最大野党を抱き込んだことで「第2期政権はやりたいことができる環境が整った」(外交筋)。ただ、任期の終わりに近づくと求心力が失われるため、「勝負は最初の3年間」(同)とみられていた。

順調に滑り出したが、新型コロナ感染拡大がブレーキをかけた。首都移転の開発と雇用創出法案の審議は4月に相次いで延期。感染防止策も他国と比べて後手に回り、収束が見通せない。時間との闘いの中で貴重な「3年間」を空転させている。

同じ轍

では、新型コロナウイルスが収束すれば元の軌道を走ることができるのか。

「首都移転は選挙公約になかった。大統領の野心を満たす、軽率な計画だ」。国立ジャカルタ大学のウベディラ講師(政治社会)はそう評した上で、「コロナ禍や経済悪化を考慮し、撤回すべきだ」と主張する。民間シンクタンク・インドネシア政治批評のウジャン事務局長も「首都移転は国民が望んだ計画ではない。政治家が残すべき遺産は(ハコモノでなく)政策であるべきだ」と説いた。

雇用創出法案も「民意軽視」の批判がつきまとう。審議の延期は、複数の労働組合が計画した大規模な抗議デモで感染が広がるのを避けるためだとされるが、「そもそも、労働者を排除して法案を作ったのが誤りだった」。両氏はそう口をそろえ、政府の強引なやり方が問題の根底にあると分析した。

「庶民派」として誕生したジョコ大統領は最近、強権志向が目立つ。「開発独裁」を敷いた故スハルト大統領と酷似し、「民主主義を後退させた」とも指摘される。ジョコ氏がかつて旗印の一つとした「汚職撲滅」はその一例だ。昨年9月に「汚職捜査機関を骨抜きにする」と批判された法律のスピード可決を容認すると、抗議デモが全国に拡大。1998年の民主化以来の規模に膨らみ、少なくとも5人が死亡した。

ウジャン氏は、「雇用創出法案の採決を強行すれば同様の混乱を招く」と警告。同じ轍(てつ)を踏まぬためには、労働者を交えた丁寧な政策論議が必要だと強調した。

調査機関インドバロメーターによると、ジョコ政権の「支持率」は5月に45.9%と過半数割れし、2月の70%から大幅に下落した。

※この記事は時事通信社の提供によるものです(2020年6月4日)

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