法務・会計・税務 2020.03月号

インテリジェンス・リレー連載  知らなきゃ損するタイビジネス法務 タイにおける 増資の手法

インテリジェンス・リレー連載 知らなきゃ損するタイビジネス法務 タイにおける増資の手法

はじめに

 前回は、タイの非公開会社の定款について紹介した。今回は、タイの民商法典の中でも特徴的な「増資」について取り上げる。

 タイでの増資手続きは公開会社と非公開会社で異なるが、今回は在タイ日系企業にとって関心が高い、非公開会社の増資手法について説明する。

日本における増資手続き

 まず、日本における非公開会社の増資では、「株主割当増資」と「第三者割当増資」という2種類の方法が想定される。

 株主割当増資とは、既存株主に対して新株式を引き受ける権利を与えて行う増資をいう。簡単に説明すると、まず会社が持株比率に応じて、既存株主に新株式を引き受ける権利を与え、それらの株主が引き受ける旨申し込めば、新株式が発行されるという仕組みである。

 これに対して第三者割当増資とは、既存株主であるか否かを問わず、特定の第三者に対して、新株式を引き受ける権利を与えて行う増資をいう。つまり、株主割当増資は自社の既存株主に対してのみ新株式を付与できるのに対して、第三者割当増資は既存株主以外の者に対して新株式を付与できるという違いがある。

 日本の非公開会社において、増資と言うと第三者割当増資を指す場合が多い。例えば、取引先との連携強化のために資本提携する場合などは、特定の第三者による新株引き受けが想定されていることが多い。

タイで第三者割当増資は不可

 これに対してタイでは非公開会社に関して、第三者割当増資という手法が法律上用意されていない。つまり、タイの非公開会社は既存株主に対してしか、新株式を発行できないことになる。

 しかし、タイにおいても第三者に資本参加してもらうニーズは存在する。その場合は、やや迂遠にはなるが、株主割当増資の方法を利用してこれを実現することになる。

 株主割当増資は、会社が既存株主に新株式を引き受ける権利を与え、既存株主がそれを引き受ける旨の通知をすることで新株式が発行される。他方、一部の株主が「引き受けない」旨の通知をすれば、その分の新株式は他の株主に引き受けてもらうことができる。つまり、新株式を一部の株主に集中させることが可能になる。

タイで第三者割当増資を行う方法

 タイにおいて第三者割当増資を実現する場合は、この仕組みを利用する。つまり、まず株主になってもらいたい第三者(以下「X」という)に対して、あらかじめ株式を1株以上譲渡する。これによってXは既存株主として扱われる。その後、会社が株主割当増資を実施すれば、Xも株式を保有しているため、増資手続きに参加することができる。

 そして、増資プロセスの中で、会社はⅩを含む既存株主全員に対して、持株比率に応じて新株式を引き受ける権利を与える。この段階で、X以外の他の既存株主が新株式の引き受けを拒否する旨を会社に通知すれば、そこで引き受けられなかった株式を、Xに集中させることができる。つまり、Xが新株式のすべてを引き受けるという形が実現する。

 タイの実務上、第三者に対して株式を引き受けてもらうならば、この方法によって第三者割当増資と同様の増資が可能である。しかし、やはり迂遠であることは否定できず、今後の法改正による解決を期待したい。

藤江 大輔
GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士 藤江 大輔

2009年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

URL: https://gvalaw.jp/global/3361
Contact: info@gvathai.com

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