【連載28回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

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タールア社編(第7回) 「はじまらない、自律的な運営」

【前回までのあらすじ】 ~署名権者がタイ不在で、日本の社長からタイ人スタッフ個人口座に一度送金することで税金を納付していたタールア社。「社長の支払い承認が間に合わない」と泣きつかれ、一度は立て替えたものの…~

「え~っ!またですか!?」
「社長が忙しいもので…。あと、うちのほうも書類を揃えて送るのが遅いようで…」。 「来月、ちょうど日本本社経理の谷木さんのところへ行く用事があるので、井勃さんに登記上の署名権を持ってもらうよう打診してみますよ」。
そう、やはり一番の解決策は、タイ法人で現場を預かる井勃さんが、現地法人の取締役として署名権を持ち、自律的な運営をしていくことなのだ。
早速その翌月、本社経理の谷木さんに打診してみるも、「あぁ…、うちの社内人事としては功績や経験がない人にそれほどの権限を、ましてや現地法人とはいえ、取締役にするというのは抵抗感が…」と返されてしまった(※1) 。
他社の社内人事マターにはさすがに口出ししづらい。 しかし、それによって失われる機動性や当社での対応の限界などまで案内することで、書類のフローなどを現場で改善し、とにかく早く承認してもらうということで、この時は話を終えた。
そしてその翌月。「すいません、またなのですが…」と、今度は井勃さんでなく、当社スタッフが言ってきた。井勃さんも言いにくかったのかもしれない。サリーさんから当社スタッフ経由で税金納付の依頼があったのだ。
さすがに毎回立替えるわけにもいかず、それが癖になってもらっても困るので、「今回の納付が間に合わなければ、次回の納付期限となり、ペナルティがこれくらい発生しますよ」という案内をした。当社に納付代行という形は残るものの、先にタールア社から当社に振込してもらい、その後、その資金で納付という方法で落ち着いた。
考えてみれば当たり前のことだ。それに取引額が大きくなってきていたため、発生する売上VATの金額も馬鹿にならず、タールア社に対する当社報酬の2倍を超えていた。日本本社の谷木さんにも「与信行為を当社が供出していることになり、通常の取引ではありえない」ことを伝えると、ようやく真剣に考え始めてくれた。
その後、タールア社の事務所がレンタルオフィスから自前のオフィスに移転することが決まり、住所変更登記のタイミングで、ようやく井勃さんのタイ現地法人取締役の登記が認められた。めでたしめでたし…。と思いきや、アドミニストレーション業務の要人を務めていた、サリーさんが辞めるとの一報が。
そして、後任のジャスミンさんに同じ件で振り回されることになるのだ…(※2)

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の 変更等、脚色部分があります。

(※1) 日本の組織統制の考え方をそのままタイでも当てはめようとし、あくまでも本社直轄の権限で統制しようという企業が稀にある。駐在員事務所や支店ならまだしも、現地法人という形でタイで法人登記して活動する以上、その法人格はタイの法律や実務に基づいて認められているものであり、本来、当然ながらタイでの事業活動を中心に想定した統制、つまりは現地法人への権限委譲が必要となる。 さらに、できれば独立採算できることが望ましいが、赴任者や出張者のコスト負担などをそれなりに考えると、最初の頃は仕方がないかもしれない。しかしその場合も、日常業務についてはなるべく決裁責任者を置き、権限者が定期的に日本から、権限行使のためだけに頻繁な出張に来るというのは運用上避けたいところである。
(※2) 「引継ぎ」という概念ほど、タイで希薄なものはないだろう。日本の企業文化では、社内異動時であれ退職時であれこの「引継ぎ」というものは、誰も何も言わなくても必須のプロセスだ。ところが、少なくとも個人的にはタイで引継書なるものを見たことはなく、聞いたこともほとんどない。上席に着く人間は担当者が変わる時、そもそも引継ぎがないことを前提に、細心の留意が必要である。

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Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan@aporter.co.th
http://aporter.co.th/

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但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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