知らなきゃ損する!タイビジネス法務

タイにおける定時株主総会

インテリジェンス・リレー連載

はじめに

2019年は、日本では新天皇陛下が即位され、タイでは新国王が戴冠された、いわば節目の年であった。そんな19年が終わり、新たな1年を迎えた。20年第1回目の本号では、タイの「定時株主総会」について解説する。タイの事業年度締めは12月末とされることが多く、新年度が開始された企業も多いと思われるので、ぜひ参考にされたい。

定時株主総会の決議事項

タイにおける一般的な定時株主総会の議題は、民商法典(以下「法」という)及び慣習に従えば、以下の通りである。

1 前回の定時株主総会の議事録確認
2 営業報告書の承認
3 決算報告書の承認
4 任期満了に伴う取締役の退任及び選任
5 取締役の報酬
6 会計監査人の選任
7 会計監査人の報酬

1つ目の「前回の定時株主総会の議事録確認」は、法令上要求される性質のものではないが、タイの株主総会運営上、慣習的にこの議題が設定される場合が多い。前回の議事内容を確認することで運用上の誤りを防止する趣旨であろう。

4つ目の「任期満了に伴う取締役の退任及び選任」は、日本と制度上の差が大きい。タイでは、毎年全取締役の3分の1(またはそれに最も近い人数)の取締役が、任期満了として退任しなければならないとされる。3分の1が毎年退任し、3年で全取締役が任期満了を迎えるため、タイの取締役の任期は最長3年であると考えて良い。また、設立まもない会社の場合、設立後1年目及び2年目に退任する取締役は原則として抽選で決定する。

5つ目の「取締役の報酬」は、実務的に失念される場合があるので注意を要する。日本同様、取締役の報酬は株主総会によって決定されるため、毎年の定時株主総会でこれを決議する。なお、この際の決議は、取締役全員の報酬総額の上限を決定すれば足り、例えば「本年度の当会社取締役に対する報酬は年額○万バーツ以内とする」などとすれば足りると考えられる。

定時株主総会の開催・運営方法

株主総会の招集は、新聞広告と招集通知の郵送によって行う。新聞広告は日本には見られない制度だが、タイでは、このような通知等を掲載することに特化した一定の新聞広告事業者が存在し、日本でいうところの官報のような役割を果たしている。

株主総会は、出席株主による保有株式が会社株式の4分の1以上であれば、定足数を満たすものとして有効に成立する(法1178条)。日系企業ではテレビ会議等の利用ニーズが高いが、現在のところテレビ会議等による出席は極めて限定的に認められるに過ぎず、原則としてテレビ会議等では適法な出席にはならないので注意を要する。

日本と異なり、タイでは原則として出席株主が1人につき1議決権を持つ挙手投票制である。議決権数に基づく決議を採用したい場合は、定款にその旨記載するか、2名以上の株主が議決権数に基づく決議を要請する(法1190条)。

また、タイでは株主総会の議長に重要な役割が与えられており、賛否同数の場合は、議長が最終的な決定票を投じることができるとされている点も、相違点として注意しておくべきであろう(法1193条)。


GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士 藤江 大輔
2009年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

URL: https://gvalaw.jp/global/3361
Contact: info@gvathai.com

gototop