法務・会計・税務 2019.06月号

最新情報: 改正労働者保護法が 5月5日に施行

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従業員の賃金からの控除

はじめに

従前から話題に上がっており、2018年12月13日にタイの国家立法議会(軍事政権下でのタイの立法機関)で承認された改正労働者保護法(以下「改正法」という)が、2019年4月4日付官報に掲載され、2019年5月5日付で施行された。改正法では、法定の解雇補償金の最高額の引き上げがなされるなど、在タイの日系企業に影響のある重要な改正も含まれているため、本稿では改正法の要点について取り上げる。

1.改正法の要点表

改正法の要点は次の表の通りである。

2.改正法の要点に関する解説

⑴出産休暇
 改正前の労働者保護法(以下「旧法」という)では、労働者が取得できる出産休暇は一回の妊娠につき90日までとされていたが(旧法41条1項)、改正法により、98日まで延長された。また、改正法では新たに、出産前の妊娠に関する検査のための休暇も出産休暇に含まれることが明記された。労働者保護福祉局の担当官によれば、この出産前の妊娠に関する検査には、出産前の定期的な妊婦健診等が含まれるとのことである。

⑵用事休暇
 用事休暇とは、休日には対応できない役所での手続や冠婚葬祭への出席などのために労働者が取得することができる休暇である。
 旧法では、用事休暇は有給である必要はなく、また、その取得日数に関する規定もなく、用事休暇の取得の条件は就業規則の定めに従うことになっていたため(旧法34条)、実務上も用事休暇の日数等の条件については、就業規則で定められていることが少なくない。改正法では、使用者は労働者に対し年3日以上の用事休暇を権利として付与し、また、そのうち年3日までは有給としなければならないと定められている。

⑶使用者の変更
 旧法においては、合併(なお、タイでは新設合併のみ認められている)や事業譲渡等により、法人である使用者の変更があった場合、労働者の雇用契約上の権利義務は新使用者が引き継ぐこととされており、また、労働者の権利義務が引き継がれることに対して、特段労働者の同意が必要となる旨の要件は記載されていなかった(旧法13条)。改正法では、合併や事業譲渡等により、法人である使用者の変更があった場合に、労働者の権利義務を新使用者に引き継ぐためには、労働者の同意が必要とされることが明記された。

⑷解雇補償金
 使用者が労働者を解雇する場合には、原則として、労働者保護法に定められている金額以上の解雇補償金を支払わなければならない。解雇された労働者が受け取ることができる解雇補償金の最低金額は、労働者の勤続年数に応じた形で労働者保護法に定められている。

 旧法の下では、勤続10年以上の労働者に対する最終賃金の300日分の金額の支払義務が最も高額とされていた(旧法118条1項)が、改正法により、最も高い金額が適用される労働者に必要な勤続年数は20年以上へと変更され、その最低解雇補償金額も当該労働者の最終賃金の400日相当分の金額とされた。

 タイにおける解雇補償金の支払義務は、労働者の定年退職時にも発生するため、定年時に20年以上継続勤務していたことになる労働者を多く抱える企業は、特に注意が必要である。

⑸事業所移転に関する特別解雇補償金
 旧法では、使用者が事業所を新たな場所へ移転させ、かつ、これに伴う労働者の異動により労働者または労働者の家族の通常の生活に対し重大な影響が生じる場合、労働者は新事業所への異動を拒否し雇用契約を解除することができるとされていた。また、この場合、使用者は新事業所への異動を拒否した労働者に対して、法定の解雇補償金以上の金額の特別解雇補償金を支払う義務を負うものとされていた(現行法条120条1項)。

 改正法では、上記特別解雇補償金の支払対象を拡大し、新規事業所へ移転する場合のみならず、既存の他の事業所へ移転する場合においても、特別解雇補償金の支払義務が定められることになった。なお、労働者保護福祉局の担当官に問い合わせたところ、改正法により追加された既存の他の事業所への移転とは、旧事業所における事業の一部又は全部を廃止し、その廃止した業務を既存の他の事業所に移転させる場合を想定しており、事業廃止を伴わない場合は同条の適用外とのことである。

3.最後に

 上記に記載したとおり、改正法には、在タイの日系企業の業務にも影響するような変更点も少なくない。特に、解雇補償金に関する最高金額の引き上げについては、退職引当金への反映等が必要になってくることが想定され、また、出産休暇や用事休暇などの休暇規定の改正に伴い、現在利用している雇用契約書、就業規則や社内規則の見直しが必要となろう。

 上記書面の見直し等は、法律が正に改正されたタイミングで行わなければ、必要な変更を行う機会を逸する事態にもなりかねないため、ぜひこの機会に社内において必要な見直しが行われることが推奨される。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士  松本 久美

2014年に渡タイ後、One Asia Lawyers(バンコクオフィス創立代表)を経て、2017年よりアンダーソン・毛利・友常法律事務所所属。タイや東南アジア諸国における労務、不動産、企業法務や債権回収等の紛争解決を扱う。近年はアセアン全域の仮想通貨・ICO業務にも注力。
URL: http://www.amt-law.com/
Contact: kumi.matsumoto@amt-law.com

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