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タイの解雇と労働者保護法の改正案のポイント

タイの解雇と労働者保護法の改正案のポイント

はじめに

今回は、解雇の際の注意点と今後制定が見込まれる労働者保護法の改正案のうち解雇に関連するポイントを解説する。

1.解雇の注意点

解雇は、タイにおいて誰もが一度は頭を悩ませる問題といっても過言ではないだろう。解雇手続きに不備があると後に裁判沙汰になったりとやっかいな問題が生じる可能性があり、慎重に対応をする必要がある。

使用者として絶対に押さえておくべきは、「解雇は焦って実行しない」ということである。タイの法律上、解雇手続きとして、事前通知、解雇補償金の支払い、解雇の正当事由の存在等、充足すべき手続きや条件が多々あるからだ。主たる必要手続きに関する原則と例外は次の表の通りである。

特に、解雇の正当事由の存否は裁判で争点となることが多いため、裁判で不利にならないよう、案件毎に個別具体的な事情を勘案し十分に検討をしたうえで、正当と考えられる解雇事由を解雇通知書に記載することが重要となる。

2.試用期間中の解雇

見過ごされがちだが、試用期間中の労働者を解雇する場合でも、事前通知、解雇補償金の支払い、正当事由は必要となる。もっとも、解雇日が勤続119日以下の期間内に収まるようであれば、解雇補償金の支払いは不要である。また、試用期間中の労働者につき能力不足により不合格となったことを理由とする解雇は、正当事由が認められやすいという特徴がある。

3.業績悪化時の整理解雇

業績悪化を理由として整理解雇を実施する場合も、同様に、事前通知、解雇補償金の支払い、正当事由が必要となる。もっとも、正当事由に関して、整理解雇が必要な財務状況であったか、整理解雇の回避努力を講じたか、解雇対象者の選定は公平であったか等の考慮が重要となる。また、労働者への説明等の手続きも適切に実施すべきである。

4.解雇に関する改正案

2018年8月28日に国家立法議会(National Legislative Assem
bly)に提出された労働者保護法の改正案では、勤続20年以上の従業員を解雇する場合の解雇補償金につき、解雇時の賃金の400日相当分を支払わなければならないとする規定が追加されている。定年退職時にも解雇補償金の支払いは必要なため、勤続20年以上の労働者を雇用している使用者は注意が必要である。

また、事前通知の例外としての賃金の前払いを怠った場合の遅延損害金が、現在の年利7.5パーセントから年利15パーセントに引き上げられる予定である。

その他、ここでは詳細な説明は割愛するが、事業所異動に関する特別解雇補償金に関する改正案等も提出されている。本改正案は優先検討対象に分類されているため、早ければ来年の早い段階で施行となる可能性もあるようである。その場合には、重要な改正となるため、動向を注視していく必要があるだろう。


アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士  松本 久美
2014年に渡タイ後、One Asia Lawyers(バンコクオフィス代表)を経て、2017年よりアンダーソン・毛利・友常法律事務所所属。タイや東南アジア諸国における労務、不動産、企業法務や債権回収等の紛争解決を扱う。近年はアセアン全域の仮想通貨・ICO業務にも注力。

Contact: kumi.matsumoto@amt-law.com
URL: //www.amt-law.com

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