【連載24回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記 “タイの経理現場より”

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タールア社編(第3回)「書類の山」

【前回までのあらすじ】
~タールア社タイランドの中心人物と思しき角さんから差し出された謄本をみると、どうみても署名権者3人ともタイ国外に在住している。折をみて変更してもらうつもりでいたが…~

「まだ登記が完全に終わっていないようなので、法人設立を頼んだコンサルティング会社との打ち合わせに同席してもらえないでしょうか?」。
角さんと打ち合わせをして間もない頃、こんな打診があった。
特に断る理由はないし、実態がどうなっているのか知るためにも進んで同行してみることにした。
打ち合わせの中身はどうということもなく、署名権者がタイに常駐していないため、各種登録関係の署名をEMSなどでやり取りされており、余計に時間がかかっている、ということのようだった(※1)。
タールア社の場合は、井勃さんがエンジニアも兼ねて現場指揮を担うとのことだが、何せ署名権を持たないのでこういった署名行為ができず、せいぜい銀行の署名権を持つことができるくらいである。この時は設立の最終段階でもあったため、大野さんがシンガポール法人から来タイしており、その大野さんに同行させてもらった(※2)。
この時も署名権の話はその場に出てすらおらず、何よりもまず会社設立を最優先という進め方だったので、こちらからもその後の署名権者の変更については触れずじまいだった。
そうは言っても、会社設立後すぐに事業が形にならなくとも、事務所賃貸料や人件費などの諸経費は少なくとも毎月発生する。タイでは税金の算定において『税額票方式』という基準が採用されており、思ったよりも事務作業に手間がかかることは既にご存知の方も多いだろう(※3)。
日本人MDが時間に忙殺されるなか、「タイ語で書かれていてよく分からないから、ほとんど盲でサインしているよ」とつぶやかれることも多い、税金関係らしき経理書類がわんさか回ってくるあの書類の山のことである。
こういった邪険にも扱われがちな書類がたんまりと待っているという現実に、ほとんどの日本人MDが直面する。会社設立後に日本ではハンコを押せば済むようなものがそうは問屋が卸さず、パスポートのサイン がフルネームであれば、それと同じフルネームでのサインが必要な大量の書類が間髪入れずに襲いかかるのだ。
そう、まるでそこに意味を求めてはいけないと言わんばかりの量の書類が。 ( 次回に続く)

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

(※1)
タイでもEMSが普及しており、追跡記録も残り便利ではあるが、これだけで完全に済ませるには実務上の不便さが免れえない。
税務書類の確認と申告書類作成を、外部に委託した場合でも内製化している場合でも、原則として、申告期限が月末締の翌月7日と15日迄に署名が整った書類を揃える必要がある。通常、事業を運営している法人にとってはなかなか手ごわいスケジュールだ。
一方で昨今はインターネットによる申告手続きも普及してきており、申告書類へ署名する書類も確かに減少してきている。とはいえ、各種手続きの変更などでは、日常的に署名が求められることも多いため、やはり常駐で署名権者がいる方が内部統制として好ましい。
(※2)
登記上で署名権がない、あるいは取締役でない人でも、銀行や支店によっては届出署名として登録が可能である。もっとも、会社として正式な取締役会で合意を得たという証明などが必要となってくる。
(※3)
最近では日本でも、消費税等税率改訂に向けた軽減税率の話題で目にするようになった『税額票方式(Tax Invoice発行方式)』だが、ASEAN各国においては一般的だ。いわゆるこの税額票を発行することが、間接税処理時の仕入税額控除などに必要な要件となってくる。取引毎に発行が必要なため、多くの現地法人のタイ人スタッフが、アドミンや経理スタッフとして日々発行業務に従事している。

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Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、
顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan@aporter.co.th
http://aporter.co.th/

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但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

 

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