時事通信 特派員リポート

【シンガポール】解雇は外国人から=コロナ禍で「国民優先」台頭(シンガポール支局 新井 佳文)

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ビジネスフレンドリーな政策で国際企業を呼び込んできたシンガポールに異変が生じている。新型コロナウイルス流行で景気が冷え込み、雇用環境が劇的に悪化。政府は国民雇用を守るため「解雇するなら外国人から」(政権幹部)と露骨な排他主義に傾き、就労ビザ取得を難しくして外国人を締め出す姿勢を強めている。企業流出が懸念され、日系企業では日本人の雇用が困難となり、戦略再考を迫られそうだ。

外国人への不満噴出

国内人口約570万人のうち、外国人が4割を占める。発展のため、外国企業や人材を意欲的に取り込んできた。

しかし、コロナ危機で雇用環境が暗転すると、国民にくすぶってきた不満が表面化。「外国人材ばかりが社内で優遇され、高給をもらっている」といった声が吹き出した。

7月11日の総選挙でも、国民雇用優先を訴えた野党勢が支持を広げ、政府・与党は方針転換を迫られた。

その結果、政府が取り組むのが「シンガポーリアン・コア(国民中心主義)」政策だ。企業には、国民・永住者を中核にした人材構成にするよう要請。国民らを雇い続ければ賃金の最大75%を補助する一方、外国人比率が高い企業にはビザ発給停止をちらつかせ、アメとムチで企業に圧力をかけている。

「学歴フィルター」、早慶卒も降格

コア政策の一環で実施されたのが外国人就労ビザ「EP」の発給基準厳格化だ。4月までは、EP取得に必要な最低月給は3600シンガポールドル(以下ドル、約28万円)だった。5月から3900ドルに、9月から4500ドル(約35万円)に相次ぎ引き上げた。年齢に応じて上昇し、45歳だと8400ドル(約66万円)になる。外国人の人件費を割高にして、国民雇用をごり押しする構えだ。

「学歴フィルター」も厳格化した。学歴重視のお国柄なので、政府はビザ審査でも学歴に応じた取得基準を非公表ながら設けている。従来、日本の大学数十校は優遇枠に分類され、政府が定める最低月給でビザを取れた。

ところが人材紹介業JACリクルートメントの調査によると、優遇枠は最近、東大、京大、東工大のみに。それ以外の国公立大や早慶など有名私大は降格され、共通の最低月給より格段に高給でないとビザを取得できなくなった。30歳で6423ドル(約50万円)と、2年前に比べて1.5倍の昇給が必要になる。

地元民の昇給率は年2~3%程度で、外国人の人件費高騰が際立つ。社内で日本人だけ大幅昇給なら地元民との賃金格差が広がり、あつれきが生じるのは必至。JAC担当者はオンラインセミナーで「(企業は)人事・組織戦略を見直す必要が生じる可能性がある」と指摘した。

排他主義の台頭で、企業流出リスクが高まる。リー・シェンロン首相は演説で、ハブ(拠点)の座を維持するには「外国企業が歓迎されていると感じられる環境を保つ必要がある」と力説。ビジネスフレンドリーとの評判を損なわぬよう、過度の排他主義をいさめた。

※この記事は時事通信社の提供によるものです(2020年9月28日)

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